2020年4月の民法大改正はチェック済?大家さんが関わる賃貸経営の観点で詳しくご紹介します

2024.08.06更新

この記事の監修者

キムラ ミキ
キムラ ミキ

AFP/社会福祉士/宅地建物取引士/金融広報アドバイザー

2020年4月の民法大改正はチェック済?大家さんが関わる賃貸経営の観点で詳しくご紹介します

2020年4月の民法大改正には、賃貸経営に関わる内容も含まれました。この記事では、その具体的な変更点をご説明します。

目次

120年ぶりに民法が大改正されました

民法は、1896年に制定されて以来、およそ120年間改正されていませんでした。1896年の明治時代に作られた法律であるため、条文も古く分かりづらい内容となっていました。

また、判例法理(裁判所が示した判断の蓄積によって形成された考え方)が反映されていないため、現在の社会生活や経済活動にそぐわない内容も含まれていたのです。

それを、現在の社会生活などに即した内容とするため、およそ120年ぶりに今回の民法大改正が行われました。改正点の中には、賃貸経営を行う大家さんにとっても密接に関わる部分があるので、トラブルにならないためにもきちんと内容を理解しておくようにしましょう

大家さんがチェックすべきポイント

民法大改正の中で、大家さんがチェックすべきポイントは、賃貸住宅標準契約書にも反映されています。

賃貸住宅標準契約書とは

賃貸住宅標準契約書とは、賃貸借契約をめぐる紛争を防止し、借主の居住の安定および貸主の経営の合理化を図ることを目的として、住宅宅地審議会答申が作成した、賃貸借契約書のひな形です。

この標準契約書は、その使用が法令で義務づけられているものではありませんが、この契約書を利用することにより、契約書へ盛り込むべき内容の不備を回避し、合理的な賃貸借契約を締結できます

賃貸借契約に関わる民法大改正での変更点を知ろう

具体的に、賃貸経営に関わる民法大改正における変更点についてご説明いたします。

1. 敷金について

民法大改正によって、敷金についての条文が新設されています。改正民法では、大家さんが家賃などの担保として敷金を受け取っている場合、「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」、「入居者が適法に賃借権を譲り渡したとき」に入居者に対して、その受け取った敷金の額から入居者が責任を負うべき負担金額を差し引いた金額を返還しなければならないことが明記されました。

なお、大家さんは、入居者が責任を負うべき負担金額を支払わないときは、敷金をその支払いに充てることができるものとしています。

大家さんがすべき動き

改正前の民法では、敷金の扱いについて明確な規定はありませんでした。そのため、慣習でのやりとりが行われていましたが、トラブルも多いのが現状でした。

今回の民法大改正で、敷金の定義および返還義務について明文化されたため、大家さんも敷金の定義を把握し、敷金の扱いについて正しい理解を深めておく必要があります。また、後段でお話する原状回復義務についても「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(国土交通省)」を熟読しておきましょう。

2. 原状回復について

民法大改正によって、原状回復についての明文化が行われました。改正民法では、入居者が賃貸物件の引渡しを受けた後に、賃貸物件に生じた損傷がある場合において、賃貸借契約が終了した時は、その損傷を原状に復する義務を負うこととして明記されています。

ただし、その損傷が入居者の責任によるものでない場合には、入居者は原状回復義務を負わなくてもよいことになっています。なお、損傷には、通常の使用および収益によって生じた損耗、経年変化によるものは含まれません。

大家さんがすべき動き

原状回復義務については、今まで法律で明文化されていなかったため、慣習および「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(国土交通省)」によってやりとりされていましたが、トラブルは後を絶ちませんでした。

「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(国土交通省)」に記載のあるような一般的な解釈が、民法大改正により明文化されたため、改めて熟読し、入居者の原状回復義務の範囲はどこまでなのか、大家さんとして理解を深めておく必要があります。

3. 連帯保証人制度(個人保証の極度額)について

改正民法では、個人根保証契約の保証人の責任等は、極度額を定めなければその効力を生じないということになりました。

個人根保証契約とは、「一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約」のことをいいます。賃貸借契約における連帯保証人は、家賃滞納のみならず、解約時の原状回復義や契約違反の場合の違約金なども、契約者である入居者と同じ立場として、支払い責任をもちます。

