生活保護受給者の受け入れを検討したい大家さんが知っておくべき基礎知識

2024.11.18更新

この記事の監修者

キムラ ミキ
キムラ ミキ

AFP/社会福祉士/宅地建物取引士/金融広報アドバイザー

生活保護受給者の受け入れを検討したい大家さんが知っておくべき基礎知識

お金をかけない空室対策として「生活保護受給者の受け入れ」があります。知っておきたい基礎知識やトラブル回避策を説明します。

生活保護受給者の受け入れ
お金をかけない空室対策としても有効です。

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目次

生活保護受給者を受け入れるための基礎知識

生活保護受給者の受け入れ方法について、ご説明する前に生活保護受給者の現状についてご説明いたします。

生活保護受給者とは?

生活保護とは、生活に困窮する方に対し、その困窮の程度に応じて必要な保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障するとともに、自立を助長することを目的とした国の制度です。厚生労働大臣が定める基準で計算される最低生活費と収入を比較して、収入が最低生活費に満たない場合に、最低生活費から収入を差し引いた差額が保護費として支給されます。

厚生労働省の発表(令和2年10月)によると、生活保護を受給している世帯はおよそ163万世帯。生活保護受給世帯を具体的にみると、高齢者世帯がおよそ56%を占めています。次いで多いのが障害者・傷病者の24.8%となっています。

そのほかにも、シングルマザー世帯などが生活保護受給世帯となっています。

生活保護受給者を受け入れる際の注意点

生活保護受給者を入居者として賃貸借契約を結ぶ際には、生活保護受給者としての特性のほかに、属性特有のリスクを理解しておくことも必要です。

【障害者・傷病者】
障害者・傷病者とひとくちにいっても、多種多様なケースがあります。障害や傷病の種類(精神的な障害、身体的な障害など)やそのレベルによって、懸念材料はさまざまです。障害者・傷病者を受け入れる際には、その方の事情をよく把握したうえで、福祉関連機関に相談して連携を図ることも視野に入れ、対応可能かどうかを見極める必要があります。

【高齢者】
生活保護受給者となっている高齢者は、単身世帯が多いため孤独死のリスクがあります。また、身寄りがいないケースも多く、連帯保証人を立てにくいなどの問題も考えられます。
【シングルマザー・ひとり親世帯】
シングルマザー・ひとり親世帯では、子どもによるトラブルが考えられます。子ども特有の騒音(泣き声、走り回る音、大声など)のほか、子どもだけで留守番する際の事故(火災、転落など)も考えられます。

生活保護受給者の賃貸事情

生活保護受給者を受け入れるために知っておきたい基礎知識についてご説明します。

家賃の支払われ方

生活保護受給者は、生活扶助(日常生活に必要な費用)、教育扶助(義務教育を受けるために必要な学用品費)、医療扶助(医療サービスの費用)、介護扶助(介護サービスの費用)、出産扶助(出産費用)、生業扶助(就労に必要な技能の修得などにかかる費用)、葬祭扶助(葬祭費用)が支給されます。アパートなどの家賃は住宅扶助として、定められた範囲内で実費が支給されます。

住宅扶助とは

住宅扶助の限度額は、エリア、世帯構成人数などで異なります。その限度額を超えた家賃は生活保護受給者が生活扶助などから支払うことになりますが、現実的に住宅扶助の限度額内の家賃で住める物件にしている方がほとんどでしょう。

また、この住宅扶助の対象となるものは、家賃のほか、礼金敷金、更新料、火災保険料、住宅維持費などですが、共益費や光熱費は含まれません。

住宅扶助として支給されたものを生活保護受給者から直接、大家さんに支払うこともできます。しかし、生活に困窮していることが生活保護受給の前提であり、場合によっては生活費として使ってしまう可能性もあります。

そのため、生活保護受給者に代わって自治体(福祉事務所)が大家さんに納付することを認めています。これを代理納付といいます。家賃滞納のリスクを回避するために、代理納付とすることをおすすめします。

契約時に注意したいこと

契約に際して、生活保護受給者に代理納付による家賃支払いの同意を得たうえで、代理納付の申請をしましょう。その際、契約書にも「代理納付による家賃支払いをする」、「代理納付の中止申請をしない」旨を盛り込んでおくと安心です。

なお、代理納付を推進する動きがあるものの、自治体によっては生活保護受給者の自主性を重んじて、代理納付に消極的な場合もありますので、契約前にあらかじめ相談をしておくとよいでしょう。

利用できるサービス

生活保護受給者受け入れの注意点でも触れましたが、身寄りがなく身元保証人や連帯保証人をつけることができない可能性もあります。その場合には、保証会社を利用するのも一案です。生活保護受給者も利用できる保証会社は増えてきています。

また、そのほかのリスクを回避するためにも、高齢者の場合、孤独死を防ぐためにも見守りサービスなどの福祉サービスの利用を必須とするなど、属性に応じたルール作りも検討しておきましょう。

行政との連携の必要性

基本的には、通常の流れと大きく変わりませんが、生活保護受給者と不動産会社および大家さんの間に自治体(福祉事務所)との連携の必要性がある点に注意が必要です。なお自治体(福祉事務所)の担当者をケースワーカーといいます。

