トラブルは絶対に避けたい!家賃値上げ交渉のポイントをご紹介します

2024.08.21更新

この記事の監修者

キムラ ミキ
キムラ ミキ

AFP/社会福祉士/宅地建物取引士/金融広報アドバイザー

トラブルは絶対に避けたい!家賃値上げ交渉のポイントをご紹介します

家賃の値上げを検討している大家さんに、入居者へ交渉する際のポイントと値上げができる条件などの情報も合わせてお伝えします。

目次

家賃は値上げすることができる?

エリアにもよりますが、近年の地価上昇傾向に伴って、家賃値上げを希望する大家さんの声が聞こえるようになりました。実際、総務省によると、借家の1か月あたり家賃・間代は2018年で55,675円となっており、2013年と比較すると3%上昇しています。

家賃は簡単に上げられるものではありませんが、正当な理由があれば上げることはできます。ただし、適切な家賃設定でなければ、キャッシュフローに悪影響を及ぼす可能性も否めません。また、交渉を誤るとトラブルに発展する可能性もあるので、家賃の値上げは慎重に進めていく必要があります。

家賃の値上げにはリスクもある

家賃を値上げすることで、大家さんは収益が増えることになります。しかし、以下のように、家賃値上げによるリスクもあります。

入居者が出ていくリスク

例え、正当な理由があったとしても、賃貸借契約時に提示された家賃だから入居していたのに、値上げされたら生活に支障がでると考える入居者もいます。家賃値上げに伴い、既存入居者が退去する可能性は否定できません。

キャッシュフローの悪化

既存入居者が退去することにより、空室が生じて、賃料収入が得られず、キャッシュフローが悪化するリスクがあります。

家賃を値上げすることができる条件

家賃を値上げするためには、正当な理由が必要となります。この正当な理由にあたる要件は、借地借家法第32条1項にて、次のように規定されています。

建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。

この内容を分かりやすくすると、以下のような要件が正当な理由となります。

固定資産税等の税金が増額となった

固定資産税評価額は、3年ごとに見直しされます。地価上昇に伴って、固定資産税評価額が上がれば、固定資産税等の税金は増額します。固定資産税等の税金増額が、当初の事業計画と照らし合わせて、著しくキャッシュフローに影響を及ぼす場合、家賃値上げを求めることができる正当な理由となります。

家賃の相場が上昇した

新しい商業施設の建設、新駅の開発等に伴って、賃貸物件が所在するエリア人気が上昇すると、家賃相場が上昇する可能性もあります。その結果、家賃が「近傍同種の建物の借賃に比較して不相当」となった場合、家賃値上げを求めることができる正当な理由となります。

家賃が相場を下回っていた

周辺の家賃相場を今一度確認してみたところ、事業計画を作成する際に設定した家賃が、相場を下回っていたということもあり得るかもしれません。そのため、家賃が「近傍同種の建物の借賃に比較して不相当」といえるのであれば、家賃値上げを求めることができる正当な理由となります。

入居者と大家さんの合意に基づくのが原則

正当な理由があれば、家賃の値上げは大家さんに認められているとはいえ、入居者からすれば、家賃の値上げは迷惑な話です。また、家賃の値上げは、大家さんが一方的に行えるものではなく、入居者の合意も必要です。家賃の値上げを考えるのであれば、入居者の合意が得られるように、交渉していく必要があります。

入居者への家賃値上げ交渉のポイント

家賃値上げ交渉に先立って、通知を送付することになります。その際、入居者の合意をスムーズに得るためには、どのようなポイントに留意しておく必要があるかを考えてみましょう。

家賃値上げの理由を明確に説明する

家賃の値上げを入居者に通知する際、通知書には以下のような内容を記載する必要があります。

・賃貸物件の所在地
・現在家賃金額
・家賃値上げの理由
・値上げ後の家賃金額

先にも述べたように、家賃の値上げには正当な理由が必要となります。入居者に家賃の値上げに納得してもらうためには、家賃値上げの理由を明確に説明する必要があります。当然ながら、通知書だけでは納得してもらえない可能性もありますので、実際に対面で交渉する際には根拠も準備しておきましょう。

入居者に有益な条件をつける

家賃の値上げは、入居者にとって迷惑な話ではあるものの、退去して別の物件に住む場合、入居時の初期費用などがかかることになります。また、大家さんとしても空室が生じることになれば、家賃収入を得ることができなくなり、キャッシュフローに悪影響を及ぼすことになります。

通知書で、家賃の値上げに対する正当な理由を伝えるだけではなく、家賃の値上げが入居者と大家さんの双方にとって有益となるように、入居者に有益な条件をつけることも検討しておきましょう。

入居者に有益な条件の例として、次回更新料をなくすことなどが挙げられます。更新料は入居者にとって大きな出費です。以下の例では、月額家賃に換算すれば差額は7,000円ほどの差ですが、更新時の一時金としての出費が抑えられるのは、入居者にとって大きなメリットです。

家賃(2年契約)5万円6万円(更新料不要)
2年間の家賃総額120万円144万円
更新料5万円0円
総額125万円144万円
1か月あたり家賃換算5.3万円6万円

入居者への通知は早めに行う

家賃値上げにあたって、入居者にも考える時間が必要です。そのため入居への通知は早めに行いましょう。

家賃値上げの通知時期に制限はありませんが、更新時期に合わせるのは大家さんに不利な状況となる可能性もあります。

借地借家法は、「建物の賃借人に不利なものは無効とする」という規定もあるように、賃借人保護の観点に立っている法律です。大家さんからの更新の拒絶は、大家さんがその貸家にしか住む場所がないなど、正当な理由があると認められなければなりません。

また、家賃値上げは入居者と大家さん双方の同意があって初めて成り立つものです。家賃値上げの通知を契約期間満了の一定期間前に行ったとしても、入居者が家賃値上げに納得せずに、値上げ前の家賃を支払いながら(あるいは供託しながら)、契約期間を超えて住み続けるというケースも少なくありません。

最悪の場合、訴訟に至りますが、裁判で大家さん側の異議が認められない場合、今までの契約と同一の条件で契約を更新したものとみなされ、さらに契約期間は、定めがないものとされてしまうこともあります。

このようなトラブルを避けるためには、既存入居者への賃料値上げ交渉はせず、既存入居者の退去のタイミングで値上げした賃料で、新規入居者を募集するという方法も一案でしょう。

まとめ

家賃の値上げは、大家さんにとってはメリットが大きいといえますが、入居者にとってはデメリットの方が大きいでしょう。賃貸経営を安定して継続していくためには、入居者に長く住んでもらうことも大きなポイントです。数ある賃貸物件の中から、大家さんが所有する賃貸物件を選び、入居してもらっていることへの感謝を忘れず、入居者への家賃の値上げ交渉を慎重に進めていきたいものですね。

この記事の監修者

キムラ ミキ
キムラ ミキ

AFP/社会福祉士/宅地建物取引士/金融広報アドバイザー

日本社会事業大学 社会福祉学部にて福祉行政を学ぶ。大学在学中にAFP(ファイナンシャルプランナー)、社会福祉士を取得。大学卒業後、アメリカンファミリー保険会社での保険営業を経て、(マンションデベロッパー)にてマンション営業、マンション営業企画に携わった。その後、2008年8月より独立し、現在、自社の代表を務める。

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