物価上昇とともに家賃値上げは可能?!タイミングと交渉方法を確かめよう

2023.12.08更新

この記事の監修者

安藤 新之助
安藤 新之助

不動産投資家/株式会社サクセスアーキテクト 代表取締役

物価上昇とともに家賃値上げは可能?!タイミングと交渉方法を確かめよう

物価の上昇は賃貸経営に大きく影響がでます。大家さんとしては家賃に転嫁せざるを得ないのが本音です。この章ではその影響と家賃アップ対策を解説します。

この記事のポイント
  • 家賃の値上げは可能ですが、入居者の合意が必要です。
  • 物価上昇において、家賃の値上げは慎重に行いましょう。
  • 毎月のキャッシュフローを把握し、トレンドに見合った家賃相場を維持することが大切です。

目次

物価上昇による賃貸経営への影響

不動産賃貸経営において建設はもちろん、建設後の運営においても物価上昇の影響は大きく、リフォームのための建築資材、設備機器や水道光熱費も値上がりすることで、実際に経営の苦しさを感じている大家さんもいらっしゃるのではないでしょうか。

この章では物価上昇により、賃貸経営にどのような影響がでるかを解説します。

エネルギー高騰による光熱費の増加

アパート・マンションには共用廊下の照明、エアコン、エレベーター、貯水槽の加圧ポンプなど常時電気を使用する設備が付帯されています。

日当たりの悪い建物の共用部や、エントランスホールのエアコンなど常時つけっぱなしであることが必要である物件においては、電気料金の高騰によりダメージがより大きくなっています。

電気料金の高騰により、物件の規模によりますが毎月のキャッシュフローが数千円~数万円変わってきますから運営に大きく影響を及ぼしかねない状況になっています。

共用部の照明を白熱灯や蛍光灯からLED照明に変更することで消費電力が50%~80%削減でき、交換コストも数年でカバーできます。

安藤 新之助
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建築資材不足による設備費、リフォーム費用への影響

ウクライナ問題など地政学的リスクにより、今まで順調に輸入されていた建築資材が不足し、アパート、マンションの建設や室内外のリフォームの単価に悪影響を及ぼしています。

たとえば、室内の床などに使用するベニヤの費用が2~3倍になった事例も珍しくなく、壁紙や床材などの材料単価が30~50%アップしています。

さらに給湯器やエアコンなどの生活必需設備も同様に価格が上昇しています。昨今は価格はしばらく高止まりしているものの、今後の世界情勢の動向によってはさらなる価格上昇のリスクが見込まれます。

仕入れコストは取り扱う業者の取引量にも左右されるので、これまでに取引していたリフォーム業者や管理会社の見直しのタイミングとしてとらえるのも解決策のポイントです。

業者の人件費への影響

物価があがればそれにあわせて人件費にも影響がでてきます。管理会社の運営費や移動に伴う交通費も高止まりになるため、必然的に管理手数料のほかにも、諸経費がコストとしてオーナーにのしかかってきます。

リフォーム会社、管理会社、仲介業者もコスト削減の為、人員整理など業務の効率化が図られます。その影響を受け、納得いくサービスが受けられないと感じる場合には、前述しましたが、取引業者の見直しを行うことを視野にいれましょう。

物価と家賃の相関関係とは

インフレ局面において、物価と家賃の相関関係から見込まれる動向を解説します。

インフレ経済下では物価上昇に遅れて家賃も上昇する

インフレ経済下において家賃の上昇につながる鍵は賃料上昇、すなわち所得の上昇です。入居者の給料があがれば、それに見合う家賃のお部屋に住みたいと思うことが期待できます。

新築マンション、アパートの建設コストが増加すると、徐々に収支に見合う家賃設定がされていきます。それに少し遅れた形で、周辺のマンション、アパートの家賃相場もあがってきますから、中古の収益物件を購入したのちの家賃アップ、すなわち利回りの上昇も期待もできます。

ただし、インフレ経済下家賃上昇の恩恵を受けるためには家主として入居者に好まれるお部屋の提供が必要です。たとえばトレンドにあった内装仕様や設備の追加を行い、大規模な改装までいかずともニーズに応えられるようなお部屋作りを行うことがポイントになってきます。

注意点としては、地域における需要と供給のバランスの崩壊、家賃下落相場のなど地域性による影響がある場合は、改装して付加価値をつけても家賃が上がるとは限りません。周辺相場の動向についても合わせて確認するとよいでしょう。

現在は物価の上昇に比して賃料の伸び率は低い

昨今、賃金の上昇の話題も多く、各企業が賃金アップに向けて取り組んでいる最中であります。大手企業などでは数千円以上の月給のアップや数万円のインフレ対策の一時金の支給を行っていたりもします。

ただ、生活に伴う物価上昇も激しく、住み替えの際に家賃に目を向けるまで至っておらずといったところです。賃料上昇まで至るには入居者の転居の必要となる事情も必要となるため、数年以上はかかることが見込まれています。

既存の入居者においては契約更新時に改定することが1つのタイミングとなりますが、入居者の同意が必要となり、一方的に家賃を上げることも難しく、容易ではありません。

物価上昇を理由に家賃値上げは可能か?

