【ターゲットを絞った空室対策】賃貸物件を楽器可物件にするための検討ステップ

2024.07.31更新

この記事の監修者

いしわた さとみ
いしわた さとみ

宅地建物取引士/二級建築士/既存住宅状況調査技術者/ホームステージャー

【ターゲットを絞った空室対策】賃貸物件を楽器可物件にするための検討ステップ

楽器演奏可能な物件が注目を集めています。今の立地が楽器可物件に適しているか防音設備を整える必要があるのかお伝えします。

需要が見込める立地であれば
「楽器可物件」への変更は空室対策に効果あり!

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目次

楽器可物件は空室対策として期待できるのか

賃貸物件が飽和状態の都市部においては、立地や築年数といった条件に入居率が左右されてしまい、入居者獲得のために「家賃を下げる」ことを検討している大家さんもいらっしゃるかと思います。しかし、家賃を下げて入居者を募集するというのは最終手段であり、安定した収益を確保するためには、好ましい策とは言えません。

そこで、賃貸経営においてもマーケティングの観点から入居者募集を行うことが重要となってきます。具体的には、競合の少ないジャンルにターゲットを絞って、入居希望者を囲い込むことです。その中の1つとして「楽器可物件」への変更があります。楽器可物件にニーズや、空室対策として有効なのかについて詳しく説明していきます。

1.一定のニーズは期待できる

文部科学省の「学校基本調査(2023年度)」によると、大学の音楽系学科に所属する学生数は15,323人。また、総務省の「社会生活基本調査(2021年)」では、週1日以上趣味で楽器の演奏をする人は全国で383万人という統計結果が出ています。子どもの習い事でも「ピアノ」は定番の1つですし、楽器演奏を趣味やライフワークにしている人は意外と多いということがわかります。

そして、これらはあくまでも実際に楽器を演奏している、演奏できる環境にある人たちの回答であり、潜在的に楽器を演奏したいと考えている人を含めると、さらに需要は多いと考えられます。

2.周辺相場より高い家賃が期待できる

楽器可という条件を備えていることで、一般的な賃貸住宅よりも家賃を高めに設定することが可能です。実際はどうなのか、武蔵野音楽大学や日本大学芸術学部が位置する練馬区の「1K」と「1K・楽器相談可」物件で家賃相場がどれだけ違うのか、比較してみましょう。
一般的な1K物件の家賃相場は6.86万円。楽器相談可の1Kは7.27万円という結果になりました。差は約4000円。さほど大きな差ではありませんが、”楽器可”の条件を付けることで相場より高い家賃設定が可能になるということがわかります。なお、子どもを音大へ通わせているご家庭では、本格的に音楽を勉強させるには費用がかかることを心得ているので、家賃が少々高めでもさほど問題にはならないことが多いようです。
※家賃相場は記事執筆時点

3.建築ハードルが高いため、競合が少ない

もう一度、先ほどの練馬区のデータを見てみましょう。
物件の数を見ると、一般的な1Kの物件が5,0件。それに対し、楽器相談可の1Kは126件。一般的な1Kの10分の1にも満たない件数です。楽器可物件が少ない理由として、本格的な防音設備を整えるためにはそれなりの初期投資が必要であることが挙げられます。

競合物件が少ないことからも、いかに楽器可物件の希少価値が高いかがわかります。

そもそも楽器可物件とは

明確な定義はありませんが、一般的には弦楽器や管楽器を演奏しても外部へ音が漏れない、あるいは漏れにくい防音性能を備えた建物のことを指している場合が多いです。

構造は木造、鉄骨造、鉄筋コンクリート造とさまざまで、とくに決まりはありません。ワンルームマンションの場合は住戸全体が防音仕様になっていることが多いですが、もう少し広めの物件になると、住戸の中に防音室を設けている物件もあります。

