賃貸経営続ける?売却する?親から相続した古いアパートの賢い活用法

2024.07.24更新

この記事の監修者

髙野 友樹
髙野 友樹

公認 不動産コンサルティングマスター/相続対策専門士/宅地建物取引士など

賃貸経営続ける?売却する?親から相続した古いアパートの賢い活用法

古いアパートの賃貸経営は中々難しいもの。築古アパートを相続した方を対象に、賃貸経営の継続方法や売却についてご説明します。

目次

古いアパートを相続したら

親や親族が経営しているアパートを相続した場合、行う手続きは複数あります。まず行うのは、アパートの名義変更です。この名義変更は法務局で行います。

次に、被相続人にアパート収入があった場合は確定申告の必要があるため、その準備も相続人が行います。この申告のことを「準確定申告」と呼びます。

また、相続人の財産を明らかにした上で、相続税の申告も行わなければなければなりません。このように、アパートを相続すると相続人がやらなくてはならないことが非常に多くあります。

築古アパートの経営は難しい

アパートを相続すると、その時点で相続人はアパートの大家さんになります。被相続人亡き後、アパート経営をしていくことになりますが、実は築年数の経過したアパート経営は簡単なものではありません。

築年数が経過した不動産は、新しい物件と比較して修繕費用が多くかかる傾向があります。その中で、修理すべき箇所と、する必要のない箇所など、修理実行の判断自体も大家さんがしなくてはなりません。

また、築古アパートは空室リスクが高いことや、家賃下落リスクも高いこともあり、初めてアパート経営をする人にとっては、ややハードルが高い賃貸経営と言えるでしょう。

アパート経営を取り巻く現状

アパート経営は昔からある土地活用方法でした。親や祖父母の代からアパート経営をやっていたという人は多いですが、当時と今では状況が異なります。昔は、人口が増加傾向にある一方、アパートは少ない状況でした。

そのため、アパートを建てればすぐに入居が決まり、一度入った入居者はなかなか退去しない、というのが一般的でした。しかし、今は人口減少により入居者自体が減っています。

さらに、シェアハウスなど新しい住まいの形も登場し、ただアパートを所有しているだけでは入居者が入りにくい状況となりました。

相続したアパートの状態をチェックしよう

アパートを相続したら、まず初めに物件の状態をチェックしましょう。詳細に把握しないことには、これから発生する費用の予測ができず、正しい賃貸経営計画が立てられません。ここでは、建物、収益、入居者ごとにチェックポイントを説明していきます。

建物について

建物については、下記の内容を確認してください。

□築年数

築年数については、新築からどれほど年数が経過しているのかチェックします。登記簿謄本に新築年月日が記載されているのでそちらから確認します。

□修繕状況

修繕状況は、外側と内側をそれぞれチェックします。外側は、外壁塗装や屋上防水、駐車場の舗装など。内側は、リフォーム履歴などをチェックします。

アパートは築年数の経過や入居者の使用状況によって、定期的な工事が必要になります。これらを把握しておかないと、物件保有期間中に数百万円から数千万円単位で工事費用が発生してしまうこともあります。

□耐火・耐震性

アパートの多くは、木造や軽量鉄骨造で作られています。そのため、物件の耐火および耐震性をチェックする必要があります。とくに、最近では地震などの災害が多く、入居者の災害リスクへの心配は高まっています。

そのため、物件が火災や揺れに対して、どのような対策をとってきたのかを確認することは非常に重要です。

□設備の老朽度

室内の設備が老朽化していると、入居者から選ばれにくくなってしまいます。室内で使用している設備が何年ごろに導入されたものなのか、残りの使用期限も事前にチェックしておきましょう。

□虫対策

家の虫対策も重要です。とくに木造アパートは、シロアリの被害を受けやすいです。もしもシロアリが発生して建物に被害が出たら、大家さんの費用負担で改善しなければならないため、突発的な支出となります。シロアリが自然発生であれば、駆除自体も大家さんの義務となります。

