賃貸経営の法人化はいつ検討するのがおすすめ?メリット・デメリットとともにご紹介します

2024.02.02更新

この記事の監修者

キムラ ミキ

キムラ ミキ

【資格】AFP/社会福祉士/宅地建物取引士/金融広報アドバイザー

賃貸経営の法人化はいつ検討するのがおすすめ?メリット・デメリットとともにご紹介します

この記事では、賃貸経営の法人化についてのメリット・デメリット、流れや初期費用などの情報を整理してご説明します。

目次

賃貸経営の「法人化」とは

大家さんの中で、これから賃貸経営を拡大していこうと思っている方、あるいはすでに賃貸経営の規模が大きくなった方は、法人化によってメリットを享受できる可能性があるので検討の余地はあります。

ただし、注意しておきたいのは「法人化=賃貸経営の成功」ではないという点です。これからご紹介する法人化に関する概要およびメリット・デメリットを知り、ご自身にとって、賃貸経営の法人化が必要か否か考えるきっかけにしていただきたいと思います。

賃貸経営の法人化のメリット

賃貸経営を法人化するメリットには、以下のようなものが挙げられます。

1.節税

法人化すると個人事業よりも経費の幅が広がります。たとえば、生命保険に加入した場合、個人事業ですと、最大12万円の生命保険控除がある一方、法人化をすると、保険料の全額または半額を経費計上することができます。このほかにも役員報酬や退職金、福利厚生費など、経費計上できる支出の幅が広がることで収益の圧縮を図れるため、節税につながります。

2.所得の分散が可能

法人化すると所得の分散も可能です。個人事業の場合、収入から生活費(給与)を得ていたとしても、経費としての扱いを受けません。また生計を一にしている親族に青色事業専従者給与を支払い、経費にできますが、年間を通じて6か月を超える期間、その青色申告者の営む事業に専ら従事しているなどの条件があります。

この青色事業専従者給与の条件整備が面倒、または困難であるため、実質は配偶者の給与分も含めて、大家さんが収入から生活費(給与)を得ているというケースも多いでしょう。

一方、法人化した場合、大家さんの収入も役員報酬として経費計上できるうえ、青色事業専従者のような条件を問わず家族以外にも給料を支払って経費計上することができます。日本の所得税は累進課税制度のため、個人所得が大きくなればそれだけ所得税も高くなります。

そのため、大家さん一人が賃貸経営から実質的な給与を得ているとするよりも、大家さんと配偶者で半分ずつ給与(役員報酬)を受け取る形にすると所得が分散されて税率も低くなる上、給与所得控除も受けられるので、所得税負担が軽くなる可能性があります。

3.税率が一定

先ほど述べたように、日本の所得税は累進課税制度であり、所得が大きくなればなるほど税率も高くなります。一方、法人税の税率は一定となります。そのため所得が高くなれば、法人化のメリットが生じやすくなります。

4.社会的信用が得られる

法人は、法人登記を行う必要があり、第三者でも法人の所在地や資本金、役員などの重要事項を確認できます。また、個人事業よりも法人は厳格な会計処理が求められます。そのような理由から個人事業よりも法人の方が、一般的に社会的な信用が高いと言われています。

賃貸経営の法人化のデメリット

賃貸経営の法人化のデメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。

1.法人設立の手間・経費が必要

法人を設立するためには、法人登記をする必要があり、登録免許税がかかります。また、登記申請のため、法人の実印、銀行印、角印といった印鑑を作成し、印鑑登録をしておく必要があります。

かつ定款(法人の基本的なルールを定めたもの)の作成も必須です。この定款の作成や法人登記申請を司法書士などにお願いする場合には、司法書士への報酬なども費用として考えておかなければなりません。

また、法人設立をした際には、都道府県、市町村、税務署および年金事務所などへの届出も必要です。このように、法人設立をするには手間と経費が必要となりますので、留意しておきましょう。

2.決算業務の手間がかかる

個人事業の場合でも、会計事務、確定申告の手間が必要ですが、法人における会計事務は個人事業よりも煩雑で、手間がかかります。また、決算業務には簿記3級程度の知識も必要となるため、費用は掛かりますが税理士に依頼することも検討しておく必要があります。

3.赤字でも納付する税金がある

個人事業の場合、税務上赤字となった場合には税金(所得税および住民税)を納付する必要はありません。しかし、法人の場合、法人住民税の均等割りについては、税務上赤字であっても納付しなければなりません。

4.法人のお金を私的には使えない

個人事業の場合、事業主給与という概念がなく、収入を事業主の私的支出に使っても、事業運営に支障がなければ問題ありません。しかし、法人の場合では、事業に必要な経費として認められるものでなければ、定額の役員報酬以外は、事業主の私的支出に使うことは原則として認められません。

なお、役員報酬の金額は1年を通じて変動することはできないため、決算の日から3か月経過後に役員報酬の金額を変更した場合、経費として計上できなくなることにも注意が必要です。

法人化を検討するタイミングとは!?

