親が認知症に…相続手続きをスムーズに進めるためにできること

監修逆瀬川 勇造

  • 公開日:
  • 2021年01月04日
  • 更新日:
  • 2021年01月04日
親が認知症に…相続手続きをスムーズに進めるためにできること
ご両親を初め親族の方に認知症の方がいる方は、将来、相続の手続きをどのように進めればよいか不安に思っている方もいらっしゃるかもしれません。この記事では、ご両親がご高齢で将来認知症が心配されるケースや、共同相続人の中にすでに認知症の方がいるという方に向けて、できるだけスムーズに相続の手続きを進められるよう、具体的な問題や事前に立てられる対策をご紹介していきます。

目次

相続と認知症

この記事では相続と認知症についてお伝えしていきますが、すでに相続に関係する親族の中に認知症の方がいるケースはもちろん、そうでない方にも読んでいただきたい内容です。というのも、日本は超高齢社会と呼ばれており、今は大丈夫でも将来長生きすればするほど、認知症になってしまうリスクは高くなるからです。

高齢社会と認知症について、データを見てみましょう。総務省統計局のデータによると、日本の65歳以上の高齢者は1950年以降一貫して増加しており、2012年に3,000万人を超え、2018年9月には3,557万人となりました。日本の総人口は2008年にピークを迎えて以降、減少に転じているのにも関わらず高齢者の人口は増えており2018年9月には高齢者人口の割合は28.1%となっています。この傾向は今後も続くとされており、将来推計では2040年に35.3%になると見込まれているのです。

また、内閣府のデータによると、2012年時点の高齢者の認知症患者数は462万人と、高齢者7人に1人となっていますが、将来推計を見てみると2025年には約700万人、高齢者5人に1人が認知症になると見込まれています。これらのデータからもわかるように、認知症はご家族にもご自身にも起こりうる問題の一つです。認知症になった場合でもスムーズに相続の手続きを進められるよう準備をしておきましょう。

認知症は意思能力がないと判断されてしまう

認知症と診断されてしまうと、法律上、意思能力がないと判断され法律行為ができなくなってしまいます。たとえば、不動産の売却も相手方と売買契約を結んで行う法律行為です。このため、認知症となった方は、原則として不動産を売却することができなくなり、結果として、相続の手続の際にもさまざまな問題が生じてしまう要因となってしまいます。

被相続人が認知症の場合に起こる問題

被相続人が認知症になってしまった場合、正常な判断能力を欠いている方が行った法律行為は無効とされるため、遺言書を作成できなくなるほか、相続対策として不動産を売却するといったこともできなくなります。こうした場合、どのような対策ができるのでしょうか?

被相続人が認知症になる前にできること

ここでは、被相続人が認知症になる前にできることとして、以下の3つをご紹介します。

・家族信託の活用
・任意後見の契約
・遺言書の作成

それぞれ見ていきましょう。

家族信託の活用

まずは家族信託を活用する方法です。家族信託とは、資産を持つ方が特定の目的のために、その資産の管理や処分を家族に信託する仕組みのことで、認知症になって判断能力が低下した後も信託を受けた家族が財産の管理、処分をすることができます。かかる費用は管理をまかせる信託財産の規模によりますが、家族に信託することになるため、信託銀行に信託することなどと比べると、低コストで済ませることができます。

また、家族信託を遺言の代用として活用することに加え、遺産を相続した人が亡くなった後、誰に財産を承継してほしいといったことまで指定できるといった特徴があります。家族信託については、以下の記事で詳しく解説しています。

任意後見の契約

認知症になる前であれば任意後見制度を活用することもできます。任意後見制度を利用するには、委託者が元気なうちに、受託者との間で依頼する内容について任意後見契約を結ぶことが必要です。任意後見制度を結んでおけば、いざ認知症になってしまったときに裁判所に申し立てることで、契約の内容に沿って財産の管理をすることができます。また、認知症になるまでの間は効力を発しないため、将来の予防のために、とりあえず契約を結んでおくといったことが可能です。

遺言書の作成

民法上、遺言できる人の条件に「遺言能力のある人(民法963条)」という記載があり、認知症の場合は即無効とはいえませんが、当時の判断能力があることを示す書類を残しておく等、対策が必要になります。一方、遺言書に有効期限はないため、認知症になる前の元気なうちから遺言書を作成しておくと安心です。あわせて、相続税対策として、不要な不動産を処分しておくといったことも、できるだけ早いタイミングで準備を進めていくとより安心できるでしょう。

相続人が認知症の場合に起こる問題

認知症になって困るのは、何も被相続人だけではありません。相続人が認知症になってしまった場合、遺産分割協議の際に問題となります。遺産分割協議とは、被相続人が遺言書を遺さなかった場合に、相続人全員で集まって遺産の分割方法を決める話し合いのことで、仮に認知症であったとしても、相続人のうち1人でも欠けた協議は無効となってしまいます。では、相続人に認知症の人がいた場合、どのように対処すればいいのでしょうか。

認知症の人との遺産分割協議の方法

遺産分割協議を行わない場合は、相続人の認知症の有無にかかわらず、法定相続分の割合で分割が行われることになりますが、法定相続人の誰かが認知症になってしまっていた場合、意思能力が欠如しているとされ、遺産分割協議に参加することができません。遺産分割協議も法律行為であり、意思能力のない方の遺産分割協議は無効とされてしまうためです。

