終身建物賃貸借契約とは|高齢者の入居を受け入れるなら押さえておきたい契約内容や特徴

2024.07.30更新

この記事の監修者

逆瀬川 勇造
逆瀬川 勇造

AFP/2級FP技能士/宅地建物取引士/相続管理士

終身建物賃貸借契約とは|高齢者の入居を受け入れるなら押さえておきたい契約内容や特徴

この記事では、高齢の入居者を迎え入れる大家さんが知っておきたい、終身建物賃貸借契約の内容や特徴などをお伝えします。

目次

終身建物賃貸借契約とは

高齢者の孤独死、家賃の滞納といった問題があることから、高齢者へは賃貸しないという方針をとっている大家さんもいます。政府はこうした問題に対応するために、高齢者の居住の安定確保に関する法律を制定し、その中で終身建物賃貸借という契約ルールを定めました。

この契約は借主が死亡する時まで存続し、死亡後は契約が終了する賃貸借契約です。これにより、死亡後に相続人に賃貸借契約が相続されてしまい、空室の状態が続いてしまうといった問題を避けることができます。

なお、この制度を利用するには、事業者側が住宅のバリアフリー化や前払い家賃の保全措置を設けるなど、一定の条件を満たすことが必要です。

入居者は、60歳以上かつ単身者、または同居者も高齢者親族であることが求められます。以下、終身建物賃貸借契約についてその詳細やほかの契約との違いについて見ていきましょう。

終身建物賃貸借契約の特徴

改めて、終身建物賃貸借契約は以下のような特徴があります。

・入居者が死亡した場合、契約が終了する
・同居者がいた場合、高齢者の死亡後1か月以内の申出で継続して居住可能
・入居者が死亡した後、残置物をスムーズに処理することができる

まず、終身建物賃貸借契約は、入居者の死亡と同時に契約が終了するもので、高齢者の死亡後に、相続人に賃貸借契約が相続されることで無用な空室期間が生まれなくなるというメリットがあります。入居者側は高齢親族であれば同居が可能で、希望すれば入居者の死亡後、1か月以内に申し出ることで、継続して居住可能となっています。

この時、大家さんは最初の入居者と結んでいた契約と同じ条件で契約を結ぶ必要があり、家賃の値上げ要求などはできないことになっています。

なお、高齢者が死亡した後は残置物(遺留品)の取り扱いについて、通常であれば相続人の許可がないと処理することができませんが、あらかじめ取り決めをしておくことで、大家さん側でスムーズに処理することができます。

普通賃貸借契約、定期借家契約との違い

終身建物賃貸借契約について、普通賃貸借契約や定期借家契約との違いをまとめると下表のようになります。

なお、大家さん側から解約の申し入れをする場合には、真にやむを得ない事情がある必要があり、かつ不等な追い出しとならないよう都道府県知事の承認が必要となります。

真にやむを得ない事情とは、建物の老朽や損傷などの理由により、修繕等に過分の費用を要するに至った時や、入居者が長期間にわたって居住せず、かつ当面居住する見込みがないことにより適切に管理できなくなった時といった状況が挙げられます。

もちろん、入居者による家賃の不払いや用法義務違反などが発覚した場合には、通常の賃貸借契約と同様、契約を解除することができます。

普通借家契約定期借家契約建物終身賃貸借契約
契約方法口頭でも可公正証書公正証書
契約期間1年未満は契約期間のない契約とされる1年未満可賃借人の死亡にいたるまで継続
更新更新される更新されない同居人がいる場合は死亡後1か月以内の同居人の申出により継続可能
対象となる賃借人制限なし制限なし60歳以上の高齢者、同居者は配偶者か60歳以上の高齢親族
敷金制限なし制限なし受領しない
借主からの解約の申し出特約に従う床面積200m2未満かつやむを得ない事情がある場合に特約がなくても解約できる老人ホームへの入居等を理由とする場合、1か月前の通知で解約可能

