プロパンガスの賃貸物件は不人気?都市ガスとの違いやガス会社変更の費用対効果を検証しよう

2024.08.21更新

この記事の監修者

弘中 純一
弘中 純一

宅地建物取引士/一級建築士

プロパンガスの賃貸物件は不人気?都市ガスとの違いやガス会社変更の費用対効果を検証しよう

所有物件の空室が埋まりにくいのはプロパンガスが原因?!賃貸物件のガス設備に関して押えておきたいポイントをお伝えします。

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目次

住宅で使うガスは3種類

空室が埋まるまでに時間がかかるようになった賃貸物件の場合、原因の1つに「プロパンガス」を使用していることが考えられます。ガス料金は種類や供給方法によって異なり、都市ガスを希望する入居者が多いとも言われます。

都市ガス供給地域に建つ賃貸物件を、プロパンから都市ガスに変更することは可能ですが、変更するには費用もかかります。この記事では、都市ガスへの変更でどのようなメリットがあるのか、プロパンガスのままで有効な空室対策はないかなど、検証しながら解説していきましょう。

賃貸物件の設備には必ずガスの種類を明示しますが、住宅で使うガスには次の3種類があります。

1.都市ガス
2.集中プロパンガス
3.個別プロパンガス

都市ガスとは

都市ガスは、天然ガスや石油系ガスなど原料によって多少の違いはありますが、ガス製造所から地中に埋設した導管をとおして、広範囲の住宅や施設などにガスを供給しています。

主な成分はメタンガスであり、空気より軽いのが特徴です。メタンガスは無色・無臭なので、ガス漏れなどの際に気づきやすくするために付臭剤を混合させて臭いがするように工夫されています。

都市ガス事業者は数が少なく、東京ガス、大阪ガス、東邦ガスの大手3社で都市ガス供給量の約7割を占めていると言われます。

プロパンガスとは

プロパンガスはLPGと表記しますが液化石油ガスのことであり、供給方式によって「集中プロパン」と「個別プロパン」に区別します。

集中プロパンは街区の1か所に、ガスの入ったボンベを格納する建物(プロパン庫・ボンベ庫)があり、プロパン庫から地中配管を通して各住宅にプロパンガスを供給する仕組みとなっています。

個別プロパンはプロパンボンベを各住宅に設置し、個別に配管・供給する方式です。アパートやマンションの場合は、プロパンボンベよりも大容量のバルクタンクを設置するケースもあります。

プロパンガスは都市ガスと違い、空気より重いのが特徴です。また、無色・無臭な点も都市ガスと同じで、付臭剤が使われています。

賃貸ではプロパンガスが多い理由

まず、都市ガスの普及率を見てみましょう。都市ガスの普及率は、東京都や大阪府では80%を超えるものの10%を下回る地域は多く、全国でみると約46%に留まっています。

なぜプロパンガスが多いのか?その理由を簡単に探ってみましょう。

【理由1】都市ガスは地域が限られる

都市ガスは、ある程度人口が多い都市で供給されていますが、ガス事業者がガス製造所と配管などのインフラを設備投資するため、採算のとれる条件がなければ事業として成り立ちません。

つまり、都市ガスが利用できる地域は限定的であり、プロパンガスを利用する地域はかなり多く、地方都市になるとこの傾向は強くなります。

【理由2】プロパンガスは大家さんにメリットが多い

賃貸経営をする上で都市ガスよりもメリットが多いのも、賃貸にプロパンガスが多い理由でしょう。ガス設備を使用するには、以下の設備や工事が必要です。

1.ガスボンベからガス器具までの配管工事
2.給湯器や調理器などのガス器具

一戸あたり十数万円の費用がかかりますが、これらの費用をガス事業者が負担し、大家さんには一定条件に基づいて配管・設備類を貸し付ける方法で、ガス供給が行われています。つまり、アパートに10~20年の間、ガス供給をさせてもらう代わりに、初期費用を業者が負担するわけです。

この方法は以前「無償貸与契約」と言っていましたが、現在は設備・配管類の利用料金を明確にするよう「液化石油ガス法」で定められており、中途解約時の買い取り費用についても徴収することを明記した貸付契約に変わっています。

