【台風・地震・洪水】多発する災害時代に賃貸住宅の大家さんがするべき備えとは

2024.07.30更新

この記事の監修者

逆瀬川 勇造
逆瀬川 勇造

AFP/2級FP技能士/宅地建物取引士/相続管理士

【台風・地震・洪水】多発する災害時代に賃貸住宅の大家さんがするべき備えとは

災害大国日本において、台風や地震、洪水などの災害が起こった時の対策を具体的なリスクや対処法をご紹介します。

賃貸経営にとって自然災害は避けて通れないリスクです。
記事を参考に、効果の高い減災対策を!

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目次

台風・地震・大雨…災害への備えは万全ですか?

近年、気候変動などを理由に激甚災害が増えてきています。たとえば、内閣府の「過去5年の激甚災害の指定状況一覧」を見てみると、令和元年に4件、平成30年に5件、平成29年に4件、平成28年に5件、平成27年に4件と毎年一定のペースで激甚災害が発生しています。
また、中小企業庁の「わが国における自然災害の発生状況」を見てみると、1971-1975年には発生件数が12件だったものが、2011-2015年には47件と、増減を繰り返しながらではあるものの、右肩上がりに少しずつ増えてきていることが確認できます。
住居を求める方も、こうした状況は敏感に察知しており、災害に対して強い住宅を求める傾向は強くなっているといえるでしょう。

水害リスクの重要事項説明が義務化

また、こうした世の中の流れを反映する形で、2020年7月17日に宅建業法施行規則の一部改正がなされ、8月28日に公布されたものでは、不動産取引の際に説明する必要のある重要事項説明について水害リスク情報の説明が義務付けられることになりました。

具体的には、重要事項説明時に、水害ハザードマップにおける対象物件の所在地を説明する必要があります。

※重要事項説明書とは宅建業法に定められた手続きで、不動産の契約をするにあたり、契約前に取引する物件の重要な事項について宅地建物取引士の資格保有者が説明する義務があるというものです。

自然災害における大家さんのリスクとは

自然災害が起こった場合、賃貸物件が損壊するなどして大家さんが損害を被る可能性があります。大家さんとしては、こうしたリスクに備えてしっかりと保険に入っておくことが大切です。以下、いくつかの項目に分けて、自然災害が発生した時の大家さんのリスクについて見ていきましょう。

高額な建物修繕費用負担の恐れ

まず、賃貸物件については原則として、入居者が賃貸物の使用や収益に必要な修繕をする必要があります。しかし、自然災害など入居者の責任でない損害が発生した場合には、入居者がその責任を負う必要はありません。

つまり、自然災害で賃貸物件が損壊してしまったような場合には大家さんが修繕する必要があるといえます。

また、大家さんが賃貸物件を修繕する際には、入居者はこれを拒むことができないとされており、必要があれば修繕中に入居者に一時立ち退きを求めることもできます(民法606条)。

Q.ベランダに倒れやすい植物などを置いて窓ガラスが破損した場合の修理代は?

自然災害を理由とする損壊であったとしても、入居者に過失がある場合には入居者が修繕費を負担する必要があります。この質問のように、ベランダに倒れやすい植物を置いているようなケースでは、修繕費を入居者が負担する必要があるといえるでしょう。

管理を怠ると賠償責任を問われることも

自然災害を理由に、家財が破損したり人がケガしたりした場合には原則として入居者の責任となりますが、建物が適切に管理されていないことを理由に、家財に損害が生じたり、人をケガさせてしまったりした場合には、その責任を問われ、費用を請求される可能性があります。

こうした時におすすめなのが、「施設賠償責任保険」です。施設賠償責任保険に加入しておけば、建物の外壁が落ちて通行人や車両に損害を与えてしまった場合など、幅広く保障を受けることができます。また、この保険は比較的安価な点もポイントで、万が一に備えて大家さんはぜひ加入しておくことをおすすめします。

施設賠償責任保険についてはこちらの記事で詳しく解説しています。

Q.河川氾濫で家財が水浸しに。大家さんの火災保険で補償はしてくれないの?

河川の氾濫で家財が水浸しになってしまったようなケースでは、火災保険の適用対象外となります。個人の家財の保証については、「入居者家財保険」の利用が便利です。

入居の際に、この入居者家財保険に加入することを条件にしておくと安心できるでしょう。なお、水害を付けると保険料が高くなってしまいますが、1階の入居者は水浸しになる可能性を考慮して、付けておくようにすることをおすすめします。

入居者家財保険については、以下の記事で詳しく解説しています。

賃借契約終了で家賃が請求できなくなる

自然災害により賃貸物件が全壊して住めなくなったようなケースでは、賃貸借契約が終了となり、家賃が請求できなくなってしまいます。こうしたケースでは、「火災保険の家賃保障特約」を活用することをおすすめします。

家賃保障特約に加入していると、自然災害などを理由に建物が損壊し、家賃を得られなくなった場合に、損失した家賃について補償を受けることができます。

Q.入居者が避難した場合の家賃はどうなるのか?

入居者が自然災害を理由に避難した場合、実際に賃貸物件に住めるかどうかで、家賃を受け取れるかどうかが変わります。

具体的には、水道や電気などのライフラインが止まってしまい、避難せざるを得なくなった場合には、家賃を請求することはできません。一方、ライフラインが止まっておらず、住める状態であるのにも関わらず自主避難しているようなケースでは、家賃を全額請求できます。

自然災害は避けられないが備えて減災することは可能

自然災害は賃貸経営に取り組むにあたって100%回避することはできませんが、自然災害に備えておくことで減災することは可能です。

減災に必要なポイントとしては、以下のようなものが優先度順に挙げられるでしょう。

  1. 土地性格把握すること
  2. 建物を管理すること
  3. 保険で備えること
  4. コミュニティーによる共助をすること

ここではとくに、どの災害にも共通する1と4について見ていきたいと思います。

土地の危険度、把握していますか?

