相次ぐアパートローン問題。“二重売買契約”の仕組みと問題点

2024.09.06更新

この記事の監修者

キムラ ミキ
キムラ ミキ

AFP/社会福祉士/宅地建物取引士/金融広報アドバイザー

相次ぐアパートローン問題。“二重売買契約”の仕組みと問題点

アパート経営を検討している方に、“二重契約”の仕組みと問題点にフォーカスしてご紹介します。

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目次

不動産を取り巻く環境で不正が多発している

テレビや新聞、さまざまなメディアで取り上げられていましたので、賃貸経営に関心のない人でも、シェアハウス業者の事件やアパート建築業者の問題について目や耳にされたという方もいらっしゃるかもしれません。それぞれの事件が、どのような事件で、どのような問題点を有しているかを整理しておきたいと思います。

ケース1.シェアハウス業者の事件

この事件は、シェアハウスの建築及び管理をする業者のサブリース事業が破たんしたことをきっかけに、明るみに出た事件です。

サブリースの仕組み

サブリースとは、サブリース会社が賃貸物件の所有者から賃貸物件を借り受けて、第三者に賃貸します。サブリース会社と入居者が賃貸借契約を締結し、賃貸物件の所有者は賃貸物件の空室の有無を問わず、サブリース会社から賃料を支払われることになります。

賃貸物件の所有者に支払われる賃料は、入居者がサブリース会社に支払う賃料より下回りますが、空室リスクを回避することができるというメリットもあるため、サブリース自体はさまざまな会社が行っている事業であり、特殊な事業ではありません。

それでは、なぜこのシェアハウス業者のサブリース事業が破たんし、事件に発展してしまったのでしょうか。それを理解するために、この業者の行っていたシェアハウスの概要について整理しておきたいと思います。

シェアハウスの概要

この業者が運営するシェアハウスは、女性専用のシェアハウス。一般的なワンルームマンションの半分程度の広さの個室には、テレビやベッド、冷蔵庫、ドレッサーなど、生活に必要な家具が備え付けてあります。トイレやシャワーブース、キッチンは共用になっており、シェアハウスによくある共用のリビングルームはありません。

このような条件で家賃は周辺のワンルームマンションとあまり変わらない設定になっていたようです。先ほど、サブリースの仕組みについて触れましたが、一般的なサブリースでは、賃貸物件の所有者に支払われる賃料は、入居者がサブリース会社に支払う賃料より下回ります。

しかし、この業者が行うサブリースでは、賃貸物件の所有者には、入居者から支払われた賃料を上回る賃料が支払われ、30年の賃料保証を謳っていました。なぜ、そのような仕組みが成り立つのでしょうか。

シェアハウス物件の仕組み

たとえば、8,000万円程度の価値しかない物件を、1億円程度の物件価格で販売すれば、2,000万円の利益を確保できます。その利益と入居者からの賃料を原資として、賃貸物件の所有者にサブリース賃料を支払っていたと言われています。しかし、これは新しく賃貸物件を立て続けなければ成立しない、いわば自転車操業と言わざるを得ない事業です。

この業者のシェアハウスの所有者の多くはサラリーマン大家さんでした。自己資金があまりなく、フルローンでのシェアハウス取得を考える人が多かったようですが、この業者が収入証明等の書類を偽装、改ざんすることで、実際の収入に見合わない自己資金を有しているように見せかけて融資を通していたこともあったようです。

ケース2.アパート建築業者の問題

アパートの施工、管理を手がけるアパート建築業者が、会社員の男性に新築の賃貸物件(建設費用1億円規模)を、自己資金がなくても賃貸経営を行うことができると紹介しました。その建設資金の借り入れ申請を行う際、このアパート建築業者が預金残高を改ざんしていたことが発覚した問題です。

会社員の預金残高は23万円でしたが、融資は承認されました。シェアハウス業者の事件を知っていた会社員が、銀行に提出された預金残高書類の提示を申し出たところ623万円に水増しされていたことに気づき、契約解除を行ったため融資は実行されませんでした。

トラブルの原因はいずれも不正融資?

