ADとは、客付けの方法として大家さんから仲介会社へ支払う広告費のことを指しますが、入居者との契約成立時に支払う仲介手数料とはまた別のものになるため、大家さんの負担が増えることは否めません。一方で、客付けに効果があることも事実で、広告費を支払う場合は、計画的に採用する必要があります。この記事では、空室対策のためにADを検討している方々に、基礎知識や費用相場など、注意点も含めながらお伝えしていきます。
仲介会社へのADって何?
客付け業者(入居希望者を物件に案内したり、希望者からの申し込みを受けたりする業者)に支払う広告費を総称してADと呼びます。仲介会社としては、入居希望者がADのある物件を契約した場合、物件の仲介手数料とは別に、大家さんからADを受け取ることができるため利益が上がりやすく、ADなしの物件に比べて客付け活動を熱心に行う傾向にあり、物件の成約率が上がりやすいのが特徴です。
ADと仲介手数料の違い
大家さんが、仲介業者に物件の仲介を依頼した場合には仲介手数料を支払います。ADとは、この仲介手数料とはまったく別のものになりますが、この2つはどのように違うのでしょうか。仲介手数料は仲介業務そのものに対する手数料であり、宅地建物取引業法では、その金額は「家賃の1か月分」が上限であると定められています。
仲介手数料は、
・大家さんと借り主のどちらかから受け取るケース |
・大家さんと借り主の両方から受け取るケース |
などがありますが、いずれの場合も「トータルで家賃の1か月分」が上限です。
国土交通省で定めるAD
いっぽうで、国土交通省は、
「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額」の第九において、「ただし、依頼者の依頼によって行う広告の料金に相当する額について」は、仲介手数料とは別に受け取ってもかまわないことも定めています。
この規定により受け取る金額がADと言われるものですが、ADには法的な上限の定めがなく、仲介業者と大家さんの話し合いで決めることになります。
ADの相場
このように、ADには法律的な上限の定めがありませんが、一般的な相場はどのくらいなのでしょうか。就職や進学、転勤などで人の動きが激しく、賃貸ニーズが高い季節(1~3月頃)はADを設定しなくても空室が埋まりやすいです。この時期はADの相場も低く、ADを設定しない物件も多くあります。逆に、人の動きが少なく空室が埋まりにくい時期は、ADの相場も上昇します。多くの場合は家賃の1~2か月分を設定します。
人口の流入が多い都市部と、流出が激しい郊外では、前者のほうが入居者は決まりやすく後者は決まりにくいです。ADの相場も都市部では安く、郊外では高めの傾向です。郊外の物件のほうが都市部に比べて家賃も安いため、仲介業差が受け取る仲介手数料も安いです。ADを設定するかしないかで、仲介業者の熱意も変わる可能性があります。
ADを催促する仲介会社には要注意
先ほどもお伝えした
「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額」によると、依頼者の依頼によって行う広告の料金に相当する額については、受け取ることができるとされています。
とはいえ、一般的な広告費や販売活動にかかる費用は、仲介手数料に含まれるとされています。依頼者が特別に広告をして欲しいと依頼した場合について、仲介会社はADを受け取ってもいいという位置づけです。
仲介手数料を支払う前に確認すること
仲介手数料を強硬に催促された場合は、
・どのような広告活動を行うのか |
・その活動が一般的なものでなく「特別」と考えられる理由は何か |
・なぜそのような広告活動や費用が必要か |
を確認した上で支払うほうがいいでしょう。
ADを催促する仲介業者に注意
入居者がなかなか現れず空室が続くと、家賃収入が得られないまま固定資産税やメンテナンス費用だけがかかるので、ADをつけてでも早く入居者を探してもらうほうがいい場合があります。しかし、多額のADを負担しなくても入居者が決まりやすい時期やエリアで、やたらとADを催促する仲介業者には注意が必要です。
・必要のないADを支払わせ、儲けることだけを考えている |
・ADの一部を自社の懐に入れるような約束を客付け業者とかわしている |
・営業担当者が個人の懐にADを入れようとしている |
本当にADが必要な物件かを検討し、仲介会社からも納得のいく説明を受けた上でADを設定するか決めましょう。
ADケーススタディ
ADをつけることにはメリットもありますが、賃貸経営にかかわる支出が増えるということでもあります。ADをつけるべきケースとはどのような場合でしょうか?また、ADをつけずに他の方法を検討したほうがいいのは、どのようなケースでしょうか?
