今後の賃貸市場
今後の賃貸市場を想定するにあたって、参考にしたいデータは日本の将来にわたる人口推移です。人口推移に関しては少子高齢化の時代に突入しており、今後もそれが加速することが予想されます。
2022年に内閣府が発表した「令和4年版高齢社会白書」によると、日本の人口は2029年には1億2,000万人を下回り、2053年には9,924万人、2065年には8,808万人になると推計されています。
人口減少が進んでいくということは、つまり、賃貸物件を必要とする人数も少なくなっていくということです。
賃貸経営の収入は入居者からの家賃収入ですから、選ばれる物件を取得すること、また、的確な空室対策を継続していくことが非常に重要になります。
賃貸経営に空室対策は欠かせない!
このように、人口減少が進んでいく中での賃貸経営は非常に厳しいものになることが予想されるため、1人でも多くの入居者を確保するべく空室対策は欠かせません。しかし、空室対策には完全なものはなく、常に物件の状況や社会情勢の変化に応じて改善していく必要があります。また、単に「室数に対して入居者が何人いるのか」という空室率(入居率)だけでなく、支出に対して収入がいくらかという収支計算にも考えを巡らせることが必要です。
たとえば、空室率を改善するための方法として、「家賃を調整する」という方法がありますが、一度下げた家賃はその後上げることは難しいですし、他の部屋に空きがあれば同じように調整することが多くなります。また、下げた家賃で入居者を募集しているのを、現入居者が見て家賃交渉を持ちかけてくるかもしれません。
「全体の収入がどのくらい減るのか」「減った収入で支出を賄えるのか」といったことまで想定しなければいけないことを考えると、空室対策は家賃経営のかなり重要な部分を担っていることがお分かりいただけるのではないでしょうか。
空室対策を怠ることで生じるリスク
それでは、空室対策を怠るとどんなことが起こるのでしょうか?具体的には、収益が下がる→キャッシュフローが悪化→修繕など物件の手入れができなくなる→資産価値が下がるといった流れで、最悪、売却を余儀なくされる可能性も出てきます。それぞれ詳しく見ていきましょう。
収益が下がる
空室対策を怠ると、空室数が増え、ダイレクトに収益悪化につながります。たとえば、1室の家賃が8万円、室数8戸のアパートであれば満室時の年間収入は768万円ですが、これが空室2室になると576万円、空室5室になると288万円になります。
資産価値が下がる
賃貸経営では家賃収入の中からローンの返済を行うだけでなく、退去後の補修や建物全体の修繕などを行っています。たとえば、先ほどと同じアパートを運営しているとして、借入期間20年で金利2%、8,000万円の借入をしていた場合、月々返済額は約40万円ですが、満室時で手残りは24万円/月、2室空室時で8万円/月、空室が3室以上で赤字となります。
つまり、このアパートでは常に空室を2室以下にするようにしないといけないとともに、手残りのお金の中から固定資産税等の諸経費や、各種補修費、修繕費を支払わないといけません。補修や修繕を行わないとアパートはどんどん劣化していき、入居者を集めにくくなるばかりか、資産価値の低下も招いてしまいます。
物件を手放さなければならない場合も
空室を改善できないようであれば、物件を手放さなければならないケースも出てきます。具体的には、家賃収入がローン返済額を割り込むことが続き、貯蓄がつきたためにローンを返済できなくなった場合と、その前の段階で売却を決意した場合とがあります。
後者の場合では、できるだけ早く判断すれば浅いキズで終わらせられる可能性がありますが、前者の場合はローンの延滞情報が残るだけでなく、最悪の場合は自己破産も視野に入れる必要が出てくるでしょう。
空室になってしまう原因
ここでは、空室が生じる原因についてお伝えしていきます。空室対策を行うには、空室が起こる原因を把握しなければなりません。なぜなら、その原因に適した空室対策をとっていく必要があるためです。まずは、どのような原因があるか見ていきましょう。
入居者募集が適切に行われていない
ほとんどの方が入居者募集については管理会社に委任しているでしょう。その管理会社が行う入居者募集のやり方が原因で空室率が改善しないこともあります。
入居条件が厳しすぎる
入居条件が厳しいことが空室につながることもあります。たとえば、入居条件を法人のみにしている場合や外国人不可としている場合などです。また、安定した収入を得ている入居者を強く希望するあまり、収入の変動が激しい職種の方の入居を断っている場合なども入居条件が厳しい傾向にあるといえるでしょう。
建物の管理が行き届いていない