【入居までの流れ】
1.自治体(福祉事務所)に住宅扶助の承諾をしてもらう
生活保護受給者が、自治体(福祉事務所)の窓口でケースワーカーに相談し、家賃額などの承諾をしてもらいます。

2.物件探し
生活保護受給者が、生活保護を受給していることを伝えたうえで、不動産会社で物件を探し、物件が決定したら見積もりを受け取ります。

3.自治体(福祉事務所)への報告
生活保護受給者が、物件情報と見積額を報告し、ケースワーカーから了承をもらいます。

4.入居審査
ケースワーカーの了承を得た後、不動産会社または大家さんが入居審査を行います。

5.契約日程を決める
ケースワーカーに、契約時の初期費用準備ができる日程調整をしてもらい、その日程に合わせて契約締結日を設定します。

6.賃貸借契約を締結する
賃貸借契約を締結し、生活保護受給者が、契約書、および契約時の初期費用の領収書をケースワーカーの担当者に提出します。

7.入居
転居費用も、生活保護受給者に支給されます。いくつか引越業者の見積もりをとり、ケースワーカーの承諾を得た引越業者を決め、契約時に決めた入居日に転居を完了します。

住宅セーフティネットという選択肢

生活保護受給者の受け入れに際して、住宅セーフティネット制度を活用するのも1つの方法です。住宅セーフティネット制度は、住宅の確保に配慮が必要な方のために、「住宅確保要配慮者向け賃貸住宅の登録制度」、「登録住宅の改修や入居者への経済的な支援」、「住宅確保要配慮者に対する居住支援」を行うものです。

この制度を活用することで、所有物件の認知度を高め、必要に応じて補助金でリフォームをすることもできます。

【もしものために知っておきたい】トラブルと対策

生活保護受給者を受け入れる際に考えられるトラブルとその対策についてご説明いたします。

家賃滞納の予防

生活保護受給者は、生活に困窮されている状態なので家賃滞納のリスクがあります。家賃滞納のリスクを回避するためにも、先にお話したとおり、代理納付の申請を行うことをおすすめします。

また、生活保護受給者の中には、職に就いている方もあります。その場合、住宅扶助が満額支給されないケースもあるため、代理納付にしていても家賃の一部が滞納される可能性も生じます。そのような事態に備えて、保証会社の利用も合わせて考えておきましょう。

近隣トラブル

生活保護受給者に限ったことではありませんが、騒音などで近隣トラブルが発生する可能性もあります。しかし、借地借家法に基づく賃貸借契約は、借主保護の観点が強く、特段の事情がない限り、大家さんから一方的に契約解除を求めることはできません。

定期借家契約を活用し、自動更新をしなくてもよい契約内容にしておくのも一案です。これによって、トラブルが頻発する方については退去してもらうこともできます。なお、トラブルを起こさない方については、再度契約する事も可能です。

亡くなった場合の対応

高齢者の場合、孤独死ということも考えられます。精神的な障害のある方は、自死の可能性も否めません。

入居者が亡くなった場合、とくに自死や発見までに時間が経過した場合、特殊清掃費用が生じたり、事故物件として敬遠されたりといったダメージを受ける可能性もあります。そのような事態に備えて、保険に加入しておくことも検討しておくとよいでしょう。

物件に最適な活用方法を、他に検討するのも

生活保護受給者の受け入れは安定した家賃収入を得る手段の一つですが、他の方法も視野に入れることでより柔軟な賃貸経営が可能になるかもしれません。たとえば、駐車場やトランクルームは、賃貸物件に比べて管理が簡単です。入居者とのトラブルが少なく、手間をかけずに運営できる点も大きな利点です。

他の選択肢を検討する際には、土地活用プラン一括請求してみましょう。専門家から具体的なアドバイスを受けることができ、自分に合った最適な活用方法を見つける手助けとなります。

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まとめ

賃貸経営において、空室発生は代表的なリスクです。賃貸物件が築年数を経れば経るほど、そのリスクは高まります。確かにお金をかけてそのリスクを回避する方法もありますが、必ずしも空室が埋まる保証はありません。

視点を変えて、生活保護受給者といった住宅の確保に配慮が必要な方を入居者として受け入れることで、家賃収入を確保することができ、さらに社会貢献にもつながります。

もちろん、特徴や注意点を理解したうえで受け入れ検討する必要があるのは言うまでもありませんが、お金をかけない空室対策の1つの方法として、検討の価値は十分にあるのではないでしょうか。

生活保護受給者の受け入れ
お金をかけない空室対策としても有効です。

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キムラ ミキ
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AFP/社会福祉士/宅地建物取引士/金融広報アドバイザー

日本社会事業大学 社会福祉学部にて福祉行政を学ぶ。大学在学中にAFP(ファイナンシャルプランナー)、社会福祉士を取得。大学卒業後、アメリカンファミリー保険会社での保険営業を経て、(マンションデベロッパー)にてマンション営業、マンション営業企画に携わった。その後、2008年8月より独立し、現在、自社の代表を務める。

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