プロパンガスは入居者のガス代負担が重くなる

大家さんにとってはプロパンガスにメリットがあるのですが、入居者にとっては都市ガスよりも料金が高く、負担が重くなる一面も知っておかなければなりません。

料金の高いプロパンガスを使用する賃貸物件は、同じエリアにある都市ガスが使える物件があると、そちらのほうに入居申し込みが集まりやすく、入居付けが難しい面があります。

また、都市ガスが利用できる周辺の物件が空室になった時点や、新築物件の募集を理由に転居されてしまう場合もあります。退去を防止するには、家賃を下げるなどの検討も必要になります。

プロパンガスのメリット・デメリット

プロパンガスは大家さんにとってのメリットが大きいため、物件数も多いのですが、入居者からみたメリットとデメリットを考えてみましょう。
メリットデメリット
・熱量が高い
・災害復旧が早い
・料金が都市ガスより高い
・地域や業者によって料金に差がある

プロパンガスが都市ガスより高い理由

都市ガスはプロパンガスと異なり、設備や配管などのすべてを大家さんが負担しています。都市ガス事業者はガス管の本管敷設まで完了すると、その後メンテナンス以外に費用がかかりません。

これに対して、プロパンガスはボンベの交換やタンクへの供給など、ガスの配送業務がずっと続きます。都市ガスのように自動で行うことはできず、常に人手がかかってしまいます。そのためプロパンガスの料金は、都市ガスに比べて高くなってしまうのです。料金が高いことは大きなデメリットといえるでしょう。

また、都市ガスは小売事業が全面自由化されましたが、以前の許可制に基づく料金形態を継続しているケースや、自由競争が少ない地域では一定の規制を受けています。そのため、公共料金という性質があり低い水準で押えられています。

これに対して、プロパンガスは自由競争により価格設定されており、事業者によっては高い料金設定になっていることもあります。このように都市ガスとプロパンガスとでは、料金形態が異なることもデメリットの1つです。

地域によって料金差も

プロパンガスは同一地域に多数の事業者がおり、事業者によって料金が異なります。また、地域によっても異なる場合があります。

定期的に配送が必要なため、地域の特性によっては配送コストが余分にかかるなどの地域差もあります。また、地域によっては安い価格帯を持つ事業者の営業エリアに入っていないため、高い設定のガスを使わざるをえない場合もあるでしょう。

アパートやマンションは一戸建てとは違い、ガス事業者を自由に決められないこともデメリットとなっています。

熱量も異なることに注意

プロパンガスは料金が高くデメリットが多いと感じますが、よい所もあります。都市ガスの熱量は10,750kcal/m3であり、プロパンガスは24,000kcal/m3と約2.23倍高いのです。熱量の違いが料金の違いであるとは必ずしもいえませんが、どちらがよいかを比較する要素としては覚えておきたいものです。

一般家庭では最大熱量はあまり影響がないかもしれませんが、中華料理店などは火力の強いプロパンガスをあえて希望するケースもあります。

災害時の復旧が早いことにも注目

ガスは調理や給湯、暖房などのエネルギー源であり、災害により供給がストップすると生活に大きな支障がでます。大きな地震などで都市ガスの導管網が寸断された場合、全面復旧までに長い期間を要することがあります。その点、プロパンガスは点検に時間がかからず、短期間で復旧できる点が大きなメリットといえるでしょう。

都市ガスに変更することは可能?

経営している賃貸物件が都市ガス供給地域にある場合、プロパンガスから都市ガスに切り替えることにより入居率をアップさせることも考えられます。プロパンガスから都市ガスへの変更については、配管工事やガス器具の交換など、費用は大家さん負担になります。費用や変更手続きなどを詳しく見ていきましょう。

都市ガスへ変更する費用

前面道路に埋設されているガス導管からの引込が必要で、費用は15万円前後です。しかし、道路幅が広く中心線から反対側に敷設されている場合は、費用はもっと高くなるので注意したい所です。

さらに、各戸別の配管やメーターはプロパンガスで使っていたものは使用できず、すべて交換となりますので、配管工事に約10万円/戸、ほかにガス器具の交換費用もかかります。