建物管理が行き届いていないことが空室につながっている可能性もあります。専有部や共用部の清掃が行き届いていない、室内の設備が古い、外壁や廊下、手すりなど建物自体が劣化しているなどの理由で、決まるはずの賃貸契約が決まらなくなることがあります。また、駐車場や駐輪場に草が生えていたり、ごみ捨て場の清掃がなされていなかったりすると、そのことを原因として入居が決まらないこともあります。
賃料が相場からかけ離れている
相場からかけ離れた賃料設定をしてしまうと入居者は集まりません。また、地域全体では相場に近くとも、少し離れたエリアの類似物件の賃料が低かった場合、入居希望者はそちらの物件に流れてしまう可能性があります。
物件のスペックが良くない
物件スペックには「築年数」や「構造」、「立地」、「間取り」などさまざまありますが、同じような間取りや広さ、家賃設定の建物であれば築年数が古いより新しい方が選ばれます。また、最近では宅配ボックスのある物件が人気ですが、導入設備の種類も空室率に関わってくるため注意が必要です。
入居率アップが期待できる空室対策の方法
空室が生じる原因を把握したところで、入居率アップにつながる空室対策についてご説明していきます。どのような方法があるか見ていきましょう。
入居者募集の方法を見直す
まずは、空室対策の一環として管理会社がどのような募集活動を行っているのかについて確認するようにしましょう。入居者の案内はできているのに決められていないのか、そもそも入居者の案内自体できていないのかなどが確認ポイントです。
入居者の案内をできていないことが管理会社の宣伝力不足や、案内から契約につなげられていないことが営業力不足である場合には、管理会社を変更することで改善されることがあります。
内見準備を徹底する
入居者募集の際、内見のための準備を徹底することも空室対策になります。室内のみならず共有部の清掃はもちろん、その他、室内の設備や特徴などアピールしたいポイントをpopにして設置したり、家具を入れるなどしてモデルルームにしたりする方法も検討してみましょう。内見は入居者が入居を決めるかどうか左右するものです。できる限りの事前準備をすることをおすすめします。
入居条件を見直す
入居条件の見直しも空室改善方法の1つです。たとえば、外国人の数が多いエリアでは、外国人不可の条件を外すだけで空室率が改善することがあります。もし、外国人入居者の家賃滞納に不安を感じるのであれば、家賃保証の導入などもあわせて検討するとよいでしょう。
収入の変動が激しい職種の方の入居を断っている場合なども、家賃保証の導入などで対策をとりながら条件緩和することで空室を減らす一助となります。また、ペット可物件にする方法もありますが、退去後の補修に通常より多くお金がかかったり、逆に敬遠する人が現れたりする点には注意が必要です。
入居者の費用負担を減らす
入居者の費用負担を減らすことも入居促進に有効です。たとえば、敷金・礼金をゼロにしたり、一定期間の家賃を免除するフリーレントを採用したりする方法があります。敷金・礼金をゼロにすることで入居者の初期費用を大幅に減らすことができるため、入居者へのアピールポイントにすることが可能です。
また、フリーレントを採用することで他の物件と差別化を図ることができます。いずれの方法も特別な準備を要することなく導入できる対策です。一度、検討してみてもよいでしょう。
建物の管理を徹底する
まず、入居者退去後のクリーニング作業は基本です。入居者が内見時にチェックする水回りなども含めしっかり行うようにしましょう。クリーニングのほか、定期的に壁紙やフローリングのリフォームも行うことをおすすめします。
建物自体についても階段や手すり部分などの劣化が進んでいないか確認することが大切です。仮に、劣化が進んでいる場合、見た目が良くないばかりか崩れ落ちるなどして思わぬ事故につながる危険性もあります。また、郵便受けやごみ捨て場などの共用部の清掃についても小まめな清掃・管理を実施していくことが大切です。
物件のスペックを再確認する
空室対策として物件スペックを見直すことも大切です。築年数、構造、立地や間取りなどは簡単に改善することはできませんが、設備に関しては改善することができます。
たとえば、先ほど触れた宅配ボックスやインターネットなどの人気設備を導入するなどです。また、女性向け物件であれば防犯対策として防犯シャッターを設置することも入居者アピールにつながります。居室内に関しては、エアコンの取り換えや水回り設備の交換なども行っていきましょう。
入居者アンケートを活用する方法も
物件スペックを改善させるためにどのような設備を導入すればいいか悩む大家さんもいらっしゃるかもしれません。その場合は入居者アンケートを通して、実際に入居者の声を聞いてみる方法があります。なお、希望する設備やサービスの質問と同時に、管理会社の対応に不満はないか、困っていることはないかなども質問することで今後の改善策のヒントも得ることが可能です。ぜひ入居者アンケートの活用を検討してみましょう。