「楽器演奏可物件」と「楽器相談可物件」の違い

「楽器演奏可物件」とは、住戸全体が遮音構造になっているか、遮音性の高い防音室を設けた物件のことで、音大生など本格的に楽器を演奏する人が入居します。

対して「楽器相談可物件」とは遮音構造ではない一般的な構造の建物で、子どもがピアノを習っていて1日に1時間程度、あるいは週に2~3日はピアノの練習をするというご家庭や、趣味で時々楽器を演奏するという人をターゲットとしています。当然ながら、音は部屋の外へ漏れ出てしまうため、入居者はいつでも自由に楽器を演奏できるわけではなく、常識の範囲内での楽器使用を求められます。

そのため、「楽器相談可物件」では「楽器演奏可物件」に比べて、騒音による近隣トラブルが起きやすいので注意が必要です。

楽器可物件に適した条件とは

いくら「楽器可物件」の競合が少ないからといって、どんな立地でも成功するとは限りません。まずは、所有物件の立地が「楽器可物件」に適しているかどうかを、きちんと見極める必要があります。

ニーズが見込める立地か?

近隣に音大がある立地の場合、「楽器演奏可物件」としての物件の差別化はとても有効です。音大生は住居に楽器を持ち込み、毎日練習をするという生活スタイルのかたも多いでしょうから、多少コストをかけてでも建物の遮音性を高める価値はあるといえます。また、音楽教室が近くにある場合も需要が見込めます。

それから、幹線道路の近くなど、元から騒音のある立地に物件を所有されている場合でしたら、多少の音漏れでは近隣トラブルに発展しにくいため、「楽器相談可物件」への変更も検討できるでしょう。騒音対策をかねて防音リフォームをすれば、より効果的です。

周辺と比較し高い家賃が見込めるか?

趣味で楽器を演奏する人の中にも「楽器可物件」を選択する人はいるでしょう。需要に対して供給の少ない「楽器可物件」ですから、どのような立地であってもある程度のニーズはあるのです。

しかし、問題は遮音性能が高いほど家賃も高額になることです。音大生やプロの音楽家であれば、少々家賃が高くても「必要経費」と割り切るかもしれませんが、趣味の楽器演奏のために相場より1~2万円も高い家賃を支払う入居者を募集できそうか、慎重に見極めるようにしてください。

このように、遮音構造やある程度の防音措置を施した物件の場合、音大の近くなど高い家賃でも需要が見込める立地であることが重要です。

基本的な空室対策は行っている前提

「楽器可物件」の希少価値が高いといっても、一般的な空室対策を怠っていいということではありません。むしろ、日常的な共用部分の清掃やメンテナンス、退去後のクリーニングなど、家賃が高額な物件ほど印象をアップするための適切な管理が求められます。

まずは、管理業務や空室対策が適切にできているかどうかを見直して、そのうえでさらなる差別化を目指すという方は、「楽器可物件」への変更を検討されるとよいでしょう。

楽器可物件にするための検討ステップ

現在ある物件を「楽器可物件」とするためには、どのような措置が必要なのでしょうか。比較的対策しやすい方法から順にご紹介します。

1.楽器を相談可にする

立地条件を考慮し、多少の騒音があってもトラブルに発展しにくいと考えられるのであれば、契約条件を「楽器相談可」に緩和します。

ここで問題となるのは、既存の入居者対応です。楽器の演奏時間を決めて、常識的な範囲での演奏に限定することなどをきちんと説明し、あらかじめ理解を得る必要があるでしょう。

2.防音や床のリフォームを行う

周辺相場よりも極端に高い家賃を見込めない立地の場合には、音が響きにくくするための簡単な吸音対策を行います。床材の下に遮音マットを張る、壁仕上げの下に遮音シートや吸音材を入れる。

それだけの簡易な防音リフォームであれば1部屋50~60万円程度。内窓は5~15万円程度で設置できます。カーペット敷きや防音効果のあるクロス、ガラス窓に貼る防音シートで対応すれば、効果は半減するものの、コストも半分に抑えることができます。

