家賃滞納を未然に防ぐ対策と、もしものときの対処の流れについてご紹介します

2023.11.24更新

この記事の監修者

キムラ ミキ

キムラ ミキ

【資格】AFP/社会福祉士/宅地建物取引士/金融広報アドバイザー

家賃滞納を未然に防ぐ対策と、もしものときの対処の流れについてご紹介します

家賃滞納は、賃貸経営が抱えるリスクのひとつです。万が一滞納が発生した場合への備え、対処方法を予め把握しておきましょう。

目次

賃貸経営において避けられない家賃滞納リスク

大家さんのなかには、所有物件に入居している人に限っては、「家賃滞納をする人などいるわけがない」と思っている方もあるでしょう。しかし、家賃滞納される方の割合は全体の5%程度は存在しています。

賃貸契約を交わした当初は家賃支払いに問題のない企業に勤めていたものの、契約期間中にリストラにあったり、不慮の事故で入院を余儀なくされたりなど、予測不能な理由で家賃滞納に至ってしまうケースもあります。

だからこそ、賃貸経営において、家賃滞納のリスクは完全には避けることができないと考え、対策を講じておく必要があります。

家賃滞納はなぜ大家さんにとって問題なのか

冒頭でもご説明したとおり、家賃滞納が生じると、見込んでいた家賃収入が得られなくなり、賃貸経営に支障が生じる可能性があります。空室が生じたのであれば、直ちに入居者募集を行い、空室を埋めることができれば再び家賃収入を得られます。

しかし、家賃滞納の場合、後程詳しくご説明いたしますが、家賃滞納されたからといって、直ちに退去してもらうことはできません。また、家賃支払いの督促は非常に困難であるといわれ、督促経験が少ない方が行うと、入居者がのらりくらりと家賃支払いを先延ばしたり、家賃を踏み倒したまま姿を消してしまったりすることもあります。

このように家賃滞納への対応は一筋縄ではいかないため、大家さんにとって大きな悩みの種となってしまいます。

大家さんが家賃滞納を防ぐためにできること

家賃滞納を防ぐために、どのような対策を講じておけばよいのかについて、ご説明いたします。

審査の対策

「なるべく早く空室を埋めたい!」という思いが先行し、入居者審査の基準を緩和している大家さんもいるでしょう。審査基準が低いと家賃滞納リスクも高くなる可能性があります。

1.入居審査を念入りに行う

家賃支払い能力があるかどうか、入居審査を念入りに行いましょう。年収の高低ではなく、継続的に家賃を支払ってくれるかどうかという観点が大切です。

不動産会社にあらかじめ相談し、収入確認書類の提出を求めたり、勤務先に在籍確認をとってもらったりして、申込書類に記載された内容が虚偽のものでないか確認してもらいましょう。また、不動産会社に初めて来店した時の様子を教えてもらうほか、できる限り大家さん自身も、内見時に直接確認できると安心です。

2.入居者に連帯保証人をつける

入居審査の厳格化によって、入居者から敬遠される可能性を憂慮する場合、入居者に連帯保証人をつけるのもよいでしょう。万一、家賃滞納が生じた場合、連帯保証人に家賃支払いを求めることができるので安心です。

連帯保証人には、収入が十分にある家族(両親、兄弟姉妹)が望ましいでしょう。連帯保証人が家族以外の場合、いざという時に家賃支払いに応じてもらえない可能性もあります。

3.家賃保証会社をつける

入居検討者の中には、両親が他界していたり、年金生活であったりなど、連帯保証人を立てるのが難しいという方もいます。審査基準は高めですが、家賃保証会社を活用するのも一案です。家賃保証会社とは、家族などの代わりに連帯保証人となるサービスを提供している会社です。家賃保証会社に加入する際には、利用料がかかります。

家賃滞納が生じた際、家賃保証会社は大家さんに家賃の支払いを保証してくれます。家賃滞納した入居者は、家賃保証会社への滞納家賃支払いを求められます。コストはかかりますが家賃督促をプロに任せられるので、大家さんは安心して賃貸経営を行えます。

契約の対策

家賃滞納を防ぐために賃貸借契約の場面でできる対策についてご説明します。

1.賃貸借契約書に家賃滞納の際の条項を確認する

賃貸借契約書に家賃滞納の際のルールが盛り込まれているか、改めて確認しておきましょう。契約時に入居者にそのルールを説明しておくのはもちろんですが、大家さん自身も家賃滞納が生じた際に迅速に行動できるようにルールを把握しておきましょう。

・延滞損害金(延滞料)の設定
民法(第419条第1項)に、「金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。」と定められています。これは家賃も該当しますので、賃貸借契約書に、家賃滞納があった場合の延滞損害金を明記しておくのもよいでしょう。遅延損害金は、慣習で年率14.6%とされていますが、賃貸借契約書への明記がない場合、法定利率(年率3%)が適用されます。

【家賃延滞損害金の計算方法】

延滞した家賃 × 延滞損害金利率× 延滞日数 ÷ 365日で計算されます。 家賃6万円のアパートの家賃を1か月(30日)滞納した場合(遅延損害金は年率14.6%)と設定した場合、 延滞損害金は6万円×14.6%×30日÷365日≒720円となります。

2.賃貸借契約を「定期借家契約」にする

賃貸借契約を「定期借家契約」で締結するのも家賃滞納の悩みを長引かせないために有効な方法です。入居者がトラブルを起こしたり、家賃滞納をしたり、といった時に契約期間が満了した段階での退去を主張できます。