シェアハウス業者の事件、アパート建築業者の問題の概要についてはご説明した通りですが、それぞれのトラブルの原因は、二重売買契約と書類の改ざんにありました

二重売買契約

賃貸物件の販売会社と賃貸物件の所有者との間で締結された契約とは別に契約書を作成し、実際の契約金額よりも高い金額で契約したことを示す契約書を金融機関に提示して融資審査を受けることで、高い金額の融資承認を得ていました。

書類の改ざん

書類の改ざんについては、各事件の概要説明の中でも触れましたが、自己資金を多く見せるために、賃貸物件の販売会社が通帳の残高を水増しするという書類改ざんを日常的に行っていたことが発覚しています。

不動産融資の環境も変化している

シェアハウス業者の事件以降、事態を重く見た金融庁の求めに従い、アパートローンなどの不動産投資のための融資について、審査が厳格化される傾向にあります。従来以上に、事業計画や個人の収入、資産状況が厳しく審査されることになることを知っておきましょう

そもそも二重売買契約とは

先ほど、今回の事件の原因の中でも簡単に触れましたが、そもそも二重売買契約とは何かをもう少し掘り下げて考えてみたいと思います。

二重売買契約の仕組み

金融機関は、賃貸物件に対する融資を行う上で、担保価値に対する融資割合を独自に設定しています。もちろん、実際の審査では担保価値以外にも収益力や借り入れ希望者の個人属性などさまざまな観点を見て、融資金額を決定します。簡易的に、担保価値に対する融資割合のみを取り上げて、二重売買の仕組みについて考えてみたいと思います。

多くの融資を引き出す二重売買契約

たとえば、担保価値に対する融資割合を6割に設定している金融機関があったとしましょう。販売価格8,000万円の賃貸物件売買契約を行い、その担保価値が8,000万円と金融機関が評価した場合、融資上限は4,800万円となりますので、8,000万円全てをアパートローンで資金調達することはできません。

しかし、もしも実際の契約書とは別に、金融機関に1億3,400万円で売買契約を締結した旨の契約書を提示し、担保価値が額面通りに評価されたら、8,000万円の融資を受けることができることになります。

このように二重売買とは、金融機関用の契約書と実際の契約書を2通作成し、金融機関に提出する契約書には実際の売買契約書に記載のある売買価格よりも高い金額を記載することによって、多くの融資を引き出す手法のことを言います

二重売買契約の問題点

二重売買には、どんな問題があるのでしょうか。

書類が偽造されている

そもそも、金融機関に提出された書類が偽造されていることが大きな問題です。偽造された契約書であることが金融機関に知れてしまったら、最悪の場合アパートローンの一括返済を求められる可能性も十分にあります

借入人の負担が大きくなる

先ほど例に挙げた金融機関では3,200万円の自己資金や賃貸物件以外の担保があるくらいの余裕を持った人に、4,800万円の融資を実行したいと考えているかもしれません。仮に、30年返済(全期間固定金利2%、元利均等返済)で4,800万円を借り入れすれば、毎月の返済額は177,417円。

しかし、二重売買契約によって8,000万円の借り入れを行うことになれば、毎月の返済額は295,695円となり、毎月の返済額は重くなります。その返済を行っていくことができるだけの収益力がある賃貸物件なのかも考えておく必要があるでしょう。

賃貸経営には、アパートローンの返済以外にも、日常の管理費用や税金などの支出が発生します。もしも、賃貸経営に行き詰まりを感じて、将来賃貸物件を手放すことが生じた場合、アパートローンの返済以外の費用負担が残っても、賃貸物件の売却費用からその費用を捻出することができない事態になりかねません。

トラブルに巻き込まれないために意識しておくこと

先述したシェアハウス業者のような不動産投資のトラブルに巻き込まれないようにするためには、どうしたらよいのでしょうか。

自身の資金力や属性を認識する

まずは、自分自身の資金力や属性を認識することが必要です。賃貸物件の販売会社からの勧誘で、「自己資金ゼロでも賃貸経営ができます」と言われることもあるかもしれません。しかし、勧誘時の言葉だけを鵜吞みにしないことが重要です。

