外壁塗装費は減価償却?経費計上前に確認しておきたいポイント

2024.07.31更新

この記事の監修者

河野 陽炎
河野 陽炎

3級FP技能士

外壁塗装費は減価償却?経費計上前に確認しておきたいポイント

外壁塗装後の経費精算予定の方、これから外壁工事予定の方へ、経費精算前に確認すべきポイントを事例を交えてご説明します。

目次

※本記事では、修繕費と減価償却を比較しやすいよう「資本的支出」を「減価償却(費)」と言い換えている箇所があります。
※計上方法は、税理士の方とも事前にご確認ください。

外壁塗装の計上方法は2種類ある

物件の価値を維持し、空室率をできるだけ抑えるには、外壁塗装をはじめとするメンテナンスをきちんと行わなければならず、その費用は賃貸経営のための経費として計上することができます。外壁塗装の費用を経費計上する方法は、以下の2種類です。

・修繕費とする方法
・減価償却とする方法

修繕費

建物を通常の状態に維持、管理するため、あるいは原状回復を目的とする外壁塗装工事の費用は「修繕費」として、塗装を完了した年度に一括で経費として計上します。

修繕費で計上するのはこんな工事

・外観にひび割れができてしまった場合の補修
・建物を維持するための外壁塗装
・災害などで損害を受けた部分の補修

減価償却

建物の価値や性能、耐久性の向上を目的とする外壁塗装工事を行い、建物の使用可能年数が延長したり、建物価値が高まったりした場合、そのためにかかった費用は「資本的支出」と考えられ、かかった費用は建物の取得原価に含まれます。その費用は一括して計上するのではなく、各年度に減価償却費を計上する方法で、減価償却を行うことになります。

減価償却で計上するのはこんな工事

・耐用年数が長い塗料を使用した外壁塗装工事
・魅力的な外観に変えるためにタイルやサイディングボードを使用した工事

修繕費と減価償却、どちらで計上するかの判断ポイント

外壁塗装の費用を修繕費として一括計上すべき場合とは、次の通りです。

工事内容から判断するには?

修繕費  :建物を元の状態に戻したり、維持管理するための壁塗装費用
資本的支出:建物の資産価値を向上させるための外壁塗装費用

工事費用や周期から判断するには?

国税庁〔資本的支出と修繕費等〕
ポイント1その修理、改良等のために要した金額が20万円に満たない場合
ポイント2その修理、改良等がおおむね3年以内の期間を周期として行われることが既往の実績その他の事情からみて明らかである場合
ポイント3資本的支出であるか修繕費であるかが明らかでない金額があり、それが次のいずれかに該当する場合
(1) その金額が60万円に満たない場合
(2) その金額がその修理、改良等に係る固定資産の前期末における
  取得価額のおおむね10%相当額以下である場合

この条件に当てはまらない外壁塗装費用は、資本的支出にあたり、減価償却を行います。修繕費と資本的支出のどちらにあたるかの判断は難しく、国税不服審判所にその判断がゆだねられた事例もあります。そのため、不安な点は工務店や税理士さんに相談しながら、慎重に進めていってください。

節税効果が期待できるのは減価償却

節税効果が期待できるのは減価償却で計上した場合です。賃貸経営で得られた所得には所得税がかかりますが、売上の全額に税金がかかるのではなく、売上から経費を指し引いた金額が課税対象になります。

減価償却費は、それを計上した各年度の経費として売上から差し引くことができ、減価償却費の分だけ決算書上の利益の額を抑えることができるので節税効果が期待できるというわけです。

こんな時はなるべく減価償却で計上しよう

追加の融資を検討している人

外壁塗装の費用は多額にのぼります。単年度で一括して費用計上すると、その年の収益が少なくなります。売上が少ない年に多額の外壁塗装費用を計上することで、収益が極端に少なくなる場合は要注意。たとえば銀行から融資を受けようとしても、経営状態が悪いと判断され融資が受けられなくなる可能性も出てくるからです。

外観の価値や性能が上がった

修繕目的の外壁塗装でも、外観が美しくなったり、防水効果がある塗料を使ったなどの理由で性能が向上したりした場合は減価償却として計上することができます。

減価償却で計上する場合の注意点

外壁塗装費用を資本的支出として、年度ごとに減価償却する方法には注意点もあります。特に、毎年計上できる減価償却費には、金額の上限が決められていることには注意しましょう。

減価償却として計上する方法が、その時点での経営状態や資産状況、将来の経営計画に照らして、よい選択でない場合もあります。たとえば、翌年の所得税額を抑えるためには、外壁塗装費用を修繕費として一括計上できるほうが、減価償却費として少しずつ経費計上するより節税効果が期待できる場合もあります。

工事を行う前に税理士に相談しよう

しかし、修繕費が税務署などで資本的支出とみなされ、減価償却を行わなければならない場合は、一度に計上できる経費の額が一定の範囲内に限られ、翌年の節税効果という点では、効果が低くなってしまうこともあるのです。税理士さんに相談しながら、修繕費とみなされる工事を行うべきか、資本的支出に該当する工事をするべきかを検討してください。

外壁塗装実施前に確認しておきたいこと

外壁塗装工事に取り掛かる前に以下のことを確認して、資金面で無理をせずに建物をよい状態に保てるようにしましょう。

今後の計画

外壁塗装を行う前に、確認しておきたいのは次のことです。

大規模修繕にあたる外壁塗装を、どのくらいのサイクルで行うか?