終身建物賃貸借契約では仮入居が可能

終身建物賃貸借契約は終身にわたる契約ということもあり、入居前に体験といった趣旨で1年間の定期借家契約という形式で仮入居が認められています。これは賃借人からの申出により実施できるもので、申出がない場合には不要となります。

終身建物賃貸借制度を利用する際に必要なこと

終身建物賃貸借制度を利用するには、バリアフリー設計にすることや、前払い家賃の保全措置を講じるなどしたうえで、都道府県知事の認可を受ける必要があります。なお、終身建物賃貸借制度のバリアフリー基準は以下のようになっています。

新築建物の場合

・床は原則として段差がない構造であること
・階段の各部の寸法や廊下の幅、居室の入口の幅など一定の要件を満たしていること
・便所や浴室、階段には手すりを設けること
・3階以上の共同住宅はエレベーターを設置すること

既存建築物の場合

・便所や浴室、階段には手すりを設けること

その他、いずれの場合も国土交通大臣の定める基準に適合すること

終身建物賃貸借制度を利用する際の手続き

終身建物賃貸借制度を利用するには、事業認可申請書を作成して都道府県から認可を受ける必要があります。ただし、政令市または中核市の場合は市が提出先となります。

申請時の必要書類

・賃貸住宅の規模や設備の概要を示した間取り図
・その他都道府県知事が必要と認める書類

東京都の場合の必要書類

・土地建物の権利関係書類
・管理業務者の概要
・終身建物賃貸借契約書と重要事項説明書
・家賃等の収納状況を明らかにする書類
・長期修繕計画書
・誓約書
・保全措置に関する書類

ちなみに、一度都道府県から認可をとっていればよく、個々の入居者との間で契約を結ぶ時に認可をとる必要があるわけではありません。なお、現在すでに高齢の入居者がいる場合での認可申請は可能ですが、認可を取得しても、すでに入居されている方には終身建物賃貸借契約の効果はおよびません。

ただし、現在の入居者との間で、改めて公正証書により賃貸借契約を結び直した場合には、終身建物賃貸借契約として取り扱うことができます。

高齢者の入居受け入れを検討している大家さんへ

終身建物賃貸借契約は入居者、事業者双方にとってメリットがあり、高齢者の入居受け入れを検討している大家さんは、ぜひ利用を検討してみることをおすすめします。

具体的には、この記事で解説した通り、高齢入居者の死亡と同時に契約が終了するため、死亡後に一定期間空室となってしまうことや、残置物の取り扱いに関する心配をする必要がなくなります。また、少子高齢化の進む日本において、現在から将来にわたって、有効な空室対策となりうるでしょう。

ただし、新築の場合には、廊下や居室の入口幅に制限があったり、既存建物であっても、手すりを設置する必要があったりするなど、準備費用が必要になる点には注意が必要です。また、更新がないため更新料をとれない点もデメリットだといえるでしょう。こうした点を総合的に考えて、ご自身の物件への導入を判断することが大切だといえます。

まとめ

終身建物賃貸借契約について、概要やメリット・デメリットなどをお伝えしました。高齢者の入居受け入れを考えている大家さんにとっては、終身建物賃貸借契約の認可をとることで、入居者にとっても事業者にとってもメリットの多い契約となるため、ぜひ利用を検討してみることをおすすめします。

ただし、バリアフリー対策のための費用が必要になるケースがある点や、権利金や更新料がとれなくなるといったデメリットがある点には注意が必要ですが、高齢者の賃貸住宅市場は今後ますます需要が見込まれますので、空き室にお困りの大家さんにも、一考の価値はあるでしょう。

この記事の監修者

逆瀬川 勇造
逆瀬川 勇造

AFP/2級FP技能士/宅地建物取引士/相続管理士

明治学院大学 経済学部 国際経営学科にてマーケティングを専攻。大学在学中に2級FP技能士資格を取得。大学卒業後は地元の地方銀行に入行し、窓口業務・渉外業務の経験を経て、2011年9月より父親の経営する住宅会社に入社し、住宅新築や土地仕入れ、造成、不動産売買に携わる。

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