長期入居は安定した賃貸経営につながる
賃貸経営における最大のリスクは空室リスクです。いったん空室が生じると、次の入居者が住み始めるまでには、時間を要します。なぜなら、退去の手続きやホームクリーニングなど、新しい入居者を迎え入れる準備期間(1~3か月)が必要だからです。もちろん、その間の家賃収入はありません。そのため、更新ごとに退去する入居者が多いと、慌ただしいうえに収入や広告費などのロスも多くなると言えます。
退去の時期が賃貸ニーズの高い時期であれば、次の入居者を見つけるまでの期間もさほどかからない可能性がありますが、賃貸ニーズの低い時期であれば、空室が長期に渡ってしまう可能性も考えられます。そのため、できる限り長期に渡り住んでもらえる入居者というのは、安定した賃貸経営を行うために大切な存在と言えます。
賃貸物件の平均居住期間はどれくらい?
できる限り長期に渡り住んでもらいたいとはいうものの、どれくらいの居住期間が一般的と言えるのでしょうか。第22回 賃貸住宅市場景況感調査 『日管協短観』(2019年4月~2019年9月)のデータを参考にしてみましょう。
世帯 | 平均居住期間のボリュームゾーン |
---|
学生・単身世帯 | 2~4年 |
---|
ファミリー世帯 | 4~6年 |
---|
高齢世帯 | 6年以上 |
---|
世帯構成によって平均居住期間は異なります。現在所有する賃貸物件の入居者層はどの世帯に当てはまりますか?そして、平均居住期間を算出して、一般的な居住期間と照らし合わせて、現状を把握してみましょう。
長期入居に繋げるためにはじめにすべきこと
更新ごとに転居をすると、新たに賃貸物件を借りるための初期費用(敷金、礼金、仲介手数料など)にくわえて転居費用が必要となります。そのコストは、決して小さいものではないため、入居者としてもできるだけ長く住みたいと考えるのが一般的でしょう。もちろん、進学期間の終了、転勤、結婚など、やむをえない理由で退去するケースもあります。問題は「物件に不満があるから退去をする」という入居者をいかにして生まないかというところにあります。
長期に渡り住んでもらうためには、まず現状把握が先決です。そのうえで、基本的な空室対策を行いましょう。また、入居者ニーズは入居者に聞いてみるのが早道。たとえば入退去者アンケートなどで意見を収集し、空室対策に生かすのも一案です。
家賃調査
周辺の類似物件と比較して、家賃設定が適切かどうかをチェックしてみましょう。インターネットの賃貸物件検索サイトを利用したり、日ごろお世話になっている不動産会社や管理会社にヒアリングをしたりするのもよいでしょう。
競合調査
周辺の類似物件と比較して、設備やサービスが入居者ニーズを満たしているかをチェックしてみましょう。どのような設備やサービスに人気があるかについては、入退去者アンケートや日ごろお世話になっている不動産会社や管理会社から意見収集をしてみるとよいでしょう。
入居者アンケート
入居時に、物件の第一印象や物件を気に入った点、決め手となった点、どれくらいの期間入居希望なのかなどをアンケートに回答してもらい、物件の強みとなる点を再確認します。また、定期的に入居者に向けてもアンケートを行い、現在の物件に対する問題を意見収集するのもよいでしょう。表面化していない不満への対策を講じれば、退去者を防ぐことにもつながります。
退去者アンケート
退去者アンケートに回答してもらい、退去理由のほか、改善点やあったらいいと感じる設備やサービスなどの意見収集を行いましょう。設備やサービスの改善点のほか、隣戸とのトラブルの有無などの意見をもらえるので、空室対策を講じる際に役に立つでしょう。
このように、さまざまな現状把握の方法がありますが、収集した情報を踏まえた空室対策を講じなければ、対策のピントがずれてしまう可能性もあります。入居者に長く住んでもらうためには、まず現状把握が大切なのです。
入居者のタイミング別の空室対策アイデア
現状把握をしたうえで、入居者に対してどのようなアプローチを行えばよいのでしょうか。既存入居者および入居検討者、それぞれに向けてのアプローチのアイデアをご紹介いたします。
既存入居者へのアプローチ方法
既存入居者の表面化していない不満を早期に把握して、退去の意向に変化するのを防ぐためのアプローチとして、以下のようなものが挙げられます。
住みやすい環境を整える
賃貸物件の共用部分やその周辺をこまめに清掃すると、住みやすい環境を提供できるだけでなく、大家さんまたは管理会社のスタッフが入居者と顔を合わせる機会が増えます。それによって、入居者に安心感を与えることにもつながります。また、入居者としても、設備の不具合や入居者間トラブルなどの不満を伝えやすくなります。設備のメンテナンスや入居者間トラブルの解消などに速やかに対応すれば、入居者の安心感はさらに向上するでしょう。
