【設備故障・家賃相場下落etc…】大家さんが賃料減額対応しなければならないのはどんな時?

2024.08.14更新

この記事の監修者

キムラ ミキ
キムラ ミキ

AFP/社会福祉士/宅地建物取引士/金融広報アドバイザー

【設備故障・家賃相場下落etc…】大家さんが賃料減額対応しなければならないのはどんな時?

大家さんは家賃減額請求に応じる義務があるのでしょうか。万一に備え、家賃減額が認められるケースや対応方法を把握しましょう。

目次

家賃の減額をしなければならない時がある?

賃貸借契約において、約束されている家賃について入居者が減額を求めることができる時とは、どのような時なのでしょうか。

【パターン①】コロナで失業!家賃減額請求ができる?

借地借家法には、一定の条件を満たす場合、「契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる」と規定されています。

一定の条件とは、「建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったとき」です。

もうすこし、わかりやすく言えば、税金などの負担増、不動産価格の上昇、経済事情の変化、周辺の家賃相場との比較、によって現在の家賃は「高い」という状況になった時、入居者から家賃減額を求められる可能性があります。

【パターン②】設備故障で生活できない!家賃減額請求ができる?

「入居者が賃貸物件で生活するうえで支障が生じた場合、その支障の程度に応じて賃料が減額される」ということが、改正民法に明記されました。

つまり入居者から設備故障についてトラブル連絡があった時、大家さんの対応が遅くなると、入居者から家賃減額を求められる可能性があります。

家賃減額には応じる必要があるのか

不動産の賃貸借契約に関する規定である借地借家法は、賃借人保護の立場に立った法律です。なぜなら、賃借人は、賃貸人よりも弱い立場にあるからです。

とはいえ、大家さんの落ち度がないのにも関わらず、家賃減額請求があったからといって、必ずしも応じる必要はありません。ただし、家賃減額請求を受け入れてもらえず、やむを得ず入居者が家賃滞納をしたとしても、1回程度の家賃滞納で直ちに退去を求めることができない点には注意が必要です。

サブリースの家賃保証も減額される!?

サブリース契約を締結し、家賃保証を受けている大家さんもあると思います。サブリース契約の契約書には、保証家賃の金額見直しの項目が盛り込まれているのが一般的です。物件の老朽化などの理由で、保証家賃の金額は一定期間ごとに減額される可能性があります。

賃借人から賃料減額請求されたらどうする?

もしも賃借人から、賃料減額請求されたら、賃貸人として大家さんはどうしたらよいのでしょうか。

借地借家法第32条(借賃増減請求権)には、以下のように示されています。

1 建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。略

2 略

3 建物の借賃の減額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃の支払を請求することができる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払を受けた額が正当とされた建物の借賃の額を超えるときは、その超過額に年一割の割合による受領の時からの利息を付してこれを返還しなければならない。

①どんな場合に応じるべきか

前段でもご説明したとおり、税金などの負担増、不動産価格の上昇、経済事情の変化、周辺の家賃相場との比較、によって現在の家賃は「高い」という状況になった時、入居者は家賃減額を求めることができます。とはいえ、家賃減額請求すべてに応じていては、賃貸経営が成り立たなくなってしまいます。

まずは、入居者と話し合いを行い、家賃減額に応じるべきか否かを考える必要があるでしょう。この話し合いが調わない時には、調停や裁判で争い、減額を正当とする裁判が確定するまでは、入居者は本来の家賃を支払うことになります(※入居者が相当と考える減額家賃を支払い続けた場合、契約解除理由とされる判例もあります)。

ただ、入居者の経済事情が悪化し家賃減額を求めている状況下で、調停および裁判の費用をかけ、またその期間中も本来の家賃を支払い続けることができるかというと、やや現実味に欠けます。

仮に、「コロナ禍において失業した」という場合でも、利用できる公的資金をすべて申請したり、失業後直ちに再就職活動を行って再就職が決まるまではアルバイトをしたりなど、本来の家賃を支払う姿勢は賃貸借契約を交わした以上、入居者に求めてもよいと思います。

②応じるとしたらどんな交渉をすればいいか

【将来にわたって減額を行う場合】
相場家賃の下落などの根拠資料を準備するのは、家賃減額請求を行う入居者です。どのような根拠をもって家賃減額を請求するのか、明確な資料の提示を求めて、将来にわたって家賃減額を行うか否か判断するようにしましょう。

【一時的な減額を行う場合】
家賃減額の期間や減額家賃の金額などを明確にしておきましょう。この取り決めは大家さんにとって不利なものです。覚書を作成するのは、利益を受ける入居者側にあると考えておきましょう。ただし、その内容に沿えなかった(減額家賃の支払いができない、減額期間後も状況改善の変化がないなど)場合の対応については、覚書として残しておくのもよいでしょう。