大規模修繕は、次のようなサイクルで行う大家さんが多いですが、これはあくまでも目安であり、塗料の種類や立地条件、気象条件などにも左右されます。

・1回目 築後13~16年
・2回目 築後26~33年
・3回目 築後37~45年

大規模修繕の費用は、積立や融資など、どのような方法で用意するか?

追加融資を受ける計画があるなら、赤字経営が長期間続くことは避けなければなりません。

ひび割れや汚れがどの程度になったら修繕をするか?

施工不良や災害など思わぬ理由で、予定外にひび割れやサビが出現する場合もあります。そのような時の対処法を決めておきましょう。

今後、融資を受けて建物を改良したり、事業規模を拡大したりする予定があるか?

追加融資を受ける計画があるなら、赤字経営を長期間続けないようにしましょう。

銀行で融資を受けたい場面では、外壁塗装費用の計上方法や資金繰りについて計画を立て、銀行側に説明できる状態にしておきましょう。

資産状況

空室が続いて収益があまり上がっていない物件は、外壁塗装費用を修繕費として一括計上すると、収益の極端な減少や赤字決算になる場合もあります。しかしながら、外壁がボロボロのままで放置すると、ますます物件としての人気がなくなり、退去したいという人も出てくるかもしれません。

このような場合は、減価償却ができる工事内容を選び、各期にわけて減価償却を行いながら、物件としての価値も向上させることで、節税と空室対策を同時に行うこともできます。

塗料の種類

塗料にはそれぞれ耐用年数の目安があります。

 ●アクリル:3~5年
 ●ウレタン:5~7年
 ●シリコン:7~10年
 ●フッ素 :10~15年
 ●光触媒 :10~15年

大規模修繕を15年ごとに行う計画を立てているのに、耐用年数が5年や10年の塗料を用いると、塗料がはげ落ちたり、ひび割れたりを繰り返す状態で、大規模修繕を待たねばならないかもしれません。逆に、大規模修繕を10年ごとに行う計画なのに、塗料の耐用年数が15年といった長いものを使うと、まだ美しい外壁を塗り替えることになります。大規模修繕のサイクルと塗料の種類についてバランスを考えましょう。

こんな場合は減価償却できる?

賃貸経営をしていると、修繕費として計上すべきか、それとも減価償却ができるのか、迷うケースは多々あります。次のような場合、どう考えればいいでしょうか?

中古物件を購入し外壁塗装をした上で業務上の使用を開始した場合

これまで保有していた物件とは別に、中古物件を購入して外壁塗装を行ってから、入居者を募集し始めた場合、外壁塗装の費用はどう計上すればよいのでしょうか?

この場合、「建物の取得価格」に外壁塗装費用を含めることになります。法人税法や所得税法において「減価償却資産の取得価額には、当該資産を事業の用に供するために直接要した費用は取得原価に含めるべき」とされているからです。外壁塗装の費用は「建物」の取得価格として計上され、年度ごとに減価償却が行われることになります。

塗料の種類をグレードアップさせた場合

これまで使っていた塗料より、グレードアップした塗料を使うことで外壁塗装工事費用が上がった場合について考えます。

・従来と同じ塗料を使えば400万円だった
・グレードアップした塗料を使ったため600万円かかった

この場合、400万円については修繕費として計上し、グレードアップによって余分にかかった200万円を資本的支出とすることができます。ただし、税理士さんによって判断が異なることもあるため、処理する際には必ず相談するようにしましょう。

まとめ

建物の外壁塗装にかかる費用は、修繕費として一括計上する方法と、資本的支出として計上し、減価償却を行う方法の2つがあります。

減価償却をする方法には、節税効果をはじめとしてメリットも多いのですが、工事の内容によって修繕費と資本的支出のどちらにすべきかが決められています。資産の状況や、今後の経営計画、大規模修繕の計画に応じて、修繕費と資本的支出のどちらにしたいかを検討した上で、工事内容を決定するという方法もあります。税理士さんなど専門家と相談しながら、計画的に外壁塗装を行いましょう。
※本記事では、修繕費と減価償却を比較しやすいよう「資本的支出」を「減価償却(費)」と言い換えている箇所があります。
※計上方法は、税理士の方とも事前にご確認ください。

この記事の監修者

河野 陽炎
河野 陽炎

3級FP技能士

3級FP技能士資格を持つライター、コラムニストとして、生命保険や医療保険、金融、経済などの執筆実績が多い。次々と発売される商品や、改正の相次ぐ税制、法律が1人の生活者にどう影響を与えるかの視点を大切にする。

●紹介されている情報は執筆当時のものであり、掲載後の法改正などにより内容が変更される場合があります。情報の正確性・最新性・完全性についてはご自身でご確認ください。
●また、具体的なご相談事項については、各種の専門家(税理士、司法書士、弁護士等)や関係当局に個別にお問合わせください。