空室が生じ、賃料収入が十分に入らない場合、どれくらいの費用を自己資金から捻出するべきか、それを捻出することができるのかを、自分自身で調べてみることが必要です。その際、不動産投資に明るい第三者に相談してみることも大切です。

収益のシミュレーションをする

賃貸経営は、その言葉の通り、事業の経営に他なりません。事業主として、周辺の家賃相場はどうか、どのような賃貸ニーズがあるか、マーケティングを自分自身で行い、提案されている賃貸物件の賃料設定で勝算があるかを自分自身でも確認してみることが必要です。

マーケティングと言っても大げさなことをする必要はありません。物件周辺の不動産会社を訪れて家賃相場や人気のある間取り、入居者属性の傾向など、ヒアリングをしてみるだけでも、いろんな情報を集めることができます

その上で、実際にどんな支出が発生するのかを把握して、必要経費を賃料収入の中で支払っていくことができるかどうかのシミュレーションを行ってみましょう。この際、空室が生じた場合のシミュレーション、サブリース活用を考えている場合にはそのシミュレーションも合わせて行います。

契約書などの書類は慎重に確認する

アパート建築業者の問題において、会社員男性が金融機関に提出された書類を確認したように、売買契約書だけでなく、アパートローンの契約書である金銭貸借契約書など、書類の確認は人任せにせず、自分でも納得いくまで慎重に確認をしましょう

事前に備えていればトラブルは避けられる

トラブルに巻き込まれないためには、自分自身で慎重にひとつひとつ確認する手間を惜しまないということが重要です。結果論と言われるかもしれませんし、勧誘が巧みであったかもしれませんが、かぼちゃの馬車事件においても、一般的なサブリースの知識があれば、疑義を感じることはできたはずです。

また、金銭貸借契約を締結する際にも、どんな事項が書いてあるのかを事前に調べていたり、二重売買契約が違法であることが分かったりしていれば、契約前にトラブル回避ができたはずです。全て、目先の利益に飛びつき、確認の手間を惜しんだ結果と言わざるを得ません。

まとめ

賃貸経営は、金の成る木ではありません。賃貸物件の利用者満足向上のためにどんな工夫が必要かを考えながら、綿密な事業計画を日々見直していく必要があります。

賃貸経営は、多額の資金を必要とする事業です。事業主として、経営を継続していくために事前準備を怠らず、真摯に賃貸経営に取り組む姿勢が今後ますます重要になることを肝に銘じましょう。

それではこの記事のおさらいです!

1. 二重売買契約の仕組みとは?
二重売買契約とは、金融機関用の契約書と実際の契約書を2通作成し、金融機関に提出する契約書には実際の売買契約書に記載のある売買価格よりも高い金額を記載することによって、多くの融資を引き出す手法のことを言います。

2. 二重売買契約のなにが問題?
第一に、金融機関に提出された書類が偽造されていることが大きな問題です。偽造された契約書であることが明らかになった場合、アパートローンの一括返済を求められる可能性があります。また、二重売買契約によって借入額が増えれば、その分、毎月の返済額も増えるため、借入人の負担が大きくなる点も問題と言えるでしょう。

3. 二重売買契約を回避するためにするべきことは?
トラブルに巻き込まれないためには、契約書などの書類は慎重に確認することが大切です。不動産の売買契約書はもちろん、アパートローンの契約書である金銭貸借契約書など、確認作業を業者に任せるのではなく自分で行うようにしましょう。
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この記事の監修者

キムラ ミキ
キムラ ミキ

AFP/社会福祉士/宅地建物取引士/金融広報アドバイザー

日本社会事業大学 社会福祉学部にて福祉行政を学ぶ。大学在学中にAFP(ファイナンシャルプランナー)、社会福祉士を取得。大学卒業後、アメリカンファミリー保険会社での保険営業を経て、(マンションデベロッパー)にてマンション営業、マンション営業企画に携わった。その後、2008年8月より独立し、現在、自社の代表を務める。

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