話題の家族信託|所有している賃貸物件を家族信託するときの特徴と注意点

2023.12.07更新

この記事の監修者

キムラ ミキ

キムラ ミキ

【資格】AFP/社会福祉士/宅地建物取引士/金融広報アドバイザー

話題の家族信託|所有している賃貸物件を家族信託するときの特徴と注意点

認知症などの判断力低下で、賃貸経営が困難になった時に備えられるのが家族信託。家族信託の概要と進め方についてご説明します。

目次

大家さん引退後の所有物件についてどのように考えていますか?

大家さんを引退した後のイメージはお持ちですか?年齢を重ねると認知症などで判断能力が低下する可能性もあるため、いずれは賃貸経営を相続など何らかの形で誰かにバトンタッチしなくてはならない時期が必ずやってきます。

その時期を見通して、相続対策やバトンタッチ後のトラブル回避など、大家さん引退後の出口戦略について情報収集を行い、検討を重ねるのは、賃貸経営を行う上で大切な姿勢であると認識しておきましょう。

家族信託とは

出口戦略を検討するうえで知っておきたい手段の1つとして「家族信託」があります。家族信託とは、文字通り家族に(財産管理を)信じて託すことをいいます。家族信託には、以下の3つの機能があります。

委任契約機能

大家さんの財産管理を子などの家族に任せられる、委任契約機能があります。

後見制度機能

将来、認知症などにより大家さんの判断能力が低下した場合にも、財産管理を任された子などの家族が引き続き、財産管理を行ってもらえる機能があります。家族信託は、成年後見制度よりも柔軟に財産管理を行うことができます。

遺言

大家さんが亡くなった後、財産を誰に承継させるかを指定できる遺言機能があります。もしも承継した者が亡くなった場合などに備え、2番手、3番手の承継者指定もできるため、家族信託は遺言よりも柔軟な財産の承継ができます。

家族信託の仕組みと利用の流れ

族信託は、委託者と受託者が家族信託契約を締結し、委託者から指定を受けた財産(信託財産)について受託者が管理・処分を行います。信託財産から生じた利益等は、受益者が受取ります。なお、信託財産の所有権は、形式的に受託者に移転します。

なお、受託者の管理・処分について、不安が残る場合には、信託監督人の設定もできます。この家族信託の仕組みを活用して賃貸経営のバトンタッチを行う場合、次のような流れで手続きを行います。

1.家族信託を行う目的を決めます。今回の場合、賃貸経営の承継です。

2.信託契約の内容を決めます。今回の場合、賃貸物件の管理・処分をする者、および委託者が亡くなった場合の承継者を誰にするか、などを決める必要があります。なお、契約で管理・処分の範囲に制限を設けることも可能です。

3.信託契約の内容を書面におこし、公正証書にします。この際、後々のトラブル回避のためにも、経験豊富な専門家のサポートを必ず受けましょう。

4.不動産の登記を名義変更します。形式的に賃貸物件の所有権移転が生じます。形式的であるため、一般的な所有権移転登記よりも登録免許税は低くなります。

5.家族信託専用の銀行口座を開きます。家賃の振り込みなどに活用します。

家族信託する際の初期費用

家族信託の活用において、すでにお話したとおり、専門家への依頼が必要になります。また公正証書の作成、形式的な所有権移転にかかる登録免許税などの初期費用がかかります。

しかし、家族信託締結後は、関わる人物は家族のみとなるため、継続的に支払いが必要なコストは生じません。なお、信託監督人を専門家などに依頼する場合は、その費用も要する点には留意しておきましょう。

家族信託にかかる税金

賃貸物件を家族信託する際、委託者と受益者が同一の場合、課税される税金は、以下の通りです。

税金課税対象負担者
所得税家賃収入および売却収入受益者
固定資産税賃貸物件(土地、建物、設備)原則として名義人である受託者
※契約で受益者の受け取る収入から支払う旨を取り決める場合が多い
登録免許税固定資産税評価額受託者

なお、委託者と受益者が別である場合、受益者には贈与税が課税される可能性があります。ただし、贈与税が課税されない範囲内であれば、家族信託を活用して、財産移転を行える可能性もあり、相続対策につながる可能性もありますが税理士への相談をおすすめします。