物価上昇を理由に家賃を上げることは、出来そうでいて簡単にできないのが現状です。なぜなら入居の際の賃貸契約をもとに入居されているからです。そのような状況下において、家賃を値上げするためにどのような条件が必要かを解説します。

正当な理由と入居者の合意が必要条件

家賃を値上げするためには、正当な理由が必要です。この正当な理由にあたる要件は、借地借家法第32条1項にて、以下のように規定されています。
借地借家法32条第1項
建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。

正当な理由とは

正当な理由とは以下の2点です。

① 固定資産税が増額になった場合
固定資産税評価額は、3年ごとに見直しされます。地価上昇に伴って、固定資産税評価額が上がれば、固定資産税等の税金は増額します。固定資産税等の税金増額が、当初の事業計画と照らし合わせて、著しくキャッシュフローに影響を及ぼす場合、家賃値上げを求めることができる正当な理由となります。

② 周辺の家賃相場が上昇した
新しい商業施設の建設、新駅の開発等に伴って、賃貸物件が所在するエリア人気が上昇すると、家賃相場が上昇する可能性もあります。その結果、家賃が「近傍同種の建物の借賃に比較して不相当」となった場合、家賃値上げを求めることができる正当な理由になります。一般的に現状の家賃と近隣家賃相場の乖離が3割以上あることがポイントとなってきます。

入居付けに不利にならないか管理会社に相談を

家賃をアップして募集することは入居者目線から判断すると不利な材料となります。家賃をあげてもそれが原因で数か月決まらないことになったら本末転倒です。

不利にならないためにも増額することが今後の募集に影響しないかどうか、家賃アップするために大家としてどのような設備投資や募集条件を設定したらベストか、管理会社の担当者に相談することをおすすめします。

自主管理で管理会社と取引がない場合でも、物件を管轄する管理会社に相談をしてみましょう。将来的に管理委託契約の可能性に期待し親身になってくれる可能性が高いです。

家賃値上げ交渉のベストなタイミングは?

家賃を上げるにあたり、いつでもというわけにもいかずタイミングが必要です。そのタイミングはいつかを解説します。

退去時

退去の際に次回の募集で家賃をアップさせるのはベストなタイミングです。周辺家賃相場と比較し、既存の家賃設定が低ければ相場までの家賃アップは比較的に容易ですが、さらに家賃アップを目指すには室内を改装し付加価値をつけるなどの工夫が必要です。

更新時

更新時に家賃を上げることは多く行われています。契約期間は2年になっていることが一般的です。

その際には契約書に則って告知する時期を逃さないことがポイントです。一般的には3~6か月前までに家賃変更の告知をする内容になっているケースが多いです。

その際に更新料を無料にし、室内の設備の更新をするなどして入居者の生活にプラスになるような提案をすることで、家賃アップに対しての心理的ハードルを下げることに寄与します。

入居中は慎重に交渉を

家賃があがることに嫌気して入居者の退去につながり、退去に伴うリフォーム代、空室期間、仲介店に支払う手数料がかかってしまう恐れもあるのでリスクとして織り込むことが必要です。

長期入居者が退去した場合、高額な原状回復費が発生する可能性が非常に高いです。優良な入居者であれば、家賃を上げずに長く住んで頂くのも方法のひとつです。

安藤 新之助
安藤 新之助

インフレ(物価高)時代を乗り切るための工夫

物価が大きく上昇するこの時代において、黙ってみているだけだと取り残されてしまいます。では、どのように行動に移せばよいのかを解説します。

定期的に家賃相場を確認する

定期的に家賃相場を確認することで、次の入退去の際の家賃設定の判断がを迅速に行うことができます。自身の物件が近隣の物件と比較してどの立ち位置にいるのかを把握することが大切です。

設備強化で家賃下落を防ぐ

トイレ、洗面、お風呂場など水回り設備の劣化が進み、性能も時代にあったものでなくなると魅力にかけてしまいます。

設備のリフレッシュはコストがかさみますが、家賃下落の防止、空室期間の短縮、良質な入居者の確保を行うには必要不可欠な投資となります。

リフォームや大規模修繕に備える

室内のリフォームや外装の大規模修繕はそれ相当のコストがかかります。室内の改装において数十万~数百万、外装においては数百万から11千万をかるく超えてくることが多いです。

これらの費用は今すぐ用意できる金額でもなく、計画的に修繕費用として積み立てていくことが大切です。たとえば事前に修繕計画を立て、金融機関に修繕積立金として預金することで修繕工事の実施が容易となってきます。

とくに設備機器においては突然故障する可能性も否めないため、別途修繕費をストックしておくことはオーナーとして必須と考えましょう。

こうしておけば経年とともに必要となる修繕工事に対して安心ですし、物価高騰に合わせて向かえ来る家賃アップの交渉に向けて準備が万全となります。

修繕積立をすることで、それが信用となり、金融機関から修繕費など借り入れをすることも可能となります。

安藤 新之助
安藤 新之助

まとめ

インフレに強いと言われている不動産も、毎月のキャッシュフローを継続的に得られる優秀な資産として活かしていかなければ、やがて資産価値も損なわれマイナスな資産になってしまう恐れもあります。

時代の流れに順応し家賃を右肩上がりに増やしていくためには、家賃相場を常に把握し、トレンドに合わせた設備投資を積極的に行うことが、インフレ経済下で家賃アップに成功する秘訣です。

この記事の監修者

安藤 新之助
安藤 新之助

不動産投資家/株式会社サクセスアーキテクト 代表取締役

高校卒業後、通算20年以上住宅業界に携わり、2008年不動産投資を開始。当時の年収400万円から7年で資産10億円と家賃収入1億円を達成し、42歳でサラリーマン生活を卒業しセミリタイア。

現在14棟214室を保有する実践不動産投資家としてwebコラム執筆やTV、新聞などのメディアに多数出演しながら、3法人を運営し不動産賃貸業ならびに不動産賃貸経営コンサルタントとして活動中。

「NOをYESに変える不動産投資最強融資術」(ぱる出版)を執筆。 

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