トイレの故障の修理費用は大家さんが払うべき?
賃貸物件として活用しているアパートやマンションのトイレが故障した際、原則的には所有者である大家さんが修理費用を負担します。2020年の民法改正では新たな条文が加えられ、大家さんと入居者の義務や権利が従来より明確になりました。
経年劣化によるものなら大家さんが負担
トイレの故障が経年劣化によるものなど、入居者の過失によって生じた故障でない場合、その修理費用は大家さんが負担します。なお、その負担義務があるにも関わらず、修理が遅延した場合、改正民法では入居者は家賃の減額請求ができる旨を定めています。
「修繕義務免除特約」があれば入居者が負担
契約書によっては「修繕義務免除特約」が設けられている場合があります。大家さんが修理負担するのは重要事項説明書に記載のある設備についてです。
入居者が賃貸物件にみずから設備(ウォシュレットなど)を増設したい時には、原則として大家さんに承諾を得る必要があります。ただし、大家さんの承諾を得て、設備を増設した場合でも「修繕義務免除特約」が設けられている場合には、入居者みずから増設した設備の修理費用は、入居者が担います。
契約時などに、設備の増設などについてあらかじめ相談してもらう旨を入居者に改めて伝えておくほか、契約書にも「修繕義務免除特約」を明記して説明しておきましょう。
過失によるものなら入居者が負担
改正民法では、「ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となった時は、この限りでない」との条文が加えられたため、入居者の故意や過失(例:体のバランスを崩したことで便座などを破損・誤って便器にモノを落としてしまったことで配管詰まり発生など)によるものであれば、トイレなど設備故障に対する修理費用の負担は入居者が担うと言うことが明確に法律で規定されました。
トイレのトラブルにはスピード対応が必須!
トイレのトラブルにはスピード感をもった対応が必須です。賃貸物件の設備のなかでもトイレは、毎日利用する設備の1つです。経年劣化などでトイレが故障したと入居者が大家さんに連絡しても、一向に修理してもらえない状態が続けば入居者の生活に支障が生じてしまいます。
大家さんが修理対応をしてくれない場合、改正前の民法では入居者は家賃の減額を求めることができると規定されていました。しかし、改正民法では家賃は当然に減額されると言う厳しい規定に変更されています。
設備の納品が遅れたり、入居者の立ち合い等の日程調整が上手くいかなかったりと、大家さんとして迅速に対応しても、修理完了までに日数を要してしまい、入居者の生活に支障が生じる可能性があります。入居者から故障の連絡がきてから動くのではなく、耐用年数を踏まえて計画的に修理、交換を検討しておく姿勢が望ましいでしょう。
対応が遅いと賃料減額などのリスクが発生
改正民法で設備故障への対応が遅い場合、家賃は当然に減額されると言う厳しい規定になっているとご説明しました。減額される家賃の目安は「貸室・設備等の不具合による賃料減額ガイドライン(公益財団法人日本賃貸住宅管理協会)」によると以下のとおりです。
【例】
家賃が5万円の賃貸物件でトイレが故障し、使用できない状態で修理完了までに7日間かかった場合の減額家賃
月額家賃5万円×賃料減額割合20%×(7日-免責日数1日)/月30日
=2,000円(1日あたり約333円)
計算例で減額する家賃目安を知り、安堵した方もいらっしゃると思います。しかし、あくまでもこれは目安です。あらかじめ契約書などで減額賃料の規定を定めていない場合には、入居者との交渉が必要になります。
また、すぐに対応をしない大家さんと言う悪い心証を与え、契約解除やインターネットなどで悪い口コミや書き込みをされるきっかけになってしまう可能性もあります。
トラブル対応フローをいまいちど確認しよう
トイレの故障などのトラブルに迅速に対応できるよう、対応の流れを今一度確認するとともに、契約書の内容を改めて確認しておきましょう。
管理委託の場合
入居者対応も含めて管理会社に管理を委託している場合、入居者からの連絡は管理会社にいきます。その後、管理会社は入居者立会いのもと状況確認をしたうえで、大家さんに修理の打診や修理会社への見積もりを行い、修理を実行します。
修理完了後は、管理会社が契約書の確認または入居者と交渉のうえ、入居者の通知の日から修理が完了した日までの日数分の減額賃料を計算して、家賃請求に反映します。
自主管理の場合
自主管理の場合、管理委託のケースで管理会社が行っていることをすべて大家さんが行います。下記のリンクを参照し、具体的にどのような事前準備を行っておけばよいかを確認しておきましょう。