なお、その際期間満了の一定期間前に期間満了についての通知が必要であることに留意をしておきましょう。

3.法人の借り上げ社宅にして、支払先を法人にする

入居検討者が住宅手当を支給されている場合、勤務先の借り上げ社宅としてもらえないか交渉する方法もあります。法人の借り上げ社宅であれば家賃の支払い者は法人(入居者の勤務先)となり、入居者の個人都合で家賃滞納が生じるリスクを軽減できます。ただし、入居検討者の勤務先から承諾を得るのは、ややハードルが高い可能性もあります。

未納の対策

家賃を振り込みや手渡しで収受する場合、うっかり忘れたり、その時間を作るのが難しかったり、という悪意のない理由で家賃滞納が生じるケースもあります。

1.家賃を口座自動引き落とし

家賃を口座自動引き落としにしておけば、うっかり忘れなどによる家賃滞納を防ぐことができます。

2.家賃をカード払いにする

家賃をカード払いにする方法も、口座自動引き落としと同様の効果が得られます。口座自動引き落としの場合、口座が残高不足となっていると引き落とし不能となります。

その点、カード払いは口座の残高不足を心配する必要がありません。また、家賃支払いを指定カードに限定すれば、指定カードの発行可否で入居審査における信用力指標とすることもできます。

3.直接手渡しにする

家賃支払いを直接手渡しにするのであれば、家賃支払いの都度、入居者に数百円程度のプレゼントを用意しておくのも一案です。家賃とプレゼントの収受を通じて、お互いの顔を見てコミュニケーションがとれるため、家賃滞納の兆しとなるような入居者の小さな変化(顔色、雰囲気の変化や服装の乱れ、支払いに来る時間帯など)にも気づきやすいかもしれません。

もし滞納が発生したとき、何をしたらいいか 

家賃滞納リスクへの対策として、さまざまな方法をご紹介しました。しかし、冒頭で触れたように、対策を講じても100%防げない可能性があります。

もしも、家賃滞納が発生した場合にどのように大家さんとして、どのように行動すればよいのでしょうか。

家賃滞納措置から強制退去までの流れ

家賃滞納が発生しても直ちに退去を求めることはできません。また、勝手に部屋に立ち入って入居者の所有物を売却したり、入居者が部屋に入れないように鍵交換をしたり、という行為は反対に大家さんが罪に問われる可能性もあります。

家賃滞納が発生してから強制退去にいたるまでどのような流れとなるのかについて、確認しておきましょう。

手紙・電話による未納通知

まずは、家賃の支払期日が過ぎている旨を手紙や電話によって連絡します。悪意のない家賃滞納(うっかり忘れなど)は、この段階で家賃支払いをしてもらえるのが一般的です。

内容証明郵便・催促状の送付

家賃滞納をする入居者の中には、手紙・電話による未納通知をしてもなお、家賃を支払ってもらえないというケースもあります。その場合には「再設定期日までに家賃を支払ってもらえない場合には、契約解除を行う」旨の内容証明郵便を送付します。内容証明郵便は、送付日、宛先、差出人、文書内容が記録に残るため、裁判となった場合の証拠となります。

なお、契約終了の一定期間前に通知を行い、かつ、正当事由がなければ大家さんは契約更新を拒絶できない旨が借地借家法28条に定められています。そのため、家賃支払いの再設定期日までには一定期間を設ける必要があり、この段階では直ちに強制退去させることはできません。

契約の解除・立ち退きの申し入れ

内容証明郵便で示した再設定期日までに家賃が支払われない場合には、賃貸借契約解除の効力が生じるため、立ち退きの申し入れを行います。

明渡請求訴訟

賃貸借契約解除後、滞納家賃などの支払い請求や部屋の明け渡しに加え、部屋の中にある入居者の所有物を売却して、滞納された家賃に充当することができるように明渡請求訴訟を行います。

明渡請求訴訟で、大家さんの訴えが認められると、強制退去(強制執行)となります。なお、明渡請求訴訟の場で、入居者との話し合いにより和解となる場合もあります。ただし、入居者が和解内容に従わない場合には、再度訴訟を起こす必要なく、強制執行となります。

強制退去(強制執行)

裁判所の担当職員が、入居者を強制退去(強制執行)させます。滞納発生から、強制退去(強制執行)に至るまで、半年程度はかかると考えておきましょう。

まずは管理会社や弁護士などプロに相談

家賃滞納への対応は、段階を追って進めていく必要があります。対応の流れや法律を知らず、大家さん一人で行うと、かえってトラブルを悪化させたり、思わぬ罪に問われたりする可能性もあります。

家賃滞納が生じても、焦る気持ちを抑え、まずは管理会社や弁護士などに相談して、慎重に対応を進める必要があると心得ておきましょう。

まとめ

家賃滞納は、どんなに対策を講じても生じてしまう可能性があります。家賃滞納が生じないために事前の対策を講じてもなお、万一家賃滞納が発生してしまった場合には、一人で抱え込まず、専門家に相談しましょう。

転ばぬ先の杖として、平時に相談先を決めておくのも家賃滞納リスクへの対策です。いざという時に慌てないためにも、大家さんとして、今できることから、1つずつ対策を進めておきましょう。

この記事の監修者

キムラ ミキ

キムラ ミキ

【資格】AFP/社会福祉士/宅地建物取引士/金融広報アドバイザー

日本社会事業大学 社会福祉学部にて福祉行政を学ぶ。大学在学中にAFP(ファイナンシャルプランナー)、社会福祉士を取得。大学卒業後、アメリカンファミリー保険会社での保険営業を経て、(マンションデベロッパー)にてマンション営業、マンション営業企画に携わった。その後、2008年8月より独立し、現在、自社の代表を務める。

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