また、相続財産の中に不動産がある場合、その不動産についても、遺産分割協議で誰が相続するかを自由に決めることができないため、法定相続分に基づいて共有持分とするしかありません。しかし、認知症の相続人の方がいる場合でも、成年後見制度を活用すれば、遺産分割協議は可能になるのです。

なお、遺産分割協議は原則として遺言書がないときに行うもので、相続人が遺言書を遺していた場合には、相続人の誰かが認知症だったとしても、遺言書どおりに相続財産の分割を行って問題ありません。

成年後見制度とは

成年後見制度とは認知症や知的障害などで判断能力が不十分な方々を保護し、支援するための制度です。成年後見制度には先にご紹介した任意後見制度のほか、法定後見制度があります。任意後見制度の場合、元気なうちに後見人を決めておくことができますが、法定後見制度の場合、認知症になった後、家庭裁判所に申し立てることで、家庭裁判所により後見人が選任されることになります。

成年後見制度を利用する流れ

【法定後見制度を利用する場合】
裁判所のウェブサイト等で入手できる申立書や診断書のほか、本人の戸籍謄本、後見人の戸籍謄本、住民票等が必要になります。また、本人の精神状態について鑑定するための費用や印紙代、登記費用、後見人への報酬等で数万円程度の費用が必要です。

なお、法定後見制度では選任申立後、家庭裁判所による親族への照会作業や本人調査、医師による鑑定など行う必要があるため、審判が下りるまで2~5か月程度かかります。できるだけ早いタイミングで手続きを進めておきましょう。

【任意後見制度の場合】
本人の判断能力のあるうちに、将来、自分の後見人となってくれる人を探して任意後見契約を結びます。任意後見契約では、このように相手を選ぶことができるのに加え、支援してもらう内容を決めておくこともできます。具体的には以下のような項目です。

・生活や介護、療養について
・不動産を含む財産の処分について
・任意後見人に支払う報酬や経費について

任意後見契約書は公正証書で作成する必要があるため、任意後見の内容を定めたら、その案をまとめたものを公証役場に持ち込みましょう。任意後見契約が結ばれた後は、本人の判断能力が不十分になった段階で家庭裁判所に任意後見監督人を選任してもらうための申立てを行ない、選任が行われたら後見人としての仕事が始まることになります。

成年後見制度を利用する際の注意点

成年後見制度を利用する際は、以下のような点に注意が必要です。

・後見人は替えられない
・途中で後見制度の利用を止められない
・費用がかかる
・任意後見制度を利用する場合は本当に信頼できる親族や友人を選ぶ

まず、一度成年後見制度を利用して選任が決まった場合、後見人の病気や高齢、遠隔地への転居といった正当な事由がある場合を除き、勝手に変えることはできません。また、途中で後見制度をやめることもできません。成年後見制度では、後見人に対して管理財産額に応じて、月額2~6万円程度の報酬を支払い続ける必要があるため、十分注意が必要です。

また、成年後見制度の中でも、元気なうちに任意後見契約を結んでおく任意後見制度を利用する場合、契約の相手は本当に信頼できる親族や友人を選ぶことが大切です。というのも、任意後見契約を結ぶときは併せて財産管理契約も結ぶのが一般的ですが、悪意ある後見人だと、判断能力が低下した後、家庭裁判所に申立てをせずに任意後見契約ではなく財産管理契約に基づいて勝手に財産を処分してしまうといことが起こり得るからです。

日頃から相談先だけでも検討しておこう

今は家族全員元気でも、いつ認知症になるかは誰にも分かりません。認知症になった後でも成年後見制度を利用するなど方法はありますが、認知症になる前の方が選択肢は多いです。早い段階で、相続について弁護士や司法書士、行政書士、税理士など専門家に相談しておくことを考えておきましょう。そうしておくことで、認知症になっても適切な措置をとることができます。

まとめ

被相続人、もしくは相続人の誰かが認知症になったときに起こる問題と対処法についてお伝えしました。認知症になると、不動産の売却や遺言書の作成、遺産分割協議への参加など法律行為ができなくなってしまいます。ご家族が高齢化すれば、認知症になるリスクは高くなっていくもの。ご自身にも起こりうる問題として、相続の際の認知症対策について、早いタイミングから準備を進めていくことをおすすめします。
逆瀬川 勇造

監修逆瀬川 勇造

【資格】AFP(2級FP技能士)/宅地建物取引士/相続管理士

明治学院大学 経済学部 国際経営学科にてマーケティングを専攻。

大学在学中に2級FP技能士資格を取得。
大学卒業後は地元の地方銀行に入行し、窓口業務・渉外業務の経験を経て、2011年9月より父親の経営する住宅会社に入社し、住宅新築や土地仕入れ、造成、不動産売買に携わる。

●紹介されている情報は執筆当時のものであり、掲載後の法改正などにより内容が変更される場合があります。情報の正確性・最新性・完全性についてはご自身でご確認ください。
●また、具体的なご相談事項については、各種の専門家(税理士、司法書士、弁護士等)や関係当局に個別にお問合わせください。