民泊を始めたらどんな税金がかかる?「所得」の区分と合わせてわかりやすくご紹介します

2024.07.30更新

この記事の監修者

秦 光一郎
秦 光一郎

税理士

民泊を始めたらどんな税金がかかる?「所得」の区分と合わせてわかりやすくご紹介します

民泊事業を始めるなら、知っておきたいのが税金の話。民泊事業の税金計算方法、減税対象にならない場合などをお伝えします。

民泊事業を始めたらどんな税金がかかる?
事業を始める前におさえておきましょう!

目次

そもそも民泊ってなに?

そもそも民泊とは、民家(自宅など)に泊まることであり、泊める側から見れば、民家(自宅など)に有料で泊まってもらうこと、になります。日本では、この民泊事業を推進し安心安全な制度として運用するために、住宅宿泊事業法(いわゆる「民泊新法」)が整備され2018年6月より施行されています。

民泊の法整備が進められた背景には、政府の観光立国を目指すとの方針があり、公表情報によれば、2016年当時2,400万人であった訪日外国人旅行者を、2030年には6,000万人へ増加させることを目標に掲げています。

しかし、この目標には宿泊施設の不足という問題もあり、訪日外国人受け入れ可能な施設の増加を図るため民泊事業が推進されました。民泊新法に従って民泊事業を営もうとする住宅宿泊事業者は、都道府県知事に届出を出し、その監督を受けることになっています。

民泊事業を始めるその前に

観光庁が運営する民泊制度ポータルサイト「minpaku」によれば、住宅宿泊事業の届出件数は2020年10月7日時点で27,484件。民泊がスタートした2018年6月の2,210件から、わずか2年で12倍以上も増加したということになります。

他方無視できないのは事業廃止件数で、2020年10月7日時点の事業廃止件数は7,292件です。コロナの影響も考えられますが、法施行日からわずか2年の間に、民泊の届出者の概ね4分の1が既に廃業しています。

何についても言えることですが、実際に始めてみると予想もしなかった問題が発生するもの。「こんなはずでは…」となる前に、徹底的に情報収集し、メリットとデメリット等を比較検討することが重要です。

検討すべき大きな要素の一つとして、税金があります。民泊事業を始めてみたものの、税金を納めたら手元には何も残らなかった…とならないよう、民泊事業を始めるとどのような税金が課されるのかを整理しておきましょう。

民泊と税金

①事業を始めると課される一般的な税金

事業に伴う税金として一般的なものは、所得税、事業税、消費税などです。

所得税

所得税は、所得に対して課される税金で、ここでいう所得とは、「利益」「もうけ」とほぼ同義で、収入から費用を差引いた残額を意味します。たとえば、Aさんが土地を100万円で購入したとします。

この土地を後日150万円で売却しました。仮に手数料等の費用が一切掛からなかったとすると、所得は、150万円-100万円=50万円となります。この所得50万円に対して所得税が課されます。

事業税、消費税

事業税や消費税は、事業がある程度大きな規模になったときに課される税金です。事業税は、上述した所得が、年間290万円以上になると課されるようになります。

消費税は年間の収入が1,000万円を超えると課されるようになるので、民泊事業の収入が年間1,000万円を超えた場合、消費税を納めなければなりません。消費税の課税の有無は前々年の収入を基準に判定することになっており、たとえば、令和2年に初めて事業の年間収入が1,000万円を超えた人は、令和4年分の収入から消費税が課されます。

事業税も消費税もあくまでも事業に対して課される税金です。このため、たまたま行われた不動産の売買等はこの税金の対象となりません。税法上の「事業」の考え方は後述します。

②宿泊税

上記の他、宿泊事業を営む者に課される宿泊税という税があります。これは東京や大阪など大都市圏を中心に導入されている税金で、地方公共団体毎に取り扱いが異なるものです。

たとえば、東京都であれば一人一泊当たりの宿泊料金を元に計算され、宿泊料金10,000円以上15,000円未満については100円、15,000円以上については200円と定められています。

これは東京都に所在するホテル旅館等への宿泊時に宿泊者が負担するものですが、現実にはホテル旅館等が宿泊者から宿泊料金を精算する際に預かって納税します。宿泊料金設定に係ることですので、民泊事業を行おうとする所在地が宿泊税の対象地域に該当するか調べておきましょう。

民泊事業では「所得」の区分に注意が必要

所得税法は収入の形態に応じて、所得を数種類に分類されており、各所得ごとに計算の仕方が異なります。「給与所得」のほか、退職金は「退職所得」、不動産の売却による所得は「分離譲渡所得」、不動産貸付による所得は「不動産所得」などです。

民泊事業の場合、その運営の形態に応じて「雑所得」、「不動産所得」もしくは「事業所得」のいずれかに該当することになります。それぞれ詳しく見ていきましょう。

①「雑所得」に該当する場合

雑所得とは、国税庁によれば、他の所得のいずれにも当たらない所得をいいます。前述したとおり不動産の貸付による所得が不動産所得になるのであれば、民泊事業も不動産所得と言われそうですが、そうはなりません。民泊事業は単なる部屋の貸付ではなく寝具等の貸付やクリーニング、室内清掃や観光案内などのサービス提供も含まれているためです。

