不動産賃貸仲介のAD(広告料)とは?仲介手数料との違いや相場を解説します

2024.07.08更新

この記事の監修者

河野 陽炎
河野 陽炎

3級FP技能士

不動産賃貸仲介のAD(広告料)とは?仲介手数料との違いや相場を解説します

空室対策のためにADを検討している方、基礎知識や費用相場など、注意点も含めながらお伝えしていきます。

この記事のポイント
  • ADとは客付け業者に支払う広告費のこと。
  • ADの金額は時期や地域によって変動しやすいという特徴があります。
  • ADを催促する仲介会社には注意が必要です。
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目次

不動産仲介会社に支払うAD(広告料)とは?

ADとは「advertisement(アドヴァタイズメント)」の略称で、入居希望者を物件に案内したり、希望者からの申し込みを受けたりする客付け業者に支払う広告費のことを指します。通常、仲介会社には仲介手数料を支払いますが、この仲介手数料では補うことのできない特別な広告を行う場合にADが必要となります

ADと仲介手数料の違い

大家さんは、仲介業者に物件の仲介を依頼した際には仲介手数料を支払わなければなりません。仲介手数料は仲介業務そのものに対する手数料であり、宅地建物取引業法では、その金額は「家賃の1か月分」が上限であると定められています

なお、仲介手数料は、大家さんと借り主のどちらかから受け取るケースと大家さんと借り主の両方から受け取るケースなどがありますが、いずれの場合も「トータルで家賃の1か月分」が上限です。

一方、ADとはこの仲介手数料とはまったく別のもので、追加で行う広告に対して支払う金額になります。国土交通省は、「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額」の第九において、「ただし、依頼者の依頼によって行う広告の料金に相当する額について」は、仲介手数料とは別に受け取ってもかまわないことも定めており、この規定により受け取る金額がADと言われるものです。ADには法的な上限の定めがなく、仲介業者と大家さんの話し合いで決めることになります

ADを支払う前に確認すること

もし、ADを強硬に催促された場合は、トラブルを避けるためにも下記3点について確認した上で支払うようにしましょう。

・どのような広告活動を行うのか
・その活動が一般的なものでなく「特別」と考えられる理由は何か
・なぜそのような広告活動や費用が必要か

ADをつけるメリット

ここまで、ADの概要についてお伝えしてきました。ADは仲介手数料とは別で支払うものになるためADの支払いにより大家さんの負担が増え、キャッシュフローが悪化する可能性も否めません。しかし、ADにはメリットもあります。

仲介会社としては、入居希望者がADのある物件を契約した場合、物件の仲介手数料とは別に大家さんからADを受け取ることができるため利益が上がりやすく、ADなしの物件に比べて客付け活動を熱心に行う傾向にあるのが特徴です。

客付け活動を熱心に行うことで入居者への紹介頻度も上がり、物件の成約率が上がりやすくなる点はADをつけるメリットと言えます。

ADの相場

このように、メリットもデメリットもあるADですが、どのくらいの金額を支払うのが一般的なのでしょうか。ADには法律的な上限の定めはなく、時期や地域によって変動しやすい特徴があります。たとえば、就職や進学、転勤などで人の動きが激しく、賃貸ニーズが高い季節(1~3月頃)はADを設定しなくても空室が埋まりやすいため、この時期はADの相場も低く、ADを設定しない物件がほとんどです

逆に、人の動きが少なく空室が埋まりにくい時期は、ADの相場も上昇し、多くの場合は家賃の1~2か月分を設定します。人口の流入が多い都市部と、流出が激しい郊外では、前者のほうが入居者は決まりやすく後者は決まりにくいです。

そのため、ADの相場も都市部では安く、郊外では高めの傾向にあります。郊外の物件のほうが都市部に比べて家賃も安いため、仲介業者が受け取る仲介手数料も安く、ADを設定するかしないかで、仲介業者の熱意も変わる可能性があります

ADを催促する仲介会社には要注意

先ほどもお伝えした「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額」によると、依頼者の依頼によって行う広告の料金に相当する額については受け取ることができるとされています。

とはいえ、一般的な広告費や販売活動にかかる費用は、仲介手数料に含まれるとされています。依頼者が特別に広告をして欲しいと依頼した場合について、仲介会社はADを受け取ってもいいという位置づけです。