プロパンガスから都市ガスへの手続き

プロパンガスから都市ガスへの変更手続きは次のような流れになります。

1.都市ガス会社の選択
2.工事費や器具交換費用の見積もり
3.都市ガス需給契約の締結
4.プロパンガス需給契約の解約
5.工事の日程調整
6.工事着手とガス供給開始

ここでのポイントは都市ガス事業者の選択です。

自由化が行われたため、地域によっては複数の会社から選ぶことが可能です。ガス料金やガス機器の費用やリース料なども比較検討するため、複数のガス会社から見積もりを取るようにしましょう。

都市ガスへ変更する時の注意点

工事着手するとガスの使用できない期間が生じます。入居者との調整が必要になりますので、工事スケジュールをよく把握して生活に支障のないようにしなければなりません。また、プロパンガス需給契約の解約にあたっては、貸与配管設備の使用料や買取り費用などの清算が必要です。

都市ガスの自由化も始まっている

2016年4月から電力の小売全面自由化がはじまりましたが、都市ガスも2017年4月から小売全面自由化が行われています。都市ガスの全面自由化とは、これまで地域で独占していたガス事業を、ガス事業者以外の企業でも参入できる制度です。

よく知られている所では、東京電力や関西電力も都市ガスの販売をはじめています。さまざまな企業がガス事業に参入することにより、価格やサービスに競争原理を導入し、消費者がより多くの恩恵を受けられるようにするといった目的があります。

電力会社が都市ガスも販売している場合は、電力とガスのセット割などの割安な料金を適用する方法もあり、電力とガスの小売業者の選択方法により入居者負担を軽減することも可能です。都市ガスの切り替えが自由化になった現在、有効な「空室対策」といえるでしょう。

オール電化にする案も

都市ガスの供給がされていない地域ではプロパンガスになってしまいますが、ガス料金が高いなどの不満が出るケースもあります。

都市ガスを採用できない場合には、オール電化にするという選択肢もあります。電力も完全自由化されているため、小売業者の選択で入居者負担を減らすこともできるでしょう。

プロパンガスのままでも可能な空室対策とは

入居者にはメリットのある都市ガスですが、都市ガス供給地域ではない場合、プロパンガスのままでできる空室対策があります。

契約会社の変更を検討する

全国にはプロパンガスの事業者が約2万社あります。この記事をご覧いただいている大家さんの地域でも、たくさんの会社があるでしょう。

プロパンガスの料金やサービスメニューは、事業者によって大きく異なります。比較した結果、現在契約しているガス事業者の料金・サービスに遜色があると感じたら、ガス会社の変更を検討すべきです。

ガス事業者の変更時には、ガス設備機器を新しく交換することもよくあります。耐用年数などで交換時期が来るころであれば、ガス事業者の変更に係わる清算金も少額で、新規事業者の負担が軽くなるので設備機器の交換はちょうどよいタイミングになります。

乗り換えの際の注意点とは

ガス事業者の変更は中途解約になる場合がほとんどで、まず現在使用しているガス設備や配管類の、使用料や買い取り費用の清算が必要です。プロパンガスは初期費用をガス事業者が負担しており、中途解約するにあたってこれらを清算しなければなりません。

しかし、これらの面倒な事業者変更に関わる手続きや費用負担は、新たにガス供給を行うガス事業者が大家さんに代わって行うことが多く、大家さんが負担することはほとんどありません。

新しいガス事業者の料金やサービスメニューをしっかり確認し、信頼のできる会社に依頼するようにしましょう。

まとめ

都市ガスは一般的にプロパンガスよりも料金が低いなどのメリットがあり、一方のプロパンガスは大きな災害が発生した際、点検に時間がかからず短期間で復旧できるなどのメリットがあります。どちらを賃貸物件に採用するかは、双方のメリット・デメリットを把握した上で決めるようにしましょう。

なお、都市ガスへの切り替え、あるいはプロパンガスの事業者乗り換えなど、コストを正確に把握し空室対策に効果があるかを、管理会社にも相談して検討するようおすすめします。

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弘中 純一
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宅地建物取引士/一級建築士

宅建取引士・一級建築士として住宅の仕事に関り30年。住宅の設計から新築工事・リフォームそして売買まで、あらゆる分野での経験を活かし、現在は住まいのコンサルタントとして活動中。さまざまな情報が多い不動産業界で正しい情報発信に努めている。

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