トイレ修理の費用相場
トイレ修理の費用相場はトイレの形状(タイプ)や部品、修理内容、修理の対応時間などによって異なります。
トイレのつまり除去程度であれば3,000~20,000円程度で即日対応が可能です。
ただ、便器そのものを交換するとなれば、費用相場は下表のとおりです。このほかに別途、作業費用が必要になります。
タイプ | 費用 |
---|
組み合わせタイプ
| 20,000~40,000円程度 |
※便器・タンク・便座をそれぞれ組み合わせて構成されたトイレ |
一体型トイレ
| 70,000~180,000円程度 |
※便器・トイレ・便座が一体となったトイレ |
タンクレストイレ
| 100,000~200,000円程度 |
※タンクがないトイレ |
管理を管理会社に委託している場合は、入居者からのトイレの故障連絡に対して、連携している設備会社などに見積もりをとったり、修理を依頼したりするのにも迅速に対応してもらえるでしょう。
しかし、自主管理をしている場合、大家さんみずから設備会社などへの見積もりや、修理依頼、入居者との日程調整などを行います。日頃から付き合いのある設備会社や入居者対応にいつでも対応できる時間の余裕があれば、自主管理でも迅速に対応することは不可能ではありません。
もし、アパート・マンション経営以外にも業務などを行っていたり、アパート・マンション経営を始めたばかりであったりなど、設備会社との付き合いや時間の余裕がないと言う場合には、前もって設備会社との付き合いを作っておいたり、管理会社への委託を検討したり、など転ばぬ先の杖の準備をしておきましょう。
知っておきたい応急処置の方法とトラブル予防策
アパート・マンションのトイレ故障に際して、自主管理をしている大家さんができる応急処置やトラブルを予防する方法についてご説明します。
すぐに入居者に伝えたい応急処置
入居者からトイレの故障について連絡があった時に、入居者に伝えておきたい応急処置があります。
3つのトラブル予防策
トイレの故障などのトラブルを予防するために、以下の3つの対策が考えられます。
入居案内などに注意喚起を盛り込む
入居時の入居案内などに、トイレ使用についての注意喚起を盛り込んでおきましょう。入居者の中にはトイレットペーパーの芯や生理用品など本来トイレに流してはならないものを流してしまったり、大量のトイレットペーパーを流してしまったりする人もいます。入居案内などで、前もって注意喚起を促しておきましょう。
24時間対応のサポート委託を検討
現在、自主管理をしている場合には入居者からの連絡に24時間対応してもらえるようなサポート委託を検討してみるのもよいでしょう。いくら大家さんに時間の余裕があるといっても、大家さんが24時間常に対応することは難しいでしょう。コストバランスも考慮しながら、複数の管理会社の見積もりをとって比較検討してみてはいかがでしょうか。
耐用年数を超えたらトイレ本体を交換
トイレの耐用年数は15年です。耐用年数を超えたらトイレ本体を交換できるように修繕計画を考えておきましょう。
まとめ
トイレは、生活するうえで欠かせない設備です。入居者がアパートやマンションでの生活を円滑に送れるようにサポートするのも大家さんの務めです。民法改正の内容も把握したうえで、入居者からの故障連絡に対して迅速に対応できるように日頃から準備を進めていきましょう。
この記事の監修者
キムラ ミキ AFP/社会福祉士/宅地建物取引士/金融広報アドバイザー
日本社会事業大学 社会福祉学部にて福祉行政を学ぶ。大学在学中にAFP(ファイナンシャルプランナー)、社会福祉士を取得。大学卒業後、アメリカンファミリー保険会社での保険営業を経て、(マンションデベロッパー)にてマンション営業、マンション営業企画に携わった。その後、2008年8月より独立し、現在、自社の代表を務める。
●紹介されている情報は執筆当時のものであり、掲載後の法改正などにより内容が変更される場合があります。情報の正確性・最新性・完全性についてはご自身でご確認ください。
●また、具体的なご相談事項については、各種の専門家(税理士、司法書士、弁護士等)や関係当局に個別にお問合わせください。
入居者の故意や過失による設備等の故障は、借家人賠償責任保険の補償対象となります。入居者は入居時に火災保険および借家人賠償責任保険などに加入しているのが一般的であり、入居者の自己負担感を軽減できます。そのためにも入居者が保険未加入という状態とならないように注意しておきましょう。