家賃の回収ってどうなるの?入居者が死亡した際に大家さんがするべきこと

2024.07.31更新

この記事の監修者

キムラ ミキ
キムラ ミキ

AFP/社会福祉士/宅地建物取引士/金融広報アドバイザー

家賃の回収ってどうなるの?入居者が死亡した際に大家さんがするべきこと

入居者が死亡した際家賃回収や残置物の処理や原状回復賃貸契約解除など大家さんが行うべき手続きやその手順と事前対策をご紹介。

この記事のポイント
  • 入居者が死亡したら賃貸借契約はただちに解約されるというものではなく、賃借権は相続人に引き継がれることに。
  • 「終身建物賃貸借契約」とは入居者が死亡することによって賃貸借契約が終了する契約。入居者死亡のリスク対策になります。
  • 時代背景を意識したリスク対策を講じておくことは必須。コストバランスも考えながら対策方法を考えましょう!

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目次

単身入居者の孤独死は珍しくない

内閣府の「令和6年版 高齢社会白書」によると、東京23区内における一人暮らしで65歳以上の人の自宅での死亡者数は、2012年は2,733人となっていましたが、2022年には4,868人となり、年々増加傾向にあります。

また、2024年5月に警察庁から発表された「2024年1~3月の自宅で死亡した一人暮らしの人数」は、21,716人でした。そのうち約14.5%は60歳未満となっており、孤独死が生じる可能性は高齢者ばかりではないことがわかります。

孤独死が増加傾向にある今日、大家さんが所有している賃貸物件において、入居者が死亡する可能性はゼロではありません。万一、入居者が死亡したときに、やらなくてはならないことをあらかじめ知っておき、対策を講じておくことは大切な備えです。

入居者が死亡しても賃貸借契約は解約されない

入居者が死亡したら、賃貸借契約はただちに解約されるというものではありません。なぜなら、入居者の権利である賃借権は相続の対象となるからです。いざという時に慌てないように、賃貸借契約や相続についての規定がある民法について改めて理解を深めておきましょう。

賃貸借契約とは

賃貸借契約とは、民法601条(賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる)に基づいた契約をいいます。

この賃貸借契約における入居者の権利を賃借権といいます。賃借権は、家賃を払う代わりに、目的物を使用収益できる権利です。なお、賃借権は一身専属権(本人にのみ帰属する権利)ではありません。

入居者、つまり賃貸借契約をしていた方が死亡すると、賃借権は民法896条(相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。)に基づいて、相続の対象となります。

そのため、賃貸借契約は、入居者死亡後ただちに解約されるものではなく、賃借権は相続人に引き継がれることになります。

まずは相続人の有無を確認しよう

先に述べたように賃借権は、相続人に引き継がれることになります。とはいえ相続人は引き続き賃貸物件を使用する必要性がなく、賃貸借契約継続を希望しない場合がほとんどでしょう。

そのため万一入居者が死亡した場合には、相続人の有無を確認し、大家さんと相続人との間で賃貸借契約を解約し、残置物処理などの協力を仰ぐ必要があります。相続人がいない場合には、弁護士への相談も必要です。

まずは保証人や緊急連絡先などに連絡して、相続人の有無を確認しましょう。なお、孤独死や自殺の場合は、警察が親族を調べて連絡するので、その親族から相続人の有無を聞ける場合もあるでしょう。

それでもなお、相続人の存在が分からない場合は弁護士に依頼して探してもらうことになります。

入居者が死亡した際に大家さんがするべきこと

入居者が死亡した際、大家さんが、相続人捜索後に行うこと(原則として相続人がいる場合)についてご説明いたします。

①残置物の処理
入居者が死亡した際に、残置物(残された家具などの家財道具など)を処分して、部屋を明け渡してもらう必要があります。大家さんが勝手に処分することはトラブルの原因になります。必ず相続人に残置物の処分をしてもらうようにしましょう。

②原状回復、費用請求
相続人には、残置物を処分し、原状回復もお願いすることになります。遺体発見までに時間を要した場合、特殊清掃(遺体の腐敗や腐乱によりダメージを受けた室内の原状回復のための特別な清掃)が必要となる可能性もあるでしょう。

便宜上、手配は大家さんが行うことになる場合もありますが、原状回復費用のうち、「賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧する」費用については相続人に請求を行いましょう。

③家賃回収
未収家賃がある場合には、相続人に支払いを請求して回収をします。

④賃貸借契約の解約
賃貸借契約の解約および敷金精算を行い、相続人に敷金に残額がある場合には返還を行います。

⑤死亡原因・状況の確認
どのような原因で死亡したかを確認しましょう。基本的には物件で人が亡くなった場合、新しい入居者を募集する際には告知をする義務が発生します。

とくに、他殺や自殺は告知義務のある「判断に重要な影響を及ぼす事項」に該当します。しかし老衰死などの事件性がない病死や自然死に関しては、一定期間経過後は告知する必要はないとするのが一般的です。ただ、発見が遅く遺体の損傷が激しい場合や、悪臭が発生している状況などは、「判断に重要な影響を及ぼす事項」に該当する場合もあるでしょう。