法人化を検討するタイミングをいくつかご紹介いたします。

1.所得ベースで検討する

経費の扱いに差があるので、一概に言えませんが所得ベースでタイミングを検討してみるのもよいでしょう。個人の場合、所得が800万円であれば所得税(下表参照)と住民税(所得割は、一律10%)で税率は以下の表から23%となります。法人の場合、法人税および地方法人税、法人住民税、法人事業税(所得割)で税率はおよそ33%となります。
課税される所得金額税率控除額
195万円以下5%0円
195万円を超え 330万円以下10%97,500円
330万円を超え 695万円以下20%427,500円
695万円を超え 900万円以下23%636,000円
900万円を超え 1,800万円以下33%1,536,000円
1,800万円を超え 4,400万円以下40%2,796,000円
4,000万円超45%4,796,000円
法人税は所得が800万円を超えると、その超えた分について法人税の税率が23.2%となります。その超え幅が100万円に満たない場合は、個人の方が税率は低いと言えるでしょう。

しかし、所得が900万円を超えると、個人の所得税と住民税で、税率は43%となり、法人よりも税負担が重くなる可能性があります。所得が800~900万円を超えた時を法人化検討のタイミングの目安として考え、税理士に相談してみてはいかがでしょうか。

2.賃貸経営規模ベースで検討する

賃貸経営規模ベースで、法人化のタイミングを検討するという情報も耳にしますが、必ずしも正しいとは限りません。仮に、複数棟の賃貸物件を所有していたとしても、空室率が高く、収益性が極端に低いとなると法人化の検討よりも、入居率向上の手立てを講じるのが先決です。

3.物件を購入する前に検討する

個人で不動産を取得し、賃貸経営を開始した後に、法人化した場合、個人から法人に資産移転をする必要があります。

その際、法人に不動産取得税および所有権移転登記をするための登記費用が必要となり、個人で不動産をした時と法人化した時に、同じ不動産に2度課税されることになります。将来的な規模拡大を検討している場合には、物件購入前に法人化するのも一案です。

法人化に必要な初期費用

法人登記をするためには、法人の種類にもよりますが、最低でも6万円の登録免許税が必要になります。(※下表参照)
法人種類課税標準(税率を乗じる金額)税率
株式会社資本金の額1000分の7(15万円未満の時は、申請件数1件につき15万円)
合名会社申請件数1件につき6万円
合資会社
合同会社資本金の額1000分の7(6万円未満の時は、申請件数1件につき6万円)
また、定款作成や登記申請手続きを司法書士などに依頼する場合は、数万円の費用がかかります。そのほかの雑費も含めて、登記をするのための費用として10万円~25万円程度を見込んでおく必要があります。

税理士費用

先ほども述べましたが、法人化すると、会計提出書類が増えるため、個人事業よりも厳格な会計処理が求められます。少なくとも簿記3級程度の知識が必要となるので個人で会計処理を行うのが難しい場面もあるでしょう。

その場合、税理士に会計業務を依頼するのも一案です。どこまでの業務をどの税理士に依頼するかによっても異なりますが、毎月1~3万円程度の顧問料と、決算業務に顧問料の4~6か月分程度の費用がかかるのが一般的です。

法人化のステップ

法人化するためには、以下のようなステップを踏んでいく必要があります。一人でできる部分もありますが、専門家に相談しながら進めていくのが望ましいでしょう。

1.設立する法人の種別を決める

法人とひとくちにいっても、株式会社、合名会社、合資会社、合同会社などがあります。どの法人種類で、法人化するかを決める必要があります。

2.設立登記に必要な書類の作成

法人を設立するためには、法人登記が必要です。法人登記に必要な書類は以下のとおりです。

●登記申請書
法務省サイトから、記載例や書式をダウンロードできます。
●定款
定款とは、会社設立時に必ず作成する書類です。会社の事業目的、役員構成など会社の基本的なルールが記載された文書のことです。事前に公証人による認証された定款を提出します。
●発起人の同意書
発起人とは、法人設立の際、資本金の出資、定款の作成など会社設立の手続きを行う人を指します。発起人の同意書は、以下の項目が定款に定められていない場合に必要です。

① 発起人が割当を受けるべき株式数と発起人が払い込むべき金額
② 株式発行事項または発行可能株式総数の内容
③ 資本金、資本準備金の額

●代表取締役を選定したことを証する書面
●代表取締役、取締役、監査役の就任承諾書
●代表取締役の印鑑証明書
●取締役、監査役の本人確認証明書
●設立時取締役および設立時監査役の調査報告書およびその附属書類
●払込みを証する書面
●資本金の額の計上に関する設立時代表取締役の証明書
●委任状
●印鑑届出書

3.法務局で設立登記

必要書類を整え、法務局で法人設立の登記申請を行います。

4.税務署等4か所に開業の届け出

国税については税務署、地方税については都道府県および市区町村、労働保険については労働基準監督署およびハローワーク、社会保険については年金事務所の各窓口に、開業の届出が必要となります。

5.所有権の移転登記

法人設立後、個人名義から法人名義に、賃貸物件の所有権移転登記を行い、法人として賃貸経営をスタートすることになります。

まとめ

賃貸経営を法人化して行うことは、万人におすすめできるものではありません。しかし、賃貸経営の規模や今後の方針次第によっては、ランニングコストを考慮すると個人経営に比べて節税効果が高いなどのメリットもあります。

今回の記事を読んで、ご自身の所有する物件に法人化が有益な手段であると感じた方は、まずは税理士などの専門家に相談するところから始めてみてはいかがでしょうか。

この記事の監修者

キムラ ミキ

キムラ ミキ

【資格】AFP/社会福祉士/宅地建物取引士/金融広報アドバイザー

日本社会事業大学 社会福祉学部にて福祉行政を学ぶ。大学在学中にAFP(ファイナンシャルプランナー)、社会福祉士を取得。大学卒業後、アメリカンファミリー保険会社での保険営業を経て、(マンションデベロッパー)にてマンション営業、マンション営業企画に携わった。その後、2008年8月より独立し、現在、自社の代表を務める。

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●また、具体的なご相談事項については、各種の専門家(税理士、司法書士、弁護士等)や関係当局に個別にお問合わせください。