入居者がなかなか現れず空室が続くと、家賃収入が得られないまま固定資産税やメンテナンス費用だけがかかるので、ADをつけてでも早く入居者を探してもらうほうがいい場合があります。しかし、多額のADを負担しなくても入居者が決まりやすい時期やエリアで、やたらとADを催促する以下のような仲介業者には注意が必要です

・必要のないADを支払わせ、儲けることだけを考えている
・ADの一部を自社の懐に入れるような約束を客付け業者とかわしている
・営業担当者が個人の懐にADを入れようとしている

本当にADが必要な物件かを検討し、仲介会社からも納得のいく説明を受けた上でADを設定するか決めましょう

ADケーススタディ

ADをつけることにはメリットもありますが、賃貸経営にかかわる支出が増えるということでもあります。ADをつけるべきケースとはどのような場合でしょうか?また、ADをつけずに他の方法を検討したほうがいいのは、どのようなケースでしょうか?

ケース1 郊外などADをつけるのが当たり前の地域

都市部に比べて、郊外では賃貸ニーズが少なく、客付け業者に熱心になってもらわなければ空室が埋まらない時代です。多くの大家さんがADを設定しているエリアでADをつけない選択をすると、客付け業者はほかの物件を優先します。ライバル物件の多くがADをつけていると予想されるなら、自身の物件にもADはつけたほうがいいでしょう

ケース2 2か月以上も内見者がいない場合

内見者がいない物件は、客付け業者が熱心になっていない物件なのかもしれません。2か月以上経っても内見者がない場合は、それまでつけていなかったADをつけたり、ADを上乗せしたりして状況が変わるかを見極めましょう

内見者がいない理由として、家賃が高すぎる、立地条件が悪すぎるといった要因も考えられます。立地条件は変更することができませんが、家賃を下げる方法でも内見者が現れる場合はあります。

1か月の家賃を5,000円下げた場合、入居者が現れてから契約更新までの2年間で家賃収入は12万円のマイナスになります。いっぽう、家賃7万円の物件で、ADを家賃の1か月分とすれば7万円、2か月とすれば14万円の支出です。

将来の家賃収入は下がるけれど、特別な支出をせず現金を手元に置いておくほうがいいか?手元の現金をADとして支出し、後に家賃として回収するほうがいいか?資金繰りの方法を考えながらADを設定しましょう

ケース3 人の動きが大きく賃貸ニーズが高まっている時期

1~3月頃は、入学・入社・転勤などのさまざまな事情で賃貸ニーズが高まる時期です。この時期は、ADを付けなかったり、ADの金額を低く設定したりしても客付けがうまくいく場合が多いです。特に、都市部や学生街などに位置していて、ニーズの高まりが期待される物件ならADをつけなくてもいいでしょう。

ニーズが高い時期にもかかわらず、空室のままになってしまうなら、ADではなく物件そのものに空室の原因があるのかもしれません

ケース4 入居者ニーズに合うリフォームで空室率が改善できる場合

物件の情報を見て内覧を希望する人はいるのに、なかなか入居してくれる人がいない。このような場合、物件の設備や共有スペースなどに問題があって敬遠されている可能性があります。ADをつけても設備などが改善されない限り、同じ状況が続くでしょう

まず、修復すべき箇所は修復し、入居者ターゲットに合う設備に入れ替えるなどのリフォームをしましょう。リフォームで物件の快適性が上がれば入居率アップが期待でき、さらに、長期的に住み続ける入居者も増え、安定経営が期待できます。

ADをつける際の注意点

ADをつけることの目的は、空室率を改善することにあります。そして、空室率を改善するのは収益を上げるためです。この目的を忘れてしまうと、「どのくらいADをつけるべきか」「AD以外にやるべきことはないのか」を見誤ることになります。

ADをつけるタイミング

そもそもADをつけるべきかは、次の条件により変わります。

・賃貸の閑散期、繁忙期のいずれか?
・物件が都市部にあるか、郊外にあるか?
・内見を希望する人がいるか、いないか?