⑥損害賠償請求
入居者の死亡によって新しい入居者が決まらなかったり、家賃を減額しなければならなかったり、といったことも生じる可能性があります。死亡原因や状況によっては相続人に、損害賠償を請求できる場合もあります。ただし入居者に過失がない場合など、必ずしも損害賠償請求ができるとは限らないため、弁護士と相談が必要です。

⑦次回募集の告知内容
弁護士、および管理会社と相談の上、新しい入居者を募集する際に、重要事項説明でどのように告知をするのか、家賃をいくらに設定するのか、打ち合わせが必要です。

なお、老衰死などの事件性が無い病死や自然死に関しては、半年以上経過しているときには告知義務はないとする判例もあります。そのため少し時間をおいてから入居者募集を行うというのも1つの方法です。

相続人がいる場合

相続人が複数いる場合には全員に未収家賃や原状回復費用を請求することができます。また賃借権は不可分債権(分けることができない権利)であり、連帯債務の規定が準用されます。そのため一人の相続人に請求したことは、すべての相続人に請求した効果を生じることになります。

相続人が相続放棄した場合

相続人がいても、すべての相続人が相続放棄をする可能性もあります。しかし、相続放棄をしたとしても、賃貸物件の電気・ガス・水道などの解約手続きは、相続放棄した相続人が代行できます。なお、この場合、未収家賃および原状回復費用は大家さんの負担となる可能性が高いでしょう。

相続人がいない場合

相続人がいない場合には、弁護士に相談し、家庭裁判所に相続財産管理人を選任してもらうことになります。相続財産管理人は、相続人や相続財産の調査を行い、相続財産から必要な支払いを行ったり、残余財産を国庫に帰属させたりという役割を担います。

その経費や相続財産管理人の報酬を担保するため、相続財産管理人の選任申立に際して、予納金が必要になることには留意が必要です。ただし、相続財産が少ない場合には予納金から経費や財産管理人の報酬が差し引かれ、返還されない可能性が高いと考えておきましょう。

入居者死亡のリスクに備えて大家さんができること

入居者が死亡したときのリスクは、相続人と連絡がとれず家賃支払や明け渡しをしてもらえなかったり、入居検討者から敬遠されて新しい入居者が見つからなかったりする場合など、さまざまあります。

日ごろから入居者本人の安否に関わる様子のサイン(郵便物の溜まり具合、生活時間やスタイルの変化など)に管理会社の協力も得ながら、注意を払うことも大切です。そのほかリスクに備えて、大家さんができることを簡単にご説明いたします。

家賃保証会社の利用

家賃保証会社の利用が対策として考えられます。家賃保証会社を利用すると、未収家賃や原状回復費用を立て替えてくれるほか、会社によっては一定期間、空室保証をしてくれる場合もあります。

保険の加入

保険に加入するという方法もあります。事故・自殺・殺人事件・火災などにより入居者が死亡したことにより、新しく貸すことができなくなった場合に、原状回復費用の補償や家賃保証をしてもらえる保険商品があるので加入を検討してみましょう。

連帯保証人の選定

契約時に、連帯保証人を相続人または親族に限定するという方法もあります。そうすることで、いざという時、早急に相続人と連絡がとれる状況を作っておくことができます。

終身建物賃貸借契約

終身建物賃貸借契約で賃貸借契約を締結しておく方法もあります。入居者が死亡することによって賃貸借契約が終了する(賃借権が相続されない)契約です。事前に大家さんが都道府県知事の認可を受ける必要がありますが、入居者の年齢が60 歳以上であれば終身建物賃貸借契約を締結できます。

残置物の処理や遺体の埋葬については通常の賃貸借契約の場合と取扱いに差はありませんが、契約で残置物引取人および連帯保証人を定めておくこともできます。

まとめ

超高齢社会の進行、そして晩婚化などの要因もあると考えられますが、冒頭でも触れたとおり、孤独死は増加傾向にあります。入居者の死亡という状況に直面した際に適切な対応がとれるよう、まずはどんな段取りを踏む必要があるのか、事前に知識を得ておくようにしましょう。

また、賃貸経営は、賃貸物件を活用した事業経営である以上、時代背景を意識したリスク対策を講じておくことは経営者として当然の務めです。コストバランスも考えながら、どのような対策を講じておけばよいかを考える時間をもつきっかけにしてみてはいかがでしょうか。

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キムラ ミキ
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AFP/社会福祉士/宅地建物取引士/金融広報アドバイザー

日本社会事業大学 社会福祉学部にて福祉行政を学ぶ。大学在学中にAFP(ファイナンシャルプランナー)、社会福祉士を取得。大学卒業後、アメリカンファミリー保険会社での保険営業を経て、(マンションデベロッパー)にてマンション営業、マンション営業企画に携わった。その後、2008年8月より独立し、現在、自社の代表を務める。

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