高齢者の住まい事情
日本では高齢化がますます進んでおり、2005年に20.1%であった高齢者率(※)は、2015年には26.0%にまで上昇し、2030年には29.6%になるだろうと予想されています。このように、高齢化が進む中で、大家さんは高齢者の入居に拒否感を感じているようですが、実際、高齢者の方たちの住まい事情はどのようになっているのでしょうか。
※高齢者率…65歳以上
ー生涯賃貸で暮らし続ける高齢者
内閣府が、全国の60歳以上男女1,976人を対象に行った「高齢者の経済・生活環境に関する調査」のデータによれば、「一戸建ての持ち家」を持っている人は8割以上となっています。つまり、2割程度は賃貸に暮らしているということです。
また、下表から、高齢者の単身世帯で持ち家を持つ人は少ないことが分かりますが、今後も、高齢化が進んでいくこと、そして、同時に未婚率も高い水準で推移していることを加味すると、さらに高齢の単身者が増えていくと予想されます。
| 世帯別の持ち家率 |
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単身世帯(男性 | 58% |
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単身世帯(女性) | 75.1% |
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夫婦のみ世帯 | 90% |
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子供と同居している世帯 | 92% |
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高齢者は賃貸物件への入居が難しい?
とはいえ、高齢者が入居するということは、大家さんにとっては懸念があるのも事実です。懸念点の詳細は後述しますが、現に、以下のように高齢者の入居を拒否している、もしくは、拒否感のある大家さんが一定数います。
<入居を拒否している賃貸人の割合>
・単身の高齢者 8.7%
・高齢者のみの世帯 4.7%
<入居に拒否感がある賃貸人の割合>
・高齢者世帯 70.2%
上記は2015年のデータですが、これは2010 年 11 月に実施したアンケートから改善が見られていない状況です。つまり、高齢世帯と賃貸借契約を結ぶ場合に、拒否感を示す大家さんは昔から多いということです。
大家さんが高齢者受け入れに消極的な理由
では、なぜ大家さんは高齢者の受け入れに消極的なのでしょうか。以下の3つについて見ていきましょう。
・病気や事故に対する不安 |
・孤独死に対する不安 |
・家賃滞納に対する不安 |
病気や事故に対する不安
まずは、病気や事故に対する不安があります。たとえば、東京消防庁の発表データによると、電気ストーブによる火災で亡くなっている方の70%を75歳以上の後期高齢者が占めています。
また、認知症も若い世代より高齢者の方が多く、認知症を原因とする火災が起きているのも事実です。火災が起きてしまえば原状回復費用などがかかり、大家さんにとっては大きな負担となってしまうため、病気や事故に対する不安から高齢者の受け入れに消極的になってしまうのも無理はありません。
孤独死に対する不安
孤独死に対する不安もあります。内閣府が発表した「平成30年版高齢社会白書」によれば、一人暮らしで65歳以上の人の自宅での死亡者数は、東京23区内だけでも2016年で3,179人となっており、2003年の1,451人から2倍以上増加しています。孤独死が起きてしまった場合、遺族や警察への連絡、クリーニングや残置物処理などの原状回復業務のほか、場合によっては、遺族や連帯保証人への原状回復費用の請求も行わなければなりません。
部屋の損失が大きい場合には、事故物件として扱われることも珍しくなく、新たな入居者確保が難しくなったり、賃料を下げざるを得なくなったりする可能性もあります。
家賃滞納に対する不安
家賃滞納に対する不安も、大家さんが高齢者受け入れに消極的になる理由のひとつです。単身高齢者の場合、身寄りがおらず連帯保証人を付けにくいなどの問題は珍しくなく、仮に、家賃を滞納してしまうと、滞納分の家賃回収が困難になってしまいます。また、年金暮らしの高齢者の場合には、経済的な余裕がないことから、やはり、家賃滞納に繋がってしまう可能性があり、大家さんが不安感を抱いてしまうのも無理はありません。
高齢者を受け入れるための事前準備
上記のような不安があるため、高齢者の受け入れには消極的になってしまいがちですが、事前準備をしておくことで不安を減らすことは可能です。以下、高齢者を受け入れるための4つの事前準備について見ていきましょう。
・連絡が取りやすい環境を整える |
・高齢者向けの契約書を準備する |
・家賃保証会社の利用を検討する |
・リフォームなどで設備を整える |
連絡が取りやすい環境を整える
できる限り多くの連絡先を聞いておきましょう。何かあったときに連絡が取れる可能性を少しでも上げておくことができます。
高齢者向けの契約書を準備する
高齢者向けに、特約を設けた契約書を採用するという方法があります。例えば、「部屋を○日以上空ける場合は事前に貸主に必ず連絡すること」「賃借人と○日以上連絡がつかない場合は、警察立ち合いの元で室内に入る」といった内容です。このような特約を設けておくことで、何日も部屋の電気がついていないなど状況に違和感があった際、早急に対応することができます。また、認知症などと診断された場合や、長期入院をする場合などは賃貸契約を解除するといった内容の特約も有効です。
家賃保証会社の利用を検討する
家賃保証会社とは賃借人が家賃を滞納した場合、代わりに負担(保証)してくれる会社のことです。身寄りのない入居者の場合、連帯保証人を付けることも難しい可能性があるため、家賃滞納の不安があるのであれば家賃保証会社の利用を検討するべきでしょう。ただし、高齢者は審査が厳しい場合があるので、その場合は、複数の家賃保証会社に依頼が必要です。
リフォームなどで設備を整える
リフォームなどで設備を整えることも、高齢者を受け入れるための重要な事前準備です。共用部も含めてバリアフリーにしたり、手すりを設置したりすることで、高齢者にとって移動しやすくなる他、転倒を防いで思わぬ事故やケガのリスクを軽減することができます。
国土交通省が舵を取る「住宅セーフティネット」を使えば、リフォームをする際に補助金をもらえる可能性もあります。検討するときは窓口に問い合わせみましょう。
事前準備で不安を減らすことができる
高齢者を受け入れるための事前準備をすることで、不安を減らすことは可能です。入居者を限定しないことで入居者獲得につながりやすくなるメリットもあるため、空室対策も視野に入れながら、高齢者を積極的に受け入れる準備を始めてみてはいかがでしょうか。
高齢者受け入れで享受できるメリット
前項までは、高齢者を受け入れるリスクや対策について解説しましたが、一方で、高齢者を受け入れることで享受できるメリットがある点も確認しておきましょう。
長期入居が期待できる
免疫力が低下してしまうため高齢者は病気にかかるリスクが高く、長期入院のために退去してしまう可能性もありますが、一般的には長期間入居が見込まれます。なぜならば、高齢者は引退している方が多く、転勤も転職もないため、引越す必要がありません。そのため、よほどのことがない限りは長く住み続けてくれる可能性が高く、大家さんにとってはメリットといえます。
まとめ
高齢者を受け入れるための事前準備について説明してきました。
高齢化が進んでいる中でも、高齢者の受け入れに懸念を示す大家さんは多いものです。しかし、高齢化の世の中において、高齢者の入居は空室対策のひとつとして避けては通れないものとなるかもしれません。まずは、受け入れ体制を整えながら、はじめてみてはいかがでしょうか。
この記事の監修者
新卒で不動産ディベロッパーに勤務し、用地仕入れ・営業・仲介など、不動産事業全般を経験。入居用不動産にも投資用不動産にも知見は明るい。独立後は、不動産事業としては主にマンション売却のコンサルタントに従事している。趣味は読書。好きな作家は村上春樹、石原慎太郎。
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