賃料を見直す
最終手段として賃料を見直す方法があります。まずは周辺の相場を掴むことから始めましょう。相場については一度掴めば終わりではありません。自分の所有物件の築年数が経つにつれ家賃を下げるタイミングをいつにするのか、また、近隣に新しい賃貸物件が建つ際にはその賃料設定はどうなっているのかなど、適宜相場情報を掴んでいくことが大切です。なお、一度下げた賃料を再度上げることは簡単ではありません。賃料改定は慎重に検討するようにしましょう。
ケーススタディ:家賃改定で入居率アップ
これは筆者の知人の経験ですが、保有物件の1つで空室率が20~30%を推移しており、管理会社の募集状況の把握や、報酬を出すことで、契約に向けて奮起してもらうなどの手法を取っていたものの、イマイチ効果が薄かったことがありました。しばらくして、管理会社より、7~8年前にできた、500m程離れたところにある大型の賃貸物件が一斉に家賃改定を行い、知人の保有物件の設定家賃と近く、競合することが多くなっていたことが分かりました。
一方、知人の物件を見てみると、数年の間細かな家賃改定は行っていたものの、築年数の割に家賃が高いままでした。そこで、空室になっているものについては一斉に家賃改定を行ってみたところ、該当の物件と比較して「割安」と感じる程度にはなりました。その後、繁忙期を迎えるとこれまで以上の勢いでどんどん契約が決まっていき、空室率を10%以下まで改善することができたとのことです。
家賃改定については、収益悪化にもつながるため慎重に行う必要がありますが、上記、知人の例のように、明確な原因を把握できた際には思い切って実行していくことが大切だと感じます。
大家として大切な心構え
ここで、大家として大切な心構えとして、対策をすぐに行うのではなく、計画を立て、何から手を打つべきかを考えることが大切であるということをお伝えしたいと思います。空室改善のために取る手法を実行していくことは大切なことですが、それにはお金や労力など何らかのリソースが必要になります。そのため、空室改善を行う際には、管理会社を巻き込んでいくことをおすすめします。
管理会社を徹底的に活用しよう
空室改善のための手法にはいくつかありますが、その中で、現状どの対策が一番効果的なのか、どの対策から行っていけばよいのかなど、経験豊富な管理会社の担当者と話し合いながら決めていくとよいでしょう。管理会社も管理手数料や仲介手数料がもらえるため、親身に相談にのってくれるはずです。
よくある質問
ここでは、空室対策に関するよくある質問をご紹介します。
- 弱みのある物件の空室対策はどうしたらいい?
- たとえば、1階は入居者がセキュリティの面で不安を感じやすい物件です。しかし、階段やエレベーターを使う必要性がない点や下階がないため生活音をあまり気にしなくてよい点はメリットといえます。その点をアピールポイントとし、高齢者や子供のいる世帯などをターゲットに訴求していくとよいでしょう。
- 3点ユニットバスでできる空室対策はある?
- 費用をあまりかけずにできる空室対策として、ユニットバス内をモデルルーム化する方法があります。3点ユニットバスの物件の入居者は年齢層の低い方が多いため、若い人が好みそうなおしゃれな雑貨や小物を飾るとよいでしょう。3点ユニットバスでもおしゃれな空間にすることができる、と知ってもらうことが重要です。詳しくはこちらの記事を参照ください。
- 学生向け物件ならではの空室対策とは?
- 学生の賃貸住宅は保護者が入居先を決定することが多く、保護者は子供の安心・安全を確保できる物件を求める傾向にあります。つまり、学生向け物件では、防犯セキュリティを整えることが有効な空室対策になるということです。詳しくはこちらの記事を参照ください。
まとめ
賃貸経営に欠かせない空室改善についてお伝えしてきました。空室改善については、状況や時代情勢によっても異なるため、これが正解というものはありませんが、常に手を打っていくこと、そして多くの経験を持つ管理会社の担当者とよく相談しながら行っていくことが大切です。
空室改善に関する各手法については、本記事でご紹介した対策を参考に優先順位をつけながら取り組んでいきましょう。
この記事の監修者
逆瀬川 勇造 AFP/2級FP技能士/宅地建物取引士/相続管理士
明治学院大学 経済学部 国際経営学科にてマーケティングを専攻。大学在学中に2級FP技能士資格を取得。大学卒業後は地元の地方銀行に入行し、窓口業務・渉外業務の経験を経て、2011年9月より父親の経営する住宅会社に入社し、住宅新築や土地仕入れ、造成、不動産売買に携わる。
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