インボイス制度が大家さんに影響する場合も…
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目次
インボイス制度とは
この制度の前提として、新たに「適格請求書発行事業者登録制度」が創設され、消費税の課税事業者には登録番号が附番されます。原則として「適格請求書発行事業者」から交付を受けた「適格請求書」の保存が仕入税額控除の要件とされ、登録事業者は適格請求書の交付・写しの保存が義務化されます。
これまで免税事業者であった者も「適格請求書発行事業者」に登録できますが、登録をすると消費税の課税事業者となります。登録をしていない免税事業者は適格請求書を発行することができないことが、この制度の大きな特徴です。
消費税の仕組みをおさらい
消費者は事業者からの商品購入時やサービス受給時に、その代金とともに消費税相当額を支払います。事業者が受領する消費税相当額は預り金的な性質を持っており、これを消費税法では「課税売上に係る消費税額」といいます。
他方、事業者はその事業のために商品などの仕入をし、さまざまな経費を支払います。これらの取り引きにも消費税は課せられており、事業者は商品やサービスの代金とともに消費税相当額を支払います。事業者が支払う消費税相当額は仮払金的な性質をもっており、これを消費税法では「課税仕入等に係る消費税額」といいます。
事業者は一定期間(通常は一年間)ごとに国に消費税の申告・納付をする義務があります。納付する消費税の計算に際しては、上記「課税売上に係る消費税額」から「課税仕入等に係る消費税額」を差引くことができます。しかし、「課税仕入等に係る消費税額」は常に全額を差引けるわけではありません。
差引くことのできる「課税仕入等に係る消費税額」の計算にはいくつかのルールがあります。「課税売上に係る消費税額」から「課税仕入等に係る消費税額」のうちの適正な金額を差引くことを「仕入税額控除」といいます。インボイス制度の導入は、この「仕入税額控除」の要件を厳格化する改正になっています。
インボイス制度の目的
そもそも益税問題はなぜ発生するのでしょうか。消費税法の規定では、「課税事業者」と「免税事業者」が存在します。「課税事業者」は消費税の申告納付の義務がある事業者をいい、「免税事業者」とは消費税の申告納付の義務が無い事業者をいいます。
消費税の納税義務の有無の判定は、「基準期間」といわれる期間の課税売上高が1,000万円を超えるか否かにより行います。「基準期間」とは大まかにいえば、個人事業主であれば前々年、法人であれば前々事業年度(事業年度が1年の場合)を指します。
「免税事業者」は消費税の申告・納税義務はありませんが、商品などの代金受領時に消費税相当額をプラスして預かることはできます。預かった消費税相当額は、納税する義務はないのでそのまま「免税事業者」の利益となります。
これを「益税」といっています。従前の消費税法の定めでは、取引相手の事業者が消費税の納税義務者であるか否かを知る術はありませんでしたから、「免税事業者」であっても請求に際しては消費税を上乗せして請求を行うことが通常でした。
インボイス制度は大家さんに影響する?