ケース1 郊外などADをつけるのが当たり前の地域
都市部に比べて、郊外では賃貸ニーズが少なく、客付け業者に熱心になってもらわなければ空室が埋まらない時代です。多くの大家さんがADを設定しているエリアでADをつけない選択をすると、客付け業者はほかの物件を優先します。ライバル物件の多くがADをつけていると予想されるなら、自身の物件にもADはつけたほうがいいでしょう。
ケース2 2か月以上も内見者がいない場合
内見者がいない物件は、客付け業者が熱心になっていない物件なのかもしれません。2か月以上経っても内見者がない場合は、それまでつけていなかったADをつけたり、ADを上乗せしたりして状況が変わるかを見極めましょう。
内見者がいない理由として、家賃が高すぎる、立地条件が悪すぎるといった要因も考えられます。立地条件は変更することができませんが、家賃を下げる方法でも内見者が現れる場合はあります。1か月の家賃を5,000円下げた場合、入居者が現れてから契約更新までの2年間で家賃収入は12万円のマイナスになります。いっぽう、家賃7万円の物件で、ADを家賃の1か月分とすれば7万円、2か月とすれば14万円の支出です。
将来の家賃収入は下がるけれど、特別な支出をせず現金を手元に置いておくほうがいいか?手元の現金をADとして支出し、後に家賃として回収するほうがいいか?資金繰りの方法を考えながらADを設定しましょう。
ケース3 人の動きが大きく賃貸ニーズが高まっている時期
1~3月頃は、入学・入社・転勤などのさまざまな事情で賃貸ニーズが高まる時期です。この時期は、ADを付けなかったり、ADの金額を低く設定したりしても客付けがうまくいく場合が多いです。特に、都市部や学生街などに位置していて、ニーズの高まりが期待される物件ならADをつけなくてもいいでしょう。
ニーズが高い時期にもかかわらず、空室のままになってしまうなら、ADではなく物件そのものに空室の原因があるのかもしれません。
ケース4 入居者ニーズに合うリフォームで空室率が改善できる場合
物件の情報を見て内覧を希望する人はいるのに、なかなか入居してくれる人がいない。このような場合、物件の設備や共有スペースなどに問題があって敬遠されている可能性があります。ADをつけても設備などが改善されない限り、同じ状況が続くでしょう。
まず、修復すべき箇所は修復し、入居者ターゲットに合う設備に入れ替えるなどのリフォームをしましょう。リフォームで物件の快適性が上がれば入居率アップが期待でき、さらに、長期的に住み続ける入居者も増え、安定経営が期待できます。
ADをつける際の注意点
ADをつけることの目的は、空室率を改善することにあります。そして、空室率を改善するのは収益を上げるためです。この目的を忘れてしまうと、「どのくらいADをつけるべきか」「AD以外にやるべきことはないのか」を見誤ることになります。
ADをつけるタイミング
そもそもADをつけるべきかは、次の条件により変わります。
・賃貸の閑散期、繁忙期のいずれか? |
・物件が都市部にあるか、郊外にあるか? |
・内見を希望する人がいるか、いないか? |
当初設定したADでなかなか内見希望者が現れず、空室が続いているという場合は、ADを家賃0.5~1か月分ほど上乗せして様子を見る方法もあります。ただし、内見する人はいるのに契約する人が少ない場合は、物件そのものに何らかの問題があると考え、清掃やリフォームなどに力を注ぐのが先決です。
ADを増やして2~3か月以上が経っても空室が続いている場合は、そもそも家賃設定に無理があったり、賃貸ニーズのないエリアの物件だったりするという可能性があります。ADを上乗せするよりも、家賃や敷金・礼金を見直すなど、他の条件を見直しましょう。
支払う金額
多額のADをつけて空室を埋めることができたとしても、投資したAD分の回収がままならなければ、賃貸経営の収益はマイナスとなります。これまでの空室実績を振り返り、ADをつけずに入居者募集を続けた場合の空室期間を予想してください。たとえば、ADなしで2か月の空室期間が予想される部屋なら、ADを2か月分程度で設定し、早くに入居者が見つかれば収益をプラスとすることができます。
ADの支払先
ADは本来、客付け業者に支払われるものですが、大家さんが客付け業者に直接支払いをするのではなく、管理会社を通して支払う場合もあります。その場合は、ADがきちんと客付け業者に支払われているかどうか確認しましょう。中には、大家さんが支払った家賃2か月分のADを、「管理会社が1か月分、客付け業者が1か月分」のような形でとっている場合があるかもしれません。
このような事態になれば、大家さんが期待する客付け会社のモチベーションと、客付け業者の活動の差異が大きくなるかもしれませんので、ADがきちんと客付け業者に支払われているか確認しましょう。
まとめ
仲介手数料のほかに、客付け業者にADを支払う約束をすることで、入居者が早く決まり空室率改善につながる可能性がありますが、賃貸ニーズが高い地域や、人の動きが激しい時期などは、ADの必要性は低いでしょう。物件の設備や立地条件などに問題があり、ADをつけただけでは空室率が改善しないことも考えられます。また、高額すぎるADを設定すると、空室が埋まってもAD分の支出を回収するのに時間がかかり、キャッシュフローに悪影響を及ぼしかねません。慎重に検討した上で、ADをつけて入居者募集を行うことをおすすめします。
監修河野 陽炎
【資格】3級FP技能士
3級FP技能士資格を持つライター、コラムニストとして、生命保険や医療保険、金融、経済などの執筆実績が多い。次々と発売される商品や、改正の相次ぐ税制、法律が1人の生活者にどう影響を与えるかの視点を大切にする。
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