賃貸経営の要ともいわれる「出口戦略」。その考え方をご紹介します

2023.11.22更新

この記事の監修者

キムラ ミキ

キムラ ミキ

【資格】AFP/社会福祉士/宅地建物取引士/金融広報アドバイザー

賃貸経営の要ともいわれる「出口戦略」。その考え方をご紹介します

賃貸経営をするなら、避けては通れないのが出口戦略。この記事では出口戦略の概要と、取り得る選択肢についてご紹介します。

目次

お持ちのアパートの今後、考えていますか?

現在、賃貸経営を行っている不動産について、将来的にどうするのかを考えていますか?例えば、お子さんに相続をしたり、生前贈与をしたりすることを考えている方もいらっしゃるかもしれませんね。

また、将来的には売却を検討しているという方や、中には、考えてみたこともなかったという方もいらっしゃるかもしれません。現在、賃貸経営を行っている不動産について、将来的にどうするのかの見通しを立てるのはとても重要です。なぜなら賃貸経営は、未来永劫、自分自身で継続できないからです。

考えておきたい「出口戦略」

必ず、賃貸物件が大家さんの手を離れるときはやってきます。ただしそのタイミングは、相続時とは限りません。

賃貸経営から引退等するタイミングをいつにするのか、そしてどういう風に終わらせるのか等々、事前に考えるのが「出口戦略」です。

出口戦略とは

出口戦略とは、賃貸物件を手離すタイミングやその手段を考えることを指すのは、先述した通りです。賃貸経営を終わらせることは、利益確定にもつながります。

理想を言えば、出口戦略は賃貸物件を相続したり購入したりする前に、考えておきたいものです。しかし、「終わらせる」ということを考えて賃貸経営を始める方は少数派かもしれません。いかなる段階にあるにせよ、賃貸経営を行う以上、早め早めに出口戦略について考えるのは非常に大切です。

賃貸経営における出口戦略の選択肢

出口戦略の選択肢として、どのようなものが考えられるのか、大きく「売却する」と「保有する」に分けて、一棟アパートを所有する大家さんを例に挙げてご説明をいたします。

売却する

売却によって、賃貸物件から手を離す方法です。売却よって、売却利益(売却収入から、仲介手数料等の必要経費を差し引いて残るもの)を得られます。ただし、賃貸物件に売却益を超える残債がある場合は売却後も、返済負担は残ります。

また物件の条件(価格、築年数、エリア等)によっては買い手が付きづらい可能性もあります。現状の入居率が高いなど賃貸経営の状況が良好であれば、買い手がつきやすいでしょう。

そのまま売却

現況のまま売却を行う方法です。入居率等の賃貸経営状況が良好であれば、そのまま売却しても買い手がつきやすいでしょう。

更地にして売却

賃貸物件を解体し、更地にして売却を行う方法です。解体費用が必要となります。また、売却までに時間を要する場合には、土地にかかる固定資産税の負担が、賃貸物件が土地上に存在しているときよりも増えるので注意しましょう。

リノベーション・リフォームして売却

賃貸物件をリノベーション・リフォームして売却を行う方法です。賃貸経営の状況が良好と言えない場合には、リノベーション等を行って印象のよい物件にして売却するのも一案です。

短期譲渡と長期譲渡

売却を出口戦略の選択肢として検討する場合は、短期譲渡・長期譲渡のどちらの税率が適用になるタイミングで売却するかを考えるのも大切です。

不動産の所有期間が5年以下であれば短期譲渡、5年超であれば長期譲渡の税率が売却益に対して課されます。なお、短期譲渡の税率は39.63%、長期譲渡の税率は20.315%となっています。

保有し続ける

賃貸物件として保有し続け、相続や生前贈与によって子などに事業承継する方法です。賃貸物件として保有し続けるメリットとしては、引き継いだ方(子など)が賃料収入を得られる点が挙げられます。

ただし、賃貸物件の管理や修繕にかかる費用、アパートローンの残債がある場合には返済費用の負担も引き継ぐ必要がある点には留意が必要です。

相続する

大家さんの死後に、賃貸物件を相続人に引き継ぐ方法です。相続人には相続税が課されます。

賃貸経営の状況が芳しくなく、残債もあるといった負の財産を引き継ぐのは誰でも敬遠します。「引き継ぐ」を敬遠されないためにも、賃貸経営を良好な状態に保っておくことが肝要です。誰に相続させるかを決めた後は、あらかじめ賃貸経営に関わる取引先、経営状況、将来における修繕計画やその積み立て状況についても説明しておきましょう。