つまり連帯保証人になるということは、一定の範囲地に属する不特定の債務を引き受ける保証契約、個人根保証契約にあたるのです

改正前は、その債務のすべてを連帯保証人が引き受けなくてはならないとされていましたが、民法大改正によって、債務の限度額を定めなければ連帯保証人となってもその責任は問われないことになりました

大家さんがすべき動き

連帯保証人を求める際、今後は債務の限度額を定める必要があります。責任の重さを理解せずに連帯保証人になっていたというケースも少なくなかったと思われますが、民法大改正により、連帯保証人の債務限度額は「〇〇万円」と金額を明示することとなったため、連帯保証人の引き受けを拒まれる可能性も考えられるでしょう。

連帯保証人は、契約者(入居者)が家賃滞納等をした場合のリスクをカバーする手段になるため、管理会社などと相談の上、適切な限度額を設定、明示する準備を行っておきましょう

4. 建物の修繕義務と権利について

改正民法では、入居者の修繕についての条文が新設されました。具体的には、賃貸物件の修繕が必要である場合、「大家さんに修繕を求めたのに相当の期間内に必要な修繕をしてもらえないとき」、「急迫の事情があるとき」などは、入居者がその修繕を行うことができるとしています。

大家さんがすべき動き

改正前は、「大家さんは、賃貸物件の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う」と規定されていました。しかし、修繕が必要な状況になった時に「入居者がみずから修繕できるかどうか」までは定めてはいませんでした。

民法大改正で入居者の修繕の権利が明記されたことにより、修繕が必要であると伝えたくても大家さんや管理会社に連絡がつかず、入居者が高額な費用がかかる修理業者などに依頼してしまうという可能性も起こりえます。

契約時にあらかじめ、修繕の費用負担範囲や連絡先および時間帯、対応時間外における対応可能な指定業者などを明示しておくとトラブル回避に役立つでしょう

5. 賃料の一部減額について

改正前の条文が、民法大改正によってさらに入居者に有利な内容に変更されています。改正前は、「賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失したときは、賃借人は、その滅失した部分の割合に応じて、賃料の減額を請求することができる」との規定でした。

しかし、民法大改正によって、「賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される」と、賃料減額の請求範囲が広がり、減額を当然のものとするという規定に変わりました。なお「その他の事由」とは、設備の不具合などを指します。

大家さんがすべき動き

民間賃貸住宅に関する相談対応事例集によると、設備の不具合等が生じたからと言って、直ちに賃料減額となるわけではないという解釈です。

大家さんは、入居者からの修繕連絡後、速やかに現場確認、修繕等の対応を図ることが求められています。民間賃貸住宅に関する相談対応事例集には、修繕完了までの目安期間が例示してありますので、参考にされるとよいでしょう。そのうえで、管理会社と相談し、速やかに修繕などの対応ができるように体制を整えておきましょう

【補足】契約不適合責任(瑕疵担保責任)についても知っておこう

今回の民法大改正では、瑕疵担保責任(取引物件に隠れた瑕疵(不具合、欠陥)が見つかったときの売主責任)の概念が、契約不適合責任(取引物件に品質不良等の不備があった場合の売主責任)という概念に大きく様変わりしました。

この概念変更によって、売主責任はよりシビアになったとも言われています将来、賃貸物件の売却も視野に入れている大家さんは、契約不適合責任についても、あわせて理解を深めておきましょう

まとめ

民法大改正は、大家さんにとっても密接に関連するものも含まれていることをご理解いただけましたでしょうか。今回の改正は、大変大きな改正であるため、知らなかったでは済まされません。トラブル回避に備えて、速やかに行動を起こすことをおすすめいたします。

まずは、改正された民法の内容を正しく理解することが重要です。そのうえで、管理会社などと連携し、契約書の見直しや入居者対応の見直しなど、民法大改正に即して大家さんとして行うべき準備を整えていきましょう。

この記事の監修者

キムラ ミキ
キムラ ミキ

AFP/社会福祉士/宅地建物取引士/金融広報アドバイザー

日本社会事業大学 社会福祉学部にて福祉行政を学ぶ。大学在学中にAFP(ファイナンシャルプランナー)、社会福祉士を取得。大学卒業後、アメリカンファミリー保険会社での保険営業を経て、(マンションデベロッパー)にてマンション営業、マンション営業企画に携わった。その後、2008年8月より独立し、現在、自社の代表を務める。

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