また、雑所得の一例として、シェアリングエコノミーに係る所得が挙げられます。本業ではない、副業による収入は雑所得として取り扱われます。

民泊事業は一般的にはシェアリングエコノミーの一形態であり、遊休財産の活用と考えられることから、副業の一形態と考えられています。このため原則として個人が民泊事業を新たに始めた場合、その収入は雑所得に分類されます。

雑所得で損失・赤字の場合は切り捨て

雑所得の特徴として、後述しますが青色申告特別控除などの各種特典が無いこと、利益・黒字であった場合には税金を課されますが、損失・赤字の場合は他の所得と通算できず単に切り捨てられること、などがあります。

②「不動産所得」に該当する場合

上記の例外として、すでに不動産賃貸業を営んでいる個人が、契約期間が終了して空室となった部屋を、次の住人が見つかるまでの間、一時的に民泊事業として利用する場合には、民泊事業の収入を雑所得にせず、不動産所得として取り扱ってよいことになっています。

不動産所得の場合は損益通算が可能

不動産所得が損失つまり赤字になった場合、その赤字は他の所得(たとえば給与所得)から差引くことが認められています。この規定を損益通算といいます。ワンルームマンション投資による節税スキームはこの損益通算規定を利用したものです。損益通算については下記の記事で詳しく解説しています。

ただし、不動産所得には損益通算に一定の制限があり、赤字の金額のうち土地の購入に対応する借入金支払利息部分は、損益通算が認められません

また、不動産所得は税務署長に申請することにより、青色申告の承認を得ることができます。後述しますが青色申告には幾つかの恩典があります。

③事業所得に該当する場合

前述の通り、雑所得とは副業収入のことを指しますから、専ら民泊事業により生計を維持している方の場合は、雑所得に該当しないことになります。

税法の考え方では、事業とは、対価を得て反復、継続、独立して行われる経済活動のことを指しますが、民泊事業は遊休資産の有効活用が建前とされ、年間の宿泊日数が180日に制限されることから、事業所得と判断するうえでは、継続性に問題があると考えられます。

しかし複数の施設を民泊事業として使っているなど規模が大きい等、民泊事業が所得税法上の事業として営まれていることが明らかな場合には、その所得は事業所得とされます。

事業所得の場合は損益通算が可能

事業所得も損益通算の対象となります。事業所得の損失・赤字は他の「所得」から差し引けることとなっており、事業所得の場合は特別な制限がありません。また、事業所得についても青色申告の承認を受けることができます。

民泊事業で認められる必要経費

必要経費にすることができる費用は、以下のように規定されています。
1.収入金額を得るために直接要した費用
2.その年における販売費、一般管理費その他住宅宿泊事業による所得を生ずべき業務について生じた費用
民泊事業の場合の具体例は次の通りです。

・住宅宿泊仲介業者に支払う仲介手数料
・住宅宿泊管理業者等に支払う管理費用や広告宣伝費
・水道光熱費
・通信費
・非常用照明器具の購入及び設置費用
・宿泊者用の日用品等購入費
・住宅宿泊事業用に利用している家屋の減価償却費
・固定資産税
・住宅宿泊事業用資金の借入利子

民泊事業の必要経費で注意しておきたいこと

上記費用が、民泊事業用の部分と自分の生活利用部分とに共通して発生する経費である場合、これを分ける必要があります。たとえば、自宅の一部を民泊事業に利用している場合です。

一般的には日数や床面積の比などで分別しますが、面積や日数よりも合理的な基準があれば、そちらを採用できます。使用する部分の床面積を計算しておくこと、事業供用日数等の記録を取っておくこと、どのような合理的基準が考えられるか等、確定申告に備えて準備しておくことが重要です。 

また「不動産所得」「事業所得」に認められる青色申告の承認を受けている場合には、生計を一にする親族に対する給与等(「青色事業専従者給与」といいます)が必要経費として認められるほか、10万円又は65万円の青色申告別控除などが認められています

減価償却とは

減価償却とは、家屋などの固定資産の取得価額を費用化する手続きをいいます。複数年に渡って使用できる資産の経年劣化・価値減少分について、一定のルールに従って取得価額を分割して毎年の費用とできるよう、減価償却費の計算方法が定められています。

民泊事業で減税の対象から外れる可能性があるもの

①固定資産税

固定資産税は、住宅用の不動産について減税措置があります。住宅用家屋については、新築から3年間又は5年間の固定資産税を1/2にする規定が、住宅用の土地については、評価額を1/6又は1/3にする規定(「住宅用地の特例」といいます。)があります。これらはいずれも、住宅用の家屋、土地について認められているもので、宿泊事業用に認められる制度ではありません。

自宅の一部を民泊事業に利用し始めると、「住宅用地」ではない部分があると判断され、毎年の固定資産税が増額される恐れがあります。民泊事業の開始により、固定資産税がどの程度増える恐れがあるのか、あらかじめ計算しておきましょう。