上記①の適格請求書発行事業者の登録番号は、令和3年10月1日から始まった登録制度に基づき附番されます。適格請求書発行事業者として登録された事業者は、消費税の課税事業者となり、適格請求書の発行義務者ともなります。つまり、インボイス制度導入後は、取引先が消費税の納税義務者であるかどうかは請求書を見れば誰の目にも明らか、ということになります。
消費税の適格請求書発行事業者として登録されていない事業者は、請求書に登録番号を記載することができません。そして、登録番号の記載のない請求書等に係る経費の支払いは仕入税額控除の対象となりません。
ただし、令和5年10月1日以降、免税即日事業者との取り引きの仕入税額控除がすべて不可とされるわけではなく、令和8年9月30日までは免税事業者からの課税仕入等の消費税額のうち80%、令和11年9月30日までは50%までの仕入税額控除が認められます。令和11年10月1日以降、免税事業者との取り引きについて仕入税額控除が認められなくなります。
こうした改正は大家さんにも影響を与えます。不動産の貸付のうち、消費税の課税対象となる取り引きは、店舗や事務所の貸付、駐車場の貸付などです。住宅や更地の貸付は、非課税取引とされています。店舗や事務所の貸付を行っているものの、年間の課税賃料収入が1,000万円以下であるため、消費税の免税事業者である大家さんはこの改正の影響を受けることになるのです。
また、消費税の課税事業者である大家さんでも、ご自身の資産管理会社を設立し手数料などを支払っている場合で、この資産管理会社が免税事業者であると、影響を受けることとなります。具体的な説明は後述いたします。
インボイス制度が賃貸経営に及ぼす影響
競争力が低下する
大家さんが課税事業者であれ免税事業者であれ、支払家賃は仕入税額控除の対象となり、自身が納税する消費税を引き下げる効果があったからです。しかし、インボイス制度が導入されると、大家さんが課税事業者であるか、免税事業者であるかは、賃借人である事業者にとって大きな問題になります。
支払家賃について仕入税額控除を受けるためには、大家さんから適格請求書の交付を受けなければなりません。大家さんが免税事業者で適格請求書を発行することができないと、支払家賃に係る消費税相当額は仕入税額控除の対象とできず、店舗の賃借人である事業者はその分の消費税を多く負担することになります。結果として消費税相当分だけ経費は増大し、利益が圧迫されます。
そのような事態が発生した場合に、店舗などの賃借人である事業者の反応としては、どのようなことが想定できるでしょうか。課税事業者である大家さんの物件へ引っ越すか、大家さんと消費税相当額の値引きを交渉するか、ということが考えられます。そして、これは貸店舗だけの問題ではなく、貸事務所や駐車場にも同様の問題が発生します。
つまり、免税事業者である大家さんにとってインボイス制度の導入は、店舗・事務所・駐車場など消費税の対象となる賃貸物件の相対的な競争力を低下させる影響をもたらすことになるのです。
節税が期待できなくなる
しかし、消費税のインボイス制度導入後はこのスキームでは消費税の節税メリットは得られません。資産管理会社が消費税の免税事業者である場合、大家さんは管理費などについて仕入税額控除を受けることが出来なくなり、自身の消費税の納税額が増加します。
他方、資産管理会社を消費税の課税事業者として登録すれば、支払っている管理費などは資産管理会社側で課税売上として認識され消費税の納税義務が発生します。これまでのように、一方では仕入税額控除を行い、もう一方では免税により納税なし、という良いとこ取りの取り扱いは受けられなくなります。
太陽光発電を保有している場合は影響する?
従前の取扱いでは、電力会社が免税事業者である個人から買い取った電気についても仕入税額控除の適用があり、電力会社の消費税の納税額はその分圧縮されていたものと推測できます。
インボイス制度を文言通りに解釈するならば、電力会社などが個人から買い取る電気について、消費税の仕入税額控除の適用を受けるには、売電を行っている個人から適格請求書の交付を受ける必要があります。
インボイス制度でも、適格請求書の発行が困難な取り引きについては、交付義務の免除規定が定められております。公共交通機関の料金で3万円未満のものや自動販売機、郵便サービスなどがこれに当たります。これら交付義務が免除される取り引きについては、適格請求書等の保存がなくても今後も仕入税額控除の対象とできます。
まとめ
この点について、一点留意しなければならないのは、貸駐車場についてです。月極駐車場の地代は原則消費税の対象取引となりますが、借主が個人であり消費税の課税事業者でない場合は、仕入税額控除の可否を考える必要はありません。
インボイス制度がご自身の納税額にどの程度の影響を与えるのか、顧問の税理士と試算を行い、適格請求書発行事業者としての登録をするべきかどうか、検討することをおすすめします。
インボイス制度が大家さんに影響する場合も…
制度の内容をしっかりおさえてきましょう!
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この記事の監修者
税理士
会計事務所に勤務しつつ平成16年税理士試験に合格。税務コンサルタント会社にて金融機関をサポートする業務の中、資産税業務の経験を積む。平成22年税理士法人シン総合会計設立。主に中小企業の会計税務支援を中心に、事業承継、資産税業務にも従事。不動産会社の税務相談会相談員、金融機関のセミナー講師等に携わる。