賃貸経営の事業承継。相続・生前贈与する前に、考えておきたいこと、備えておきたいこと

2024.07.19更新

この記事の監修者

キムラ ミキ
キムラ ミキ

AFP/社会福祉士/宅地建物取引士/金融広報アドバイザー

賃貸経営の事業承継。相続・生前贈与する前に、考えておきたいこと、備えておきたいこと

賃貸経営は、賃貸物件を用いた事業経営です。自分が亡くなった後の賃貸経営はどうするか、事業承継について考えておきましょう。

目次

賃貸経営の「事業承継」考えていますか?

賃貸経営をスタートさせた動機は、相続対策や節税、または老後の収入確保など、さまざまであると思いますが、自分が亡くなった後に賃貸経営をどうするか、考えたことはありますか?

理想を言えば、賃貸経営をスタートさせる前に、自分が亡くなった後はどうするのか考えておきたいものです。とはいえ「考えたこともない」という方が大半を占めるのではないでしょうか。

賃貸経営の事業承継とは?

自分が亡くなった後も、賃貸経営の継続を望むのであれば事業承継の検討および準備が必要です。事業承継とは、大家さんが自身の所有賃貸物件とその経営を次世代に引き継ぐことを言います。

今回の記事で、事業承継で引き継げるものとは何か、事業承継をどのように進めていけばいいかについて、考えるきっかけにしてみてください。

後継者に承継できるもの

賃貸経営の事業承継をするにあたり、後継者に承継できるもの、しておきたいものをご説明いたします。

賃貸経営に活用している土地や建物を承継できます。あらかじめ不動産の評価額や、承継時における後継者の納税負担についても確認しておくことが望ましいでしょう。

運転資金を承継できます。運転資金に余裕があると安定した賃貸経営を行えますので、後継者も安心して経営を引き継いでくれるでしょう。とくにアパートローン残債がある場合には、日ごろから資金繰りに目を向けて、必要以上の経費支出がないように努める姿勢も必要です。

また、修繕計画に沿って修繕が実施できるように積立を行っておく必要もあります。

情報

賃貸経営を行ううえで、必要なのは不動産と運転資金だけではありません。近隣類似物件との差別化を図り、満室経営を目指していくために物件の強みや入居者ターゲットを知っておくことも必要です。

また管理会社の情報やその管理状況、また物件価値を維持するための修繕計画とその実施状況、現在の入居者プロフィール、入居者から寄せられている要望など、大家さんとして押さえておきたい情報はたくさんあります。

そのような情報を整理し、後継者に承継する準備を整えましょう。

承継の仕方

事業承継とひとくちに言っても、その方法はさまざまです。代表的なものについて以下に簡単にご紹介します。

相続

亡くなった後に子どもなどに相続することによって、事業承継を行う方法です。相続によって事業承継を受けた後継者には、相続税の納税負担が生じる可能性があります。

生前贈与

亡くなる前、つまり生前に贈与することによって、事業承継を行う方法です。生前贈与によって事業承継を受けた後継者には、贈与税の納税負担が生じる可能性があります。

法人を作って承継

個人事業として行っていた賃貸経営を法人化することにより、事業承継をする方法です。法人化によって事業承継をした場合、法人に不動産取得税や登録免許税の納税負担が生じ、会計事務が個人事業の時よりも厳格化されます。

また、賃貸経営の収入規模によってメリット享受の有無が分かれるため、この方法を検討する際には税理士に相談されることをおすすめします。

家族信託

家族信託とは、資産を持つ方が特定の目的に従い、その資産を“家族”に“信”じて“託”し、管理や処分をまかせる仕組みを指します。この家族信託の仕組みを活用すると、親が元気なうちに、子に財産の管理を任せられるため、贈与税負担なく、生前に賃貸経営の事業承継を行うことができます。

承継者の選びの留意点

事業承継の方法を踏まえたうえで、誰を賃貸経営の承継者にすればよいのかについて、ご説明いたします。

公平性を意識する

承継者を選ぶ際、承継者候補が複数人いる場合には、公平性を意識しておくのは大切なことです。つまり、承継者とそのほかの候補者の財産配分の平等性を意識するということです。承継者は大家さんの子どもとなるケースが多いと考えられるため、承継後に不公平からくる兄弟間トラブルを回避するためにも留意が必要です。