②相続税

相続税は、生計を維持するために必要な財産には、なるべく税金を課さない制度設計がなされています。たとえば、「小規模宅地の特例」では、自宅や事業に使っている土地の評価額を80%減額することが可能です。

自宅用に使っている土地でこの制度の対象となるものを「特定居住用宅地等」といいますが、民泊事業に利用している部分は「特定居住用宅地等」ではないと判断される恐れがあります。

また、事業用に使っている土地でこの規定の対象となるものを「特定事業用宅地等」と言いますが、民泊の場合は事業と称するに至らないと判断される場合があり、小規模宅地の特例の適用が受けられない可能性があるため注意が必要です。

③所得税・住民税(譲渡所得)

自宅を売却した時にも、所得税・住民税が課されます。しかし先ほどの相続税の考え方と同様、自宅は生計維持に深く係る財産であることから、そこから発生する所得に対して、多額の税金を課すべきではないとの税法の基本的な考え方があります。

このため自宅を売却した際には、3,000万円特別控除、軽減税率を始めとする各種の税負担軽減措置があるものの、やはり対象となるのは、自宅として使っていた不動産(居住用財産)に限られます。

前述の通り、民泊はある種の事業の為に自宅の一部を利用することとなりますので、民泊用事業に使用されていた部分は「居住用財産」ではないと判断され、軽減措置の対象外とされる恐れがあります。

④所得税・住民税(税額控除)

住宅借入金等特別控除とは、個人が住宅ローン等を利用して、マイホームを取得した場合に、住宅ローンの年末残高を基に計算した金額を個人の所得税・住民税から控除する制度です。

この制度の対象となる住宅は、床面積の1/2以上が専ら自己の居住の用に供するものである必要があります。そのため、自宅の床面積の1/2以上を民泊事業用に利用した場合には、住宅借入金等特別控除の適用を受けられなくなる恐れがあります。

また、民泊事業で利用する部分がご自宅の総床面積の1/2未満であったとしても、住宅借入金等特別控除は、総床面積のうち自己の生活用に利用している床面積の占める割合に対応する金額に限られることになります。

民泊事業を始めたら確定申告は忘れずに

収入が増えればそれに合わせて必ず税金は増えます。サラリーマンとしてお給料だけ貰っていた時は、納めるべき税金を会社が毎月計算・給与天引きし、本人に代わって納税してくれました。

しかし民泊で得られた収入は、誰かが本人に変わって計算・申告・納税をしてくれることはありません。民泊をはじめて、収入が増えて、ほくほく…、と思っていたら、もしかすると数年後には税務署職員が税務調査のため訪ねて来て、思いもよらない多額の税金を請求されるかもしれません。

民泊事業を始めて収入が増えたら、税金の申告も必ず期限までに正確に行いましょう。きちんと対策をした上で確定申告をし、納税をすることが結果として一番手元にお金を残すことになります。このことを忘れないでください。

所得20万円以下の場合は確定申告が不要?

所得が20万円以下の場合、確定申告が不要になる可能性があります。所得税法は、年末調整をしている給与所得者、または公的年金の受給者が、これら以外の所得の合計額が20万円以下である場合は確定申告をしなくてもよい、こととしています。判断に迷う場合は税理士など専門家に相談するようにしましょう

確定申告をしなかった場合は追徴課税のペナルティ!

確定申告は2月16日から3月15日の間に行わなければなりませんが、期限までに申告をしなかったり、申告が漏れてしまったりしてまうと、本来の税額の他に加算税や延滞税といわれるペナルティが課せられてしまいます。

加算税は、申告漏れ税額の多寡や事案の悪質性等に応じ、5%~50%の率、延滞税は、完納されるまでの期間に応じ、年利2.6%~14.6%の率で課されることになっています。

まとめ

この記事では、民泊事業に係る税金について解説しました。民泊事業は原則として雑所得に分類され所得税が課せられるほか、事業規模や運営する地域によって、事業税や消費税、宿泊税が課せられることもあります。

所得税や相続税、固定資産税等の減税措置とも少なからず関連があり、場合によっては減税措置などの適用が受けられない可能性もあることは押さえておきましょう。

民泊事業を始められるに際しては、税理士など専門家のアドバイスを受けながら、総合的に有利不利を比較することが大切です。そして民泊事業を始めた際には、確定申告を忘れず行いましょう。

民泊事業を始めたらどんな税金がかかる?
事業を始める前におさえておきましょう!

この記事の監修者

秦 光一郎
秦 光一郎

税理士

会計事務所に勤務しつつ平成16年税理士試験に合格。税務コンサルタント会社にて金融機関をサポートする業務の中、資産税業務の経験を積む。平成22年税理士法人シン総合会計設立。主に中小企業の会計税務支援を中心に、事業承継、資産税業務にも従事。不動産会社の税務相談会相談員、金融機関のセミナー講師等に携わる。

●紹介されている情報は執筆当時のものであり、掲載後の法改正などにより内容が変更される場合があります。情報の正確性・最新性・完全性についてはご自身でご確認ください。
●また、具体的なご相談事項については、各種の専門家(税理士、司法書士、弁護士等)や関係当局に個別にお問合わせください。