築古アパートは建て替えるべき?
建物の老朽化が進むと、空室率が上がる可能性があるほかにも、安全性にも問題が生じかねません。そのため、築年数を重ねた物件で、将来もアパート経営を継続していくためには、どこかのタイミングで建て替えを考える必要があります。
それでは、いつ建て替えをするのがベストなのでしょうか。建て替え時期の目安を、2つの視点から考えてみたいと思います。
耐用年数
まず、減価償却における建物の耐用年数の視点から考えてみましょう。減価償却における耐用年数は、あくまでも税務上のお話ではあるものの、「モノの価値がなくなる時期」「使用に耐えうることができる期間(寿命)」の目安としてとらえることもできます。もちろん、耐用年数を過ぎても、完全にその価値がなくなるわけではありません。
建物構造 | 耐用年数 |
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木造 | 22年 |
軽量鉄骨造 | 19~27年 |
重量鉄骨造 | 34年 |
鉄筋コンクリート造 | 47年 |
アパートローンの返済期間
アパートローンの返済期間は、人によって異なりますが、最長で35年とする金融機関が多いでしょう。一般に、建て替え時期は築30年が目安といわれています。
それは、アパートが耐用年数を過ぎて、かつアパートローンの返済も終わっている時期であることが、その所以であると考えられます。
アパート建て替えで期待できること
建て替え時期の目安とその理由を踏まえた上で、建て替えのメリット、建て替えによって期待できることは何かについて、整理しておきたいと思います。
空室率の改善
先にも述べた通り、アパート建て替えにより、空室率の改善が期待できます。アパートを借りる際、立地や家賃、サービスなどにさほど違いがなければ、古いアパートよりも、新しいアパートを選択するという方が多いでしょう。
そのため、築年数を重ねるにつれて空室率が上昇するのが一般的です。建て替えをすることで、築古アパートで空室が多い状態を改善することが期待できます。
キャッシュフローの改善
築年数を重ねるにつれ空室が多い状態を解消するために、以前よりも賃料を下げるという手段をとることもできますが、全体の賃料収入が減少するため、キャッシュフローの悪化につながりかねません。建て替えによって、空室の多い状態を改善できるということは、賃料収入の増加も見込めることになります。
また、建て替えに伴い、トレンドに合わせた設備なども備えることによって、以前よりも高い賃料設定にできる可能性もあります。
もちろん、建て替えすることによって、新たにアパートローンの返済負担が生じることにはなりますが、全体でみると、キャッシュフローの改善につながることが期待できるでしょう。
資産価値の向上
建て替えにより、アパートの資産価値は向上します。新築でかつトレンドに合わせた設備を備えた収益性の高いアパートは、築年数を重ねたアパートよりも資産価値が高まるからです。資産価値が向上すると、譲渡を考える際にも有利な条件を提示することもできますし、相続が発生した時にプラスの財産を遺族に遺すことができます。
アパート建て替えのタイミング
様々なメリットや期待できるポイントがある建て替え。築30年という目安とその理由を参考にしながら、大家さんにとってアパート建て替え時期は、いつがベストなのかを考えてみましょう。築年数以外にも、アパート建て替えのタイミングを考える上で、頭に入れておきたいポイントを紹介します。
築年数
築年数については、先にも述べた通りです。築年数を重ねるにつれて、空室率の増加や安全面への不安が生じる可能性があります。築30年をひとつの目安として、建て替えのタイミングを図りましょう。
維持費・管理費
アパートの資産価値を維持するための修繕費、管理費は、築年数を重ねるにつれて増加します。以前と比べて、その費用が多くかかるようになったと感じるようになった時も、建て替えのタイミングといえるでしょう。
設備・間取り
設備や間取りは、その時々のトレンドがあります。築年数を経ることによって、当時はトレンドを押さえたアパートであったとしても、現在のトレンドにマッチしているとは限りません。設備の一部取替などで対応できる範囲であれば、建て替えをする必要はありません。しかし、その設備や間取り変更が大規模なものになる場合は、建て替えを検討しましょう。
空室率
新築の時と比べて空室率が上昇してきたと感じた時も、建て替えのタイミングのひとつです。ただし、建て替えには、当然ながら相当のコストもかかります。築年数によっては、入居者満足を向上するための工夫の余地がないかどうかを考えることで、空室率の増加を解消できる場合もあります。
耐震性
大規模な震災が発生すると、耐震基準が変化する場合もあります。現在の耐震基準を満たしていないアパートである場合、入居者の安全を確保するために、建て替えを検討することも必要です。ただし、まだ築年数が浅い場合には、耐震補強を行い、耐震安全性を確保するという手段もあります。
相続税対策
遺族からすれば、入居率の悪いアパートを相続することはお荷物以外の何者でもありません。収益性の高いアパートを遺したいと考える上でも、建て替えは有効な手段です。また、新たなアパートローンを借り入れることによって、相続財産総額を引下げることにもつながりますので、相続税対策としても有効といえるでしょう。
アパート建て替え前に確認しておきたいこと
さいごに、アパートの建て替えを考える上で、確認しておきたいことをまとめます。
現状のキャッシュフロー
建て替えは、アパートを新たに建築することになるため、当然ながら大きな費用がかかります。新たにアパートローンの返済を行える余裕はあるのか、頭金としてどれくらいの金額をねん出できるのかなど、現状のキャッシュフローを確認しておくことが大切です。
今後の賃貸経営
建て替え検討時に限りませんが、アパート経営を行う上で出口戦略は必ず考えておきたいお話です。税務上の耐用年数をみると、木造でも22年となっています。
その長期に渡る期間の途中で、大家さん自身がアパート経営を行うことが難しくなった場合、相続で遺族にアパート経営をバトンタッチしていくのか、それとも第三者に売却するのかなど、建て替えた後どのようにアパート経営を行っていくのかを考えることも合わせて、建て替えの検討を行うようにしましょう。
立ち退き問題
建て替えを行う際、入居者がいると工事を始めることができません。そのため、現在の入居者に退去をお願いする、立ち退き請求を行う必要があります。立ち退きは、賃貸借契約期間満了の6か月前までに行う必要があるほか、立退料(引越し代など)が必要となる可能性もあります。
トラブルに発展するケースもあるため、弁護士と相談しながら、誠意をもって、慎重に進めていきましょう。
建築基準法
現在のアパート建築後に、建築基準法の改正があった場合、現在のアパートと同じ規模のものが建築できない可能性もあります。法改正についてはアパートの建築を依頼する建築会社が相談に応じてくれますが、自らも役所に出向いて、法改正の有無や建築の制限などが生じていないかを確認しておきたいものです。
まとめ
建て替えをすることによって様々なメリットが期待できます。しかし、先にも述べた通り、大きな費用がかかることでもありますし、考えておかなければならない事項も沢山あります。一朝一夕に建て替えを行うことはできないのです。
各専門家に相談しながら、余裕をもった建て替えの計画を慎重に進めていくことをおすすめします。
この記事の監修者
キムラ ミキ AFP/社会福祉士/宅地建物取引士/金融広報アドバイザー
日本社会事業大学 社会福祉学部にて福祉行政を学ぶ。大学在学中にAFP(ファイナンシャルプランナー)、社会福祉士を取得。大学卒業後、アメリカンファミリー保険会社での保険営業を経て、(マンションデベロッパー)にてマンション営業、マンション営業企画に携わった。その後、2008年8月より独立し、現在、自社の代表を務める。
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