もちろん、完全平等とするのは困難ですが、賃貸経営の承継者には不動産だけでなく、運転資金を承継します。また納税負担が生じる場合には納税資金の考慮も必要です。その承継内容および賃貸経営の業務内容を承継候補者に開示しましょう。

そのうえで、賃貸経営の承継者は財産を受け取るだけでなく、その分事業経営の手間も要するものであることを納得してもらう必要があるでしょう。

事業として承継者を選ぶ

賃貸経営は、賃貸物件を所有しているだけで家賃収入が入るといった簡単な事業でないことは、大家さんが一番ご存じであると思います。事業承継を考える際、「跡継ぎ(相続人)」という視点だけではなく、「事業の承継者」という視点で考える姿勢を持ちましょう。

賃貸経営は、管理業務を管理会社に委託する場合でも管理会社と連携しながら、資金繰り確認や入居者満足向上のための対策などを日々行っていく必要があります。また空室が生じた時には、対策や焦りに頭を悩ませる場面もあるかもしれません。

賃貸経営には、そのような手間や時間が必要であることを了承したうえで、事業遂行をしてくれそうなのは誰なのかという視点で承継者を選ぶ必要もあると留意しておきましょう。

承継を考えたときにやっておきたいことリスト

賃貸経営の事業承継を考えたときにやっておきたいことについて、今までにお話しした点も含めて、ご説明いたします。

賃貸経営について伝える

まず、賃貸経営とはどんな事業であるかについて伝えるのは必要不可欠です。大家さんが知っておきたい基礎知識として、賃貸経営に関わる法律(宅地建物取引業法、建築基準法、都市計画法など)や賃貸経営に関わる税金(固定資産税、都市計画税、登録免許税など)は最低限整理して伝えておく必要があります。

自物件について伝える

基礎知識を踏まえて、所有している賃貸物件の以下のような概要についても伝える必要があります。

・不動産登記の内容(登記簿記載情報の説明)
・近年の確定申告内容と申告方法
・物件状況(築年数や修繕計画および実施状況、設備交換スケジュールなど)
・関連専門窓口(税理士、管理会社など賃貸経営サポートの取り引き先)

賃貸状況について伝える

賃貸状況および経営状況、並びに空室を生じさせないようにどのような対応をすればよいかを把握できるように以下のような内容を伝えておく必要があります。

・入居状況(入居率、繁忙期および閑散期の時期と対応、入居者からの要望など)
・入居者との契約内容や敷金の預かり状況
・経営状況(通帳、キャッシュフロー表、資金繰り表など)

相続について家族で相談する

賃貸経営に必要な知識を踏まえ、賃貸物件の相続について家族で話し合い、事業承継をどのような手段(相続、贈与、法人化、家族信託)でいつ行うのかを相談しましょう。承継時、承継後にトラブル発生を回避するために、遺言書の作成有無、納税負担の有無やその金額についてもあわせて話し合っておくと、なおよいでしょう。

まとめ

事業承継というと構えてしまう方もいらっしゃるかもしれません。また、まだまだ先のことだから考えるのは縁起が悪いと考える方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、賃貸経営を自分が亡くなった後も継続してほしいと考えるのであれば、事業承継の準備を避けることはできません。そしてその準備は、一朝一夕にはできず、時間を要します。その準備を経なかったために、ある日突然、賃貸物件を相続して困惑してしまったという思いを継承者に経験させたいですか?

継承者が心の準備をしたうえで、安心して賃貸経営を継続できるように、まずは大家さんが伝えるべき情報を整理したうえで、ご家族ぐるみで話し合いの機会を持ってみるのは、継承者への思いやりでもあるのではないでしょうか。

この記事の監修者

キムラ ミキ
キムラ ミキ

AFP/社会福祉士/宅地建物取引士/金融広報アドバイザー

日本社会事業大学 社会福祉学部にて福祉行政を学ぶ。大学在学中にAFP(ファイナンシャルプランナー)、社会福祉士を取得。大学卒業後、アメリカンファミリー保険会社での保険営業を経て、(マンションデベロッパー)にてマンション営業、マンション営業企画に携わった。その後、2008年8月より独立し、現在、自社の代表を務める。

●紹介されている情報は執筆当時のものであり、掲載後の法改正などにより内容が変更される場合があります。情報の正確性・最新性・完全性についてはご自身でご確認ください。
●また、具体的なご相談事項については、各種の専門家(税理士、司法書士、弁護士等)や関係当局に個別にお問合わせください。