当初設定したADでなかなか内見希望者が現れず、空室が続いているという場合は、ADを家賃0.5~1か月分ほど上乗せして様子を見る方法もあります。ただし、内見する人はいるのに契約する人が少ない場合は、物件そのものに何らかの問題があると考え、清掃やリフォームなどに力を注ぐのが先決です。

ADを増やして2~3か月以上が経っても空室が続いている場合は、そもそも家賃設定に無理があったり、賃貸ニーズのないエリアの物件だったりするという可能性があります。ADを上乗せするよりも、家賃や敷金・礼金を見直すなど、他の条件を見直しましょう

支払う金額

多額のADをつけて空室を埋めることができたとしても、投資したAD分の回収がままならなければ、賃貸経営の収益はマイナスとなります。これまでの空室実績を振り返り、ADをつけずに入居者募集を続けた場合の空室期間を予想してください。

たとえば、ADなしで2か月の空室期間が予想される部屋なら、ADを2か月分程度で設定し、早くに入居者が見つかれば収益をプラスとすることができます

ADの支払先

ADは本来、客付け業者に支払われるものですが、大家さんが客付け業者に直接支払いをするのではなく、管理会社を通して支払う場合もあります。その場合は、ADがきちんと客付け業者に支払われているかどうか確認しましょう

中には、大家さんが支払った家賃2か月分のADを、「管理会社が1か月分、客付け業者が1か月分」のような形でとっている場合があるかもしれません。

このような事態になれば、大家さんが期待する客付け会社のモチベーションと、客付け業者の活動の差異が大きくなるかもしれませんので、ADがきちんと客付け業者に支払われているか確認しましょう

空室対策にはADのほかフリーレントも検討しよう

ADは入居者をできるだけ早く確保し空室を埋めるための有効な方法ですが、フリーレントもまた空室を埋めるための有効な方法の1つです。フリーレントを使うことでほかの物件との差別化を図ることができ、入居者へのアピール材料にすることも可能になります

なお、ADは仲介会社に対する支出ですが、フリーレントは入居者に対する支出です。誰に対しどのように費用を使うか、また、それぞれのメリット・デメリットを比較しながら空室対策の方法を検討するようにしましょう。迷う場合は不動産会社に相談するのも一案です

よくある質問

ここでは、空室対策に関するよくある質問をご紹介いたします。
空室対策にはどのような方法がある?
空室対策には入居条件を緩和したり、賃料を見直したりなどの方法があります。ただし、一度下げた賃料を再度上げることは簡単ではないため、賃料改定は慎重に行うことが必要です。なお、賃料を下げたくない場合はフリーレントの採用を検討してもよいでしょう。詳しくは、空室対策の記事を参照ください。
戸建て賃貸の空室対策とは?
戸建てならではの空室対策として庭の清掃があげられます。独立した庭を持つことができるのは戸建て賃貸ならではのポイントです。内覧時に庭でどのようなことができるのかが想像できるように庭の状態を整えておきましょう。庭の状態が入居の決め手となることもあります。詳しくは、戸建て賃貸の空室対策の記事を参照ください。
単身者向け物件で活かせる空室対策のアイデアは?
どの世代の、どのような入居者をターゲットに空室対策を行っていくか、また、各世代でどのようなニーズがあるのかを考えながら空室対策を行っていくことがポイントです。たとえば、大学生がターゲットの場合は快適なネット環境の設備を整えることなどがあげられます。詳しくは、単身者向け空室対策の記事を参照ください。

まとめ

客付け業者にADを支払うことで入居者が早く決まり空室率改善につながる可能性がありますが、賃貸ニーズが高い地域や人の動きが激しい時期などは、ADの必要性は低いでしょう。物件の設備や立地条件などに問題があり、ADをつけただけでは空室率が改善しないことも考えられます。また、高額すぎるADを設定すると空室が埋まってもAD分の支出を回収するのに時間がかかり、キャッシュフローに悪影響を及ぼしかねません。慎重に検討した上で、ADをつけて入居者募集を行うことをおすすめします。

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この記事の監修者

河野 陽炎
河野 陽炎

3級FP技能士

3級FP技能士資格を持つライター、コラムニストとして、生命保険や医療保険、金融、経済などの執筆実績が多い。次々と発売される商品や、改正の相次ぐ税制、法律が1人の生活者にどう影響を与えるかの視点を大切にする。

●紹介されている情報は執筆当時のものであり、掲載後の法改正などにより内容が変更される場合があります。情報の正確性・最新性・完全性についてはご自身でご確認ください。
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