まずは、保有する賃貸物件について土地の危険度を把握するようにしましょう。

ハザードマップ

ハザードマップとは、自然災害が発生した際に、被害想定区域や災害時の避難場、防災関係施設の位置などが地図にまとめられたものです。水害や地震、津波、土砂災害など自然災害の種類ごとにハザードマップがあるので、すべて確認したうえで必要な対策を取ることが大切だといえます。

地域危険度測定調査

地域危険度測定調査とは市街地の変化など最新データを考慮したうえで地域ごとの災害に対する危険度を測定した調査のことで、エリアごとに危険度の数値やランクが見られるようになっています。

特に危険度が高いエリアにある場合には、保険など災害に対する備えを万全にすることが求められるでしょう。

入居者とのコミュニケーションも大切

災害対策については、建物のハード面や保険による備えはもちろんですが、入居者の意識づけも重要なポイントとなります。

共用部の掲示に、自治体のハザードマップを掲示するなどして防災を呼び掛けたり、いざ災害が起こった時に問題が起こらないよう共用部を整理したり、また緊急時の安否確認をできるようコミュニティーとして共助するような環境づくりをしていくことが理想だといえます。

防災マンションに学ぼう

防災対策、減災対策については防災型マンションに学ぶところが多いです。こうした防災型マンションは、そもそもRC造であることや、免震性能、制震性能が高いといった、性能の高さだけでなく、被災した時の電力や水、トイレの確保なども考えられている点がポイントだといえます。

賃貸においては管理が大変ではありますが、防災グッズを各庫に配備したり、共有部の掲示で入居者の意識を刺激したりといった方法で、災害対策することが考えられるでしょう。

台風被害を減らすための対策

ここからは、先に取り上げた減災に必要なポイントの2.建物を管理することと、3.保険で備えることについて、台風、洪水、土砂崩れなど災害ごとに見ていきたいと思います。

まずは台風に対する備えを解説します。

火災保険を確認しよう

台風に関しては、火災保険の内容を確認するようにしましょう。具体的には、火災保険の補償内容に風災や水災が入っているかを確認することが大切です。

特に水災については、保障を入れるか入れない方で保険料が大きく変わるため、エリアの特性としての洪水が起こる可能性をしっかり見極めることが大切です。

なお、火災保険の水災保障では、原則として、床下浸水は保険の支払い対象外となる点に注意が必要です。

建物の点検と修繕を

また、定期的に建物の点検と修繕を行っておくことが大切です。具体的には、以下のようなことを実施するようにします。

・屋根や外壁、コーキングなど防水処理の点検・修繕
・雨どいや排水溝の掃除
・土嚢や塀などで浸水を防ぐ

台風に対する対策としては、ガラス部分が古く単板ガラスの場合には、風に対する強度が強いペアガラスに換えることや、シャッターを付けることも検討するとよいでしょう。

地震被害を減らすための対策

次に、地震による被害を減らすための対策について解説していきます。

地震保険を検討しよう

地震に対する保険としては、地震保険への加入を検討するのがよいでしょう。ただし、地震保険は地震災害にあった方の生活再建を目的として国と保険会社が共同で作ったものですが、最高補償額でも建物再建には足りないことが多い点に注意が必要です。

なお、損害の額が家財全体の時価の80%以上になった時に初めて保険金額の全額が支払われるなど、条件もやや厳しくなっています。また、保険料も高めなので、加入の際には慎重に判断することが求められるでしょう。

耐震補強は万全ですか?

上記理由により、地震に対する対策としては、地震保険に加入するより、耐震補強を万全にする方が安心できるかもしれません。大掛かりな耐震補強工事には多額の費用がかかることもありますが、ちょっとした柱などの構造の補強だけでも、十分な効果が見込まれることも少なくありません。

住宅密集地には火災対策も必須

また、地震が起こった後、住宅密集地だと保有する賃貸物件から火災が発生するほか、隣接する建物から飛び火するリスクもある点に注意が必要です。

火災保険に加入するのはもちろんですが、建物の一部に不燃資材を施行するなどして、火が燃え移らないようにする対策も考えるとよいでしょう。なお、自治体によっては、不燃化促進事業で建て替えに補助金が出る場合もあるので、一度確認してみるといいでしょう。

まとめ

賃貸経営に取り組むにあたり、自然災害は避けては通れないリスクであり、建物の管理や保険への加入など、エリアの特性に応じて適切に対策することが求められます。

賃貸経営は投資ですから、すべての対策をとって採算に合わなくなるようでは本末転倒でしょう。この記事の内容を参考に、ハザードマップや地域危険度測定調査などを活用して、効果の高い減災対策から実施していくことをおすすめします。

賃貸経営にとって自然災害は避けて通れないリスクです。
記事を参考に、効果の高い減災対策を!

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逆瀬川 勇造
逆瀬川 勇造

AFP/2級FP技能士/宅地建物取引士/相続管理士

明治学院大学 経済学部 国際経営学科にてマーケティングを専攻。大学在学中に2級FP技能士資格を取得。大学卒業後は地元の地方銀行に入行し、窓口業務・渉外業務の経験を経て、2011年9月より父親の経営する住宅会社に入社し、住宅新築や土地仕入れ、造成、不動産売買に携わる。

●紹介されている情報は執筆当時のものであり、掲載後の法改正などにより内容が変更される場合があります。情報の正確性・最新性・完全性についてはご自身でご確認ください。
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