また、委託者が亡くなった場合に、信託財産を承継する者には、相続税が課税されます。法定相続人が複数いる場合、遺留分(※注)侵害が生じる可能性があるため、家族信託の契約内容は、相続時の遺産分割を想定して慎重に検討を重ねる必要があります。

※遺留分
民法に規定されている一定の法定相続人(配偶者、子、親などの直系尊属)に認められている権利で、相続財産の最低限の受取割合をいいます。

所有物件を家族信託する時の特徴と注意点

所有する賃貸物件を家族信託するとできること、そしてその際、注意しておきたいことについてご説明いたします。

所有物件を家族信託するとどんなことができるか

賃貸経営を大家さんの代で終わらせて、いずれ所有する賃貸物件を売却したいと思っている時を例に、家族信託をした場合とそうでない場合はどのような違いがあるのでしょうか。

【家族信託をしていなかった時】

大家さんが認知症などで判断能力がほぼなくなってしまった場合、みずから売却を進めることが困難になるだけなく、賃貸経営における管理業務の継続も困難になり、管理者不在の賃貸物件が生じてしまう可能性があります。

確かに、その段階になってから、成年後見制度の活用もできます。しかし、成年後見制度は、大まかにいえば本人財産を守るためにあります。財産保護の観点から、成年後見制度によって、管理業務のサポートは認められるでしょう。しかし、売却のサポートについては難しいかもしれません。

不動産の処分等については裁判所の許可が必要だからです。大家さん本人の判断能力がほぼなくなった状態では、本人意思の確認が難しく、本当に売却の意思があったのかどうか確認する術がないため、裁判所は許可を下さない可能性が高いでしょう。

【家族信託をしていた時】

委託者および受益者を大家さん、受託者を子どもとして、所有する賃貸物件を信託財産とした家族信託を締結した場合を考えてみましょう。

賃貸物件の管理業務は子どもが行うため、将来大家さんが認知症などになった場合でも管理者不在の賃貸物件となるのを回避できます。大家さんが認知症などになるまでの間、実質的には大家さんと子どもで一緒に賃貸経営を進めていくのもよいでしょう。

なお、賃貸物件の所有権は形式的に子どもに移転しますが、受益者である大家さんは、今まで通り、家賃収入を得られるため、たちまち生活に窮することはありません。

また、家族信託の契約内容に賃貸物件の売却についても盛り込んでおけば、タイミングを見て子どもが売却を進めることもできます。

所有物件を家族信託する時の注意点とは

家族信託は、あくまでも性善説に基づいた制度といえます。しかし、財産管理を任された受託者が望ましくない行為(家賃収入などの窃取など)をする可能性はゼロではありません。そのような不安が残る場合には、信託監督人の設置も検討されるとよいでしょう。

また、先ほども述べましたが、家族信託の契約内容は、相続時の遺産分割も想定し、慎重な検討を行う必要があります。特段の理由なく、法定相続人の相続バランスが著しく偏る場合には、相続人間でトラブルが生じる可能性もあります。

まとめ

成年後見制度や遺言といった従来の相続対策よりも、柔軟な運用ができる家族信託。家族信託は、大家さんが賃貸経営の出口戦略を考えるうえで、とても有益な手段の1つといえます。

しかし、繰り返し述べたように、家族信託の契約内容によってはトラブルの火種となってしまう可能性もあります。出口戦略のイメージや、家族信託の大まかな構想を考えるのは、大家さん単独で行うのもよいですが、実際に契約書面を作る前には専門家に判断を仰ぎ、慎重に準備を進めていくことが肝要です。

この記事の監修者

キムラ ミキ

キムラ ミキ

【資格】AFP/社会福祉士/宅地建物取引士/金融広報アドバイザー

日本社会事業大学 社会福祉学部にて福祉行政を学ぶ。大学在学中にAFP(ファイナンシャルプランナー)、社会福祉士を取得。大学卒業後、アメリカンファミリー保険会社での保険営業を経て、(マンションデベロッパー)にてマンション営業、マンション営業企画に携わった。その後、2008年8月より独立し、現在、自社の代表を務める。

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