収益について

収益については、下記の内容をチェックしてください。

□空室率

現状の空室率と、直近1年程度の空き状況を確認しましょう。平均で入居率が8割以下であれば、入居促進に向けて何か大きな対策をとる必要があります。

□ローンの有無

被相続人がローンを残して死亡した場合は、残債額と残りの返済期間を確認しましょう。基本的に残債は相続人が支払っていくことになるので、現在の家賃収入と比較し、安定して返済が行える状態か確認しましょう。

□家賃滞納の有無

入居者の中に家賃を滞納している人がいる場合があるので、これまでの支払い状況を確認してください。滞納がある場合は、部屋ごとの滞納期間、合計金額、督促状況を確認します。また、契約書を見て、連帯保証人や保証会社加入の有無も同時に確認しましょう。

□キャッシュフロー

キャッシュフローとは、賃貸経営における収支の動きです。月、年単位で、収入と支出のバランスを確認してみましょう。一見、アパートの入居率が良いように見えても、実は修繕費用や管理費用によって、年単位のキャッシュフローが悪くなっているケースもあるので要注意です。

入居者や立地環境について

入居者や立地環境ついては、下記の内容をチェックしてください。

□入居者トラブル

築年数の経過しているアパートだと、長期入居者や高齢入居者がいる場合があります。長く住んでいるがゆえに、近隣住民とトラブルを起こしてしまっているケースも珍しくありません。また、高齢の入居者であれば孤独死のリスクもありますので、住んでいる人の状況も事前に確認しましょう。

□競合調査

今後アパートに空室が出た時のために、近隣で競合になりそうな物件を調査します。近隣物件の築年数、室内の設備、デザイン性などを比較し、差別化ができそうな項目を把握しておきましょう。

□周辺環境

築古のアパートは建築時と、周辺の環境が変わっています。とくに、駅やインターチェンジ、商業施設や公共施設などの有無は、アパートの入居状況に大きく影響します。

アパート経営を継続するか、売却するか

アパートを相続した際には、そのまま継続して経営を続けることもできます。しかし、1人ひとり状況が異なり、遠方にいてアパート経営ができない人もいれば、そもそもアパート経営をしたくないという人もいるでしょう。

そのため、ここではアパートを相続した際にとれる手段を複数紹介していきます。

アパート経営を継続するなら

以前からアパート経営に興味があった、またはこの機会に挑戦してみようと思う方は、アパート経営を継続することをおすすめします。ただし、相続時にはアパートの状況をしっかり把握して、その内容に沿った行動をしなくてはなりません。

とくに老朽化したアパートはさまざまな面で築浅の物件よりも手間がかかるからです。ではアパート経営を継続する場合には、具体的にどんな行動を実施すればよいのでしょう。

管理会社や管理形態を見直す

アパートの管理方法は大きく2つあります。管理会社への委託管理と、自分で行う自主管理です。ほかに仕事をしておらず専業になれる方は自主管理も検討できますが、普段は別のことをしている人は、管理は管理会社に委託するのが賢明です。

また、すでに管理を委託しているものの、入居状況が悪いという場合は、管理会社の変更も検討するべきでしょう。また、サブリースを扱っている会社であれば、収入は若干減りますが、管理の手間が省け安定的な収入が得ることができます。

リフォーム・リノベーションする

築古の物件、とくに木造で20年から30年ほど経過している物件だと、何も対策をしないと物件の需要が減り、空室が増加する可能性が高くなります。そのような場合は、室内をリフォーム・リノベーションして入居者のニーズに合った仕様に変更するのも得策です。

ただし、大きな工事をするとその分工事費用も高額になります。投資した工事額に見合った効果が得られるのかどうかは、事前にシミュレーションする必要があるでしょう。

建て替える

アパートで築年数が30年から40年を超える場合は、建て替えを検討しても良いでしょう。ただし、建て替えの場合は、そもそも賃貸ニーズがあるエリアなのかどうかは確認しなくてはいけません。

また、建て替えには数千万以上の費用が必要になるので、資金面では綿密なシミュレーションが必要です。さらに、既存入居者がいる場合は立ち退きの問題も生じますので注意してください。

