遺された不動産を受け取りたくない方に相続放棄の手続きについて説明します

2024.02.02更新

この記事の監修者

キムラ ミキ

キムラ ミキ

【資格】AFP/社会福祉士/宅地建物取引士/金融広報アドバイザー

遺された不動産を受け取りたくない方に相続放棄の手続きについて説明します

相続予定の不動産、相続放棄をお考えではありませんか?相続放棄の手続きや注意点、相続放棄以外の選択肢などをお伝えします。

目次

相続放棄の件数は増えている

司法統計で、「相続の放棄の申述の受理件数」を見てみると、平成3年は45,884件、平成20年は、148,526件でしたが、平成30年には215,320件と、10年間で1.5倍、およそ30年間では4.7倍にも増加しています。

国土交通白書(2013年)に「1990年代後半以降は再び東京圏への転入超過が拡大し、2007年にはバブル期に匹敵する転入超過数となった。その後、転入超過数は縮小しているものの、東京圏への人口流入自体は続いている」とあります。

つまり、そもそも相続財産は土地および家屋が占める割合が多い中、地方から東京などの都市部へ移住した方が、「利用機会や価値が低い、地方にある不動産を相続しても仕方がない」と考えて、相続放棄を選択したケースが増加したと考えられるのではないでしょうか。

相続放棄するってどういうこと? 

相続における法定相続人と法定相続分(法定相続人が遺産を受け取る権利割合)は、民法に定められています。とくに遺言書での指定がない場合、法定相続人間で遺産分割協議(話し合い)を行い、法定相続分どおり、または遺産分割協議の決定に従い、相続財産を分け合います。

その遺産分割協議の前段階で、相続できる権利を放棄するというのが、「相続放棄」です。民法には相続の放棄の効力として、「その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。」と記されています。

相続放棄をするためには、相続の開始があったことを知った時から3か月以内にその旨を家庭裁判所に申述しなければなりません。相続放棄をする旨を、親族などに告げただけでは相続放棄とはならない点には注意しておきましょう。

相続放棄するための手続きの流れ

相続放棄は、以下のような手順で行います。

1.法定相続人の想定
まずは、誰が法定相続人なのか、相続放棄をしなかった場合とした場合で法定相続人に変化が生じるか否かを確認、想定しておきましょう。

2.相続財産の調査
相続財産にどのようなものがあるのかを調査しなければ、相続放棄をしたほうが得策なのか否か、判断はつきません。

3.相続放棄の決断(3カ月以内)
法定相続人と相続財産の状況を確認したうえで、相続発生を知った日から3カ月以内に相続放棄をする意思決定を行います。

4.相続放棄の申述書類および費用の把握(手続き代行依頼の有無を決定)
相続放棄の申述を行う際に必要な書類と費用を把握します。この際、みずからで手続きを行うのか、専門家に手続きの代行を依頼するのかも考えます。

5.家庭裁判所へ相続放棄の申述(申し立て)
家庭裁判所へ申し立てを行います。

6.相続放棄に関する照会書への回答
申述後、相続放棄に関する照会書が送付されてきますので、回答後返信を行います。基本的には、申述書に記入したことの再確認といった旨の内容です。

7.相続放棄申述受理通知書が送付される
照会書の返信後、相続放棄申述受理通知書が送付されてきます。これが到着すれば、相続放棄が正式に認められた状況となったといえます。

必要書類と費用

必要書類は、以下のものが挙げられます。なお、下記の必要書類は、親の財産を子が相続放棄するケースを想定しています。1~3までは、それ以外のケースでも共通して必要な書類です。親の財産を子が相続放棄する場合には、4も必要となります。

1.相続放棄の申述書
2.被相続人の住民票除票又は戸籍附票
3.申述人(放棄する方)の戸籍謄本
4.被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本

親の財産を子が相続放棄する以外の以下のようなケースでは、他の書類も必要となりますので、裁判所に確認をされるとよいでしょう。

・申述人が、被相続人の配偶者
・申述人が、被相続人の子の代襲者(孫,ひ孫等)(第一順位相続人)
・申述人が、被相続人の父母・祖父母等(直系尊属)(第二順位相続人)
・被相続人の兄弟姉妹及びその代襲者(おいめい)(第三順位相続人)

相続放棄の申述に必要な費用としては、相続放棄の申述には収入印紙800円分と連絡用の郵便切手代を考えておきましょう。ただし、専門家に手続きを依頼する時には、代行費用として数万円を考慮しておく必要があります。