このような簡易的なものから本格的な遮音対策まで、すべてを総称して「防音」と言います。

3.リノベーションや建て替えを行う

需要が見込める立地であれば、リノベーションや建て替えで本格的な「楽器演奏可物件」として一新することも検討できるでしょう。音大生やプロの演奏家などをターゲットにするのであれば、家賃も大幅なアップを見込めます。遮音構造とは遮音材料を用いて音を完全に遮る構造のことで、等級に応じて遮音性能の水準が設定されています。

ピアノやバイオリンなど弦楽器や管楽器を対象とした防音室をつくる場合、時間帯を定めて演奏可とするのであれば6畳1室で200万円程度。深夜でも音の漏れない構造とするのであれば、さらに50万円ほどのコスト増となります。

大切なことは費用対効果とトラブル対策の確認

「本格的な防音リフォームしたのはいいけれど、周辺相場からかけ離れた家賃設定にしたら誰も入居してくれない」ということのないよう、どの程度の防音対策を施すかは、立地条件なども考慮して行う必要があります。

費用対効果を調べる

適正な家賃を設定したうえで、工事費にどれだけ予算をかけることができるか、キャッシュフローを見直し、きちんと収支計画を立てて検討します。騒音トラブルの可能性や、トラブルが起きた場合の対応も事前に管理会社に相談するなど細かく確認と検討をしておきましょう。

騒音トラブルに注意する

簡易な防音リフォームをして「楽器相談可物件」に変更した場合、それを理解したうえで入居した人ばかりならよいのですが、既存の入居者にとっては聞こえてくる楽器の音が大きなストレスとなることもあるでしょう。そこから近隣トラブルに発展したり、大家さんへのクレームが増加したりというリスクも考えられますから、「楽器相談可物件」への変更は慎重に行ってください。

また、遮音構造の「楽器演奏可」物件であっても、24時間演奏可能なハイグレードな防音室でない限り、深夜の音漏れによるトラブルが考えられます。入居者に、演奏時間の厳守と物件の遮音について事前に説明し、にトラブルを未然に防ぐようにしましょう。

賃貸借契約書の特約事項をしっかり設定する

このような騒音トラブルを回避するためには、賃貸借契約書の特約事項や利用規約の中で、きちんとルールを定めておくことです。

たとえば、

・弦楽器、管楽器、声楽は可、打楽器やアンプにつなぐ必要のある楽器は不可。
・アップライトピアノは可、グランドピアノは不可。
・演奏時間は9:00~20:00の時間内に限る。

という具合に、演奏可能な楽器や演奏時間を細かく定めておくことで、大きなトラブルを防ぐことができます。

まとめ

需要に対して供給の少ない「楽器可物件」。供給が少ないのは、本格的な防音工事に費用がかかることと、近隣トラブルにつながるおそれがあることが主な理由です。しかし、費用対効果を考えて収支に見合った工事を行うことで「楽器可物件」へのハードルはかなり低くなりますし、契約事項や規約できちんとルールを定めておくことである程度のトラブルも回避できます。

まずは、立地条件を改めて見直し、「楽器可物件」の需要があるかどうかを調査してみてください。需要と家賃アップが見込めるようであれば、「楽器可物件」への変更は空室対策として大きな効果を発揮してくれるでしょう。

需要が見込める立地であれば
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いしわた さとみ
いしわた さとみ

宅地建物取引士/二級建築士/既存住宅状況調査技術者/ホームステージャー

建築設計事務所、不動産会社、建設会社等での勤務を経て、現在は不動産・住宅・建設ライター、住宅営業、建設CADオペレーターとして活動。

●紹介されている情報は執筆当時のものであり、掲載後の法改正などにより内容が変更される場合があります。情報の正確性・最新性・完全性についてはご自身でご確認ください。
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