更地にして土地活用するという方法も

建て替えてアパートを建て直すのには、数千万円の初期投資が必要になり、時間と労力がかかります。そのため、もっと手軽に始めたいという人はいったん更地にして、駐車場やトランクルーム(貸し倉庫)などへの活用もおすすめです。

場所にもよりますが、都心部なら駐車場やトランクルームの需要も十分見込めます。低額な初期投資で、安定した収入を確保できる可能性があります。

アパートを売却するなら

「そもそもアパート経営自体に興味がない」というかたは、アパートの売却も検討してみましょう。売却すれば、すぐに現金化できるので、賃貸経営を行う必要はありません。

ただし、築古のアパートだと、建物の耐用年数を超過しているケースが多く、銀行の融資がつきにくいというデメリットもあります。そうなると、購入希望者が物件購入資金の融資が受けられず、売却しにくくなる可能性もあるのです。ここでは、アパートの売却方法や注意点を解説していきます。

収益物件として売却する

アパートは実需利用とは異なり、収益物件としての売却となります。そのため、購入者は物件の収益性を最重要視します。高く売却するためには、入居状況を改善し、高い利回り感をアピールする必要があります。

相場の利回り感は、築年数とエリアによって大きく異なりますので、まずは不動産会社に相談してみましょう。売却時は、登記簿謄本や建築図書などの必要書類を用意し不動産会社と媒介契約を締結、無事に購入者が見つかり契約となったら、物件の引き渡しと売買代金の決済となります。

収益物件として売却は利回りがよければ高く売れますし、何より現状のまま手放せるので手間がかからないのがメリットです。

売り時は要検討!

相続したアパートを売却する際は、売り時にも注意が必要です。なぜなら、相続後すぐにアパートを売却すると、相続税を軽減するための租税回避行為として税務署から指摘されてしまう可能性があるからです。

アパートの相続は、現金や更地の相続に比べて相続税の軽減措置があるので、本来売却予定だった物件を、納税から免れるために計画的に軽減措置だけ利用したと思われてしまう可能性があります。

また、不動産を売却して利益が出ると、不動産譲渡所得税という税金が課税されるため注意が必要です。この不動産所得税は、物件所有期間が5年以下か以上かによって、税率が変動します。

一方、5年を超えると長期所有となり、税金が下がります。この所有期間は、相続が発生してからの期間ではなく、被相続人が不動産を取得した日が基準となります。

以上をまとめると、被相続人が物件を取得してから最低5年、そして相続発生から4年程度経ってから売却するのが、税金面では適したタイミングといえるでしょう。

更地にして売却する

アパートの空室が多くて利回りが低いと、収益的な価値が低く投資物件として売却できない可能性もあります。そのような場合は、更地として売却することも視野に入れてみましょう。更地にすれば、購入者の利用方法の幅が広がるため、投資家以外で実需利用の方も購入検討が可能となります。

ただし、更地にするためには解体費用がかかり、入居者がいる場合は立ち退きのための費用や交渉に費やす時間も必要です。アパートとして売却するよりも手間がかかる点も理解しておきましょう。

まとめ

築年数の古いアパートを相続では、経営を続けるかどうかの判断基準は難しくなります。とくにアパート経営の経験がなく、しかも普段忙しい人にとっては、アパート経営自体が負担になってしまう可能性もあるでしょう。

しかし、賃貸経営についてしっかりと勉強して対策を練れば、アパート経営が初めてのかたでも収益物件として保有していくことは十分可能です。ご自身の置かれた状況とアパートの現在の状態をよく検討したうえで、賃貸経営を継続するか、タイミングを見て売却するか、適切に判断していくといいでしょう。

この記事の監修者

髙野 友樹
髙野 友樹

公認 不動産コンサルティングマスター/相続対策専門士/宅地建物取引士など

株式会社髙野不動産コンサルティング 代表取締役、株式会社アーキバンク 取締役 COO、一般社団法人グローバルイノベーションネットワーク協会 顧問。不動産会社にて600件以上の仲介、6,000戸の収益物件管理を経験した後、国内不動産ファンドでAM事業部のマネージャーとして従事。

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