申述書の記入と提出

必要書類に挙げた相続放棄の申述書は、裁判所ホームページでダウンロードが可能で、2ページ構成になっています。1ページ目には、相続放棄をする方の本籍、住所、電話番号、氏名、生年月日、職業、被相続人との関係を記入します。また、被相続人(亡くなられた方)の情報として本籍、住所、氏名、死亡当時の職業、死亡日を記入する欄もあります。

2ページ目には相続放棄の申述の趣旨を記入します。相続の開始を知った日、相続放棄の理由、相続財産の概略が主な内容です。相続放棄の理由としては以下の選択肢が挙げられていますが、1~5に該当しない理由も記入することができるようになっています。

1.被相続人から生前に贈与を受けている
2.生活が安定している
3.遺産が少ない
4.遺産を分散させたくない
5.債務超過のため

相続放棄するときに気をつけること

相続放棄は、先ほどのような流れで手続きを行いますが、相続放棄をする際および相続放棄をした後に気を付けておきたいことについてご説明します。

親族に伝えるだけでは放棄できない

相続放棄の概要をお伝えした際にも、少し触れた内容です。相続放棄をするためには、家庭裁判所への申述(申し立て)が必ず必要になります。ご親族に相続放棄をする旨を伝えただけでは、放棄したことにはならないことには注意が必要です。

放棄の波及効果を知っておく

法定相続人は、配偶者を別にして、第1順位(子)、第2順位(父母、祖父母など直系尊属)、第3順位(兄弟姉妹)の順番で決まります。相続放棄をすると、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなされます。

たとえば、父、子、父の妹がいる状態で、父が亡くなった時の法定相続人は子となります。この時、子が相続放棄をすると、法定相続人は父の妹となります。このように、相続放棄をした場合、後位の法定相続人に相続権利が移動して、後位の法定相続人に責任を負わせる可能性もあるため、あらかじめ相続放棄をする旨を伝えておくのが望ましいでしょう。

全ての法定相続人が放棄をした場合

たとえば、先に挙げた「父・子・父の妹」の例で、子が相続放棄した後、父の妹も相続放棄するといったケースも考えられます。この場合、民法では「相続放棄をした者は、その相続放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。」としています。

つまり、相続放棄をしても、相続人、または相続財産管理人が決まるまでの間、相続放棄をした者に管理責任があるということです。相続放棄の際には、相続財産管理人の選任など管理についての検討も行っておく姿勢が必要です。

※相続財産管理人
家庭裁判所は,申立てにより,相続財産の管理人を選任します。相続財産管理人は,被相続人の債権者等に対して被相続人の債務を支払うなどして清算を行い,清算後残った財産を国庫に帰属させることになります。

相続財産管理人の報酬は、相続財産から支払われます。ただし,相続財産が少なくて報酬が支払えないと見込まれる時は,申立人から報酬相当額(10~20万円)を家庭裁判所に納め,それを財産管理人の報酬に充てることもあります。

相続放棄以外に相続不動産から手を放す方法 

相続放棄は、相続が発生したことを知った時から原則として3か月以内に行わなければなりません。しかし、期限に間に合わないケースも考えられます。その場合、不動産を所有することになるため、管理や固定資産税などの支払い負担などが生じます。そのような負担を回避するため、相続を放棄する以外の方法として以下のような方法があります。

【売却】
売却をすれば、相続した不動産から手を放すこともできます。売却の方法については、地元の不動産会社に相談しながら検討されるとよいでしょう。

【寄付】
自治体、または個人や法人に寄付するという方法もあります。寄付によって、贈与税や所得税の負担が生じる場合もあります。

まとめ

就職などで親元から遠く離れて暮らしている方は、将来的に親の所有している自宅などを利活用するのは物理的に難しいでしょう。とはいえ、相続放棄しても管理責任が消えるわけではありません。相続放棄を検討するのであれば、早めに相続財産の把握を行い、ご家族で相続放棄のその後にも目を向けた相続対策を話し合うことが肝要といえます。

この記事の監修者

キムラ ミキ

キムラ ミキ

【資格】AFP/社会福祉士/宅地建物取引士/金融広報アドバイザー

日本社会事業大学 社会福祉学部にて福祉行政を学ぶ。大学在学中にAFP(ファイナンシャルプランナー)、社会福祉士を取得。大学卒業後、アメリカンファミリー保険会社での保険営業を経て、(マンションデベロッパー)にてマンション営業、マンション営業企画に携わった。その後、2008年8月より独立し、現在、自社の代表を務める。

●紹介されている情報は執筆当時のものであり、掲載後の法改正などにより内容が変更される場合があります。情報の正確性・最新性・完全性についてはご自身でご確認ください。
●また、具体的なご相談事項については、各種の専門家(税理士、司法書士、弁護士等)や関係当局に個別にお問合わせください。