それによって、相続予定の方も、あらかじめ賃貸物件の相続について心の準備ができ、相続後、賃貸経営を継続するのか、売却をするのか等時間をかけて考えることができます。

また、相続においては賃貸物件以外の相続財産の分割のバランスも考慮して、大家さんの死後、相続人の間でトラブルが生じないように、弁護士などの専門家に相談して、遺言書を書くのも大切です。

生前贈与する

大家さんがご健在の内に、賃貸物件を贈与する方法です。贈与を受けた方には、贈与税が課されます。贈与税は相続税よりも税率が高く設定されています。なお、相続時精算課税制度※を活用し、贈与税を軽減できる場合もあります。いずれにしても、生前贈与を検討する際には、専門家に相談して慎重に行いましょう。

※相続時精算課税制度
相続時精算課税制度とは、原則として60歳以上の父母又は祖父母から、20歳以上の子又は孫に対し、財産を贈与した場合に2500万円までは贈与税が非課税となります。ただし、贈与者の相続の際には、その非課税となった生前贈与について相続税が課税されます。

自宅にする・自宅として建て替える

賃貸物件を自宅にしたり、自宅として建て替えたりなどして、賃貸経営を終わらせて、不動産の保有を続ける方法です。賃貸物件に入居者がある場合には、退去をお願いしなくてはならないため、引越し先のあっせんや費用負担等が必要となる場合があります。

また一般的な賃貸借契約の場合、少なくとも半年前に退去(契約解除)の申し入れをする必要もあるため、一朝一夕に賃貸物件を自宅にするということはできません。

賃貸物件から自宅にする、または建て替える時期をあらかじめ設定し、定期借家権契約を活用するなど、長期的視点での賃貸経営ビジョンを立てておく必要があります。

また、賃貸物件の解体費用や自宅建て替え費用などが必要となります。アパートローン残債がある場合には、その返済も継続します。それらの考慮も含めた資金計画を練っておくことも大切です。

ジャッジする基準は?

出口戦略には、いくつかの選択肢がありますが、どの出口戦略を選ぶかは、賃貸物件の築年数、物件状況(入居率、修繕履歴及び予定、修繕積立など)、アパートローン残債の有無等々によって異なります。

例えば、築古物件で、修繕にもあまり手をかけていない賃貸物件を売却したいといっても、なかなか買い手がつかない可能性もあります。また、そろそろ賃貸経営を終えて、自宅に替えてしようと思っても、なかなか入居者が退去してくれなかったり、リフォーム費用等の借入れをしようと思っても年齢条件を満たさなかったり、等々の理由で暗礁に乗り上げる場合もあります。

「理想を言えば、出口戦略は賃貸物件を相続したり購入したりする前に、考えておきたいものです」と冒頭でお話した理由はここにあります。いざ、その場になって賃貸経営を終わらせる選択肢を模索しても、資金準備が整わなかったり、あの時こうしておけばよかったという後悔をしたりして、出口を見つけ辛くなってしまう可能性があります。だからこそ、出口戦略を早め早めに考えておくことが大切なのです。

まとめ

賃貸経営は、その言葉の通り事業の「経営」です。経営者である大家さんは、事業を始めた以上、その将来像についてビジョンを思い描く責任があります。出口戦略なんて、先のことは分からないと一蹴してしまうのではなく、長期的視点で賃貸経営の将来像を今考えてみるきっかけにしてみてください。それは将来、入居者やご家族に負担を残さないためにも、必ず役に立ちますよ。

この記事の監修者

キムラ ミキ

キムラ ミキ

【資格】AFP/社会福祉士/宅地建物取引士/金融広報アドバイザー

日本社会事業大学 社会福祉学部にて福祉行政を学ぶ。大学在学中にAFP(ファイナンシャルプランナー)、社会福祉士を取得。大学卒業後、アメリカンファミリー保険会社での保険営業を経て、(マンションデベロッパー)にてマンション営業、マンション営業企画に携わった。その後、2008年8月より独立し、現在、自社の代表を務める。

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