③大家さんとして準備すべきこと

大家さんは、賃貸経営をボランティアで行っているのではありません。事業計画を立てて融資を受け、賃貸物件を活用して事業を行う経営者です。家賃の減額請求にはさまざまな理由があるでしょう。

しかし、情けだけでは経営は成り立ちません。万一に備え、家賃の減額請求に応じるなど家賃収入の減収が生じた場合、キャッシュフローが成り立つのか、損益分岐点を確認する必要があります。その確認をしておくことで、退去された時の家賃収入の減額とどちらが大家さんにとって有利なのか、比較することもできます。

またキャッシュフローに不足が生じる懸念がある場合には、利用できる公的資金の有無確認や金融機関への融資打診なども行う必要があります。日頃から情報収集や金融機関の担当者とのコミュニケーションをとっておくことも大切なことです。

設備や建物の不具合で賃料減額しなければならない時どうする?

入居者から設備故障についてトラブル連絡があった時、大家さんの対応が遅くなると、賃料収入の減収につながる可能性があります。

民法611条の規定について

この家賃減額の可能性は、改正された民法611条に基づくものです。

民法611条
1 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。

2 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。


つまり、「設備故障などが生じて、入居者が賃貸物件で生活するうえで支障が生じた場合、その支障の程度に応じて賃料が減額される」ということが示されています。

どれぐらい減額されるのか(ガイドライン参照)

貸室・設備等の不具合による賃料減額ガイドライン(公益財団法人日本賃貸住宅管理協会)によると、月額賃料 100,000 円の物件において、ガスが 6 日間使えなかった場合、月額賃料 100,000 円×賃料減額割合 10%×(6 日-免責日数 3 日)/月 30 日=1,000 円の賃料減額(1 日あたり約 333 円)ができると目安を示しています。
状況賃料減額割合免責日数
電気が使えない40%2日
ガスが使えない10%3日
水が使えない30%1日
トイレが使えない20%1日
風呂が使えない10%3日
エアコンが作動しない5000円(1カ月あたり)3日
テレビ等通信設備が使えない10%3日
雨漏りによる利用制限 5~50%7日
あくまでも、ガイドラインにある例は目安です。ガイドラインを参照しつつ、管理会社と相談して、所有物件のルール作りを行っておきましょう。そのルールに従い、大家さんとしても設備等の故障に対して迅速な対応が必要なことは言うまでもありません。

契約書を確認しておこう

万一、設備故障などが生じた時に、責任所在や賃料減額をめぐってトラブルとなる可能性もあります。トラブル回避のためにも、契約書を再確認して、修繕費用負担者、賃料減額の基準などを明確に定めておく必要があります。また設備の不具合が発生した場合の修理依頼の流れをしっかり確立しておくことも必要です。

賃料減額リスクに備えるには

先にも述べたように、賃貸経営は賃貸物件を活用した事業経営にほかなりません。大家さんは事業の経営者として、日頃から以下のような点について考えておく必要があるでしょう。

入居者満足向上

入居者とのコミュニケーションを図り、クレームの芽を小さいうちに摘み取って良好な住環境を守りましょう。

資産価値の維持

近隣の物件相場や入居者ニーズの変化をチェックし、入居者および入居検討者から魅力的に感じてもらえる物件であり続けるためにどのような工夫が必要かを考えましょう。また、定期的なメンテナンスも欠かせません。

資金繰り

キャッシュフローや損益分岐点を把握し、万一資金繰りが厳しくなった時に備えて、活用できる公的な助成金や補助金の情報収集、および金融機関の担当者とのコミュニケーションを図っておきましょう。

まとめ

家賃減額請求は、大家さんにとって家賃収入の減収につながるため、不安を感じている方も少なくないと思います。また、民法改正によって、設備故障による家賃減額請求の可能性もでてきました。

万一、入居者から家賃減額請求を受けた時に、どのような対応をすればよいのかを知っておくのは大切なことです。備えあれば患いなし。慌てて安易な対応をしないように知識を蓄えておきましょう。

この記事の監修者

キムラ ミキ
キムラ ミキ

AFP/社会福祉士/宅地建物取引士/金融広報アドバイザー

日本社会事業大学 社会福祉学部にて福祉行政を学ぶ。大学在学中にAFP(ファイナンシャルプランナー)、社会福祉士を取得。大学卒業後、アメリカンファミリー保険会社での保険営業を経て、(マンションデベロッパー)にてマンション営業、マンション営業企画に携わった。その後、2008年8月より独立し、現在、自社の代表を務める。

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