更新タイミングの前に入居者アンケートをとる
前段でご紹介した入居者アンケートを、更新のお知らせをするタイミングで行ってみましょう。表面化していない不満を知り、改善することで、転居を防げるかもしれません。
長期入居特典を付ける
入居年数に応じて、更新のタイミングでプレゼントを用意するのも一案です。更新の時期が楽しみになりますし、入居者を大切に考えてくれる大家さんというイメージを持ってもらえるでしょう。
設備を拡充する
入退去者アンケートなどで「あったらいいいな」と回答のあった設備、または最近の人気設備を導入するのも1つのアイデアです。最近、人気のある設備には、「室内洗濯機置き場」、「TVモニター付きインターホン」、「インターネット無料」などが挙げられます。入居者のニーズを確認しながら、導入を検討してみましょう。
入居検討者へのアプローチ方法
入居時に「長期に渡って住みたい」と思ってもらうためのアプローチとして、以下のようなものが挙げられます。
フリーレントの設定
フリーレントとは、「入居後、一定期間の家賃が無料」となるものです。フリーレントの期間は1か月程度が一般的です。入居時、入居者は前家賃や敷金・礼金・仲介手数料などの初期費用のほか、転居費用も含めると大きなお金の負担が必要となります。フリーレントの物件は、その初期費用を抑えられるため、入居者にとって魅力的に映ります。
フリーレントの物件の賃貸借契約では、所定の期間より短い期間で退去した場合には解約違約金の支払義務を課す特約条項を盛り込むのが一般的です。契約書の吟味は必要ですが、フリーレント物件にすることで、1か月程度の家賃を無料にする代わりに、長期入居につながりやすいと言えます。
長期契約の設定
一般的には賃貸借契約を2年間としているケースが多いでしょう。その契約期間を4年契約とするなど、入居時に長期契約を締結するという方法もあります。この場合、期間内の解約条件(違約金、敷金精算など)をどのようにするか、不動産会社や管理会社と相談した上で契約書を作成しておきましょう。
条件の緩和
入居者要件を緩和するというのも一案です。たとえば、「ペット可」物件にした場合、犬や猫と暮らしたい人にとっては魅力的な物件に映るでしょう。そして、ペット可の物件数は少ないため、長期入居につながりやすくなると言えます。もちろん、敷金の見直し、ペットの鳴き声、臭いなどによる入居者間トラブル、既存入居者の許諾など、条件緩和の前に考えておかなければならない点は多々ありますが、検討の余地はあるでしょう。そのほかにも2人入居を認めたり、セーフティネット住宅としたり、外国人や高齢者の受け入れをしたりなど、条件緩和の選択肢はさまざまです。
いずれのケースも費用対効果を見定めてから判断することが大切
ご紹介したアプローチ方法を検討する際に、見逃してはならないのはコストバランスです。費用対効果、を見定めたうえで、導入または実行の判断をすることが大切です。
繰り返しになりますが、まず行う必要があるのは、現状把握です。物件の強みや競合物件の状況、そして入居者の意見を把握したうえで、どの方法が効果的であるか、検討されるとよいでしょう。また、ご紹介した方法の中には、契約内容の見直しや、既存入居者への説明などが必要になることもありますので、留意しておきましょう。
まとめ
今回ご紹介したアイデアには、大家さん自身でできることもあります。しかし、中には管理会社の協力を仰ぐ必要がある方法もありますが、管理を委託している管理会社に相談をもちかけても、対応を渋られるケースもあるかもしれません。その場合は、ほかの管理会社にも相談を持ち掛けてみましょう。
大家さんには、賃貸経営者として入居者満足を高めて、経営を安定させる務めがあります。その大家さんニーズに親身に応えてくれる取引先を見付けるのも、経営者としての大家さんの役割です。長期入居の対策検討を、管理会社との付き合い方を再考するきっかけにしてみるのもいいかもしれません。
監修キムラ ミキ
【資格】AFP/社会福祉士/宅地建物取引士/金融広報アドバイザー
日本社会事業大学 社会福祉学部にて福祉行政を学ぶ。
大学在学中にAFP(ファイナンシャルプランナー)、社会福祉士を取得。
大学卒業後、アメリカンファミリー保険会社での保険営業を経て、(マンションデベロッパー)にてマンション営業、マンション営業企画に携わった。
その後、2008年8月より独立し、現在、自社の代表を務める。
URLhttp://www.laugh-dessin.com/
●紹介されている情報は執筆当時のものであり、掲載後の法改正などにより内容が変更される場合があります。情報の正確性・最新性・完全性についてはご自身でご確認ください。
●また、具体的なご相談事項については、各種の専門家(税理士、司法書士、弁護士等)や関係当局に個別にお問合わせください。