単身世帯は年々増加している
日本の人口は、2004年をピークに減少している一方で、「単身世帯」は年々増加しており、2015年の単身世帯数は1841万7922世帯(一般世帯の34.6%)にのぼっています。これは、2010年から約2.2%増加している数字であり、今後も増え続けると予想されていますが、なぜ人口が減少しているにも関わらず、単身世帯は増加しているのでしょうか。
主な原因は未婚や晩婚化です。2015年の国税調査によれば、未婚率は、30~34歳では男性の約2人に1人(47.1%)、女性の約3人に1人(34.6%)が未婚で、35~39歳では、男性の約3人に1人(35.0%)、女性の約4人に1人(23.9%)が未婚となっています。また、晩婚化も著しく進んでおり、厚生労働省の報告によれば、婚姻年齢は昭和50年以降、男女とも年々上昇傾向となっており、今後の単身世帯のますますの増加は想像に難くありません。
増加率が高いのは高齢者
単身世帯というと、学生や新社会人などの若い世代を想像するかもしれませんが、「みずほ情報総研」の推計によると、2015年時点では20代が最も多くの単身世帯を抱えている年齢層でした。しかし、20代の一人暮らしは少子化の影響を受けて、2030年までに2割ほど減っていくと考えられています。
そして、近年では高齢化の影響を受け、単身高齢者の増加が著しく、次いで50代の単身者が多くなっています。
80歳以上の単身世帯が最も多くなる
2030年になると、高齢化の影響で最も多くの単身世帯を抱えるのは80歳以上の世代と言われています。これは、いわゆる「団塊の世代」と呼ばれる世代が80歳を迎えることによるもので、2030年には80歳以上の単身世帯数は、2015年の1.6倍にあたる334万人にのぼると推測されています。
50代の単身世帯数も増加傾向に
さらに、50代の単身世帯数は307万人と推計され、80歳以上の高齢者ほどではありませんが、2015年から1.4倍になるとみられています。これは、未婚化が進展することによるものです。50歳で生涯一度も結婚したことがない人の割合を「生涯未婚率」といいますが、現在30~40代の人が50代になっても結婚せず、単身者でいる可能性が高いことが予想されていることから、生涯未婚率は2015年の男性23%、女性14%から、2030年には男性28%、女性19%に推移すると予測されています。
2040年には単身世帯数が約40%と予想
また、2040年には単身世帯数が全世帯の39.3%にまで達するとみられており、これは2015年よりも5%高い数字になっています。今後も単身世帯数は増え続け、特に高齢者や50代の単身者が増えていくことが予想されます。単身者向けの物件を所有している大家さんとしては、若い世代のみならず、幅広い世代の単身者が増えるということで、空室対策のためには、各世代の単身者のニーズを把握していかなければなりません。
単身世帯増加の影響を受けて賃貸住宅の需要が変化している
さて、前項までで今後の人口推移や、単身世帯の増加について説明してきました。ここからは、賃貸住宅の需要にフォーカスを当てながらお伝えしていきます。
今後、単身物件の需要が増えていく?
人口減少によって「賃貸住宅の需要も落ち込んでいくのでは?」と思われるかもしれませんが、実はそうとも限りません。冒頭で説明したように、現在、単身世帯の増加は著しい上、さらに住宅改良開発公社の報告書によれば、賃貸住宅全体の55%を単身者が占めているといったデータもあります。これらの状況を鑑みれば、賃貸需要、中でも、単身物件の需要が増えていくことは容易に想像できるのではないでしょうか。
単身者のニーズと空室対策
単身物件の需要が増えていくのであれば、単身物件を所有している大家さんはその需要に向けて、準備をする必要があります。どの世代の、どのような入居者をターゲットに入居者募集を行っていくか、また、各世代でどのようなニーズがあるのかを考えながら、単身者のニーズと空室対策について見ていきましょう。
大学生のニーズと空室対策
大学生のニーズには、まず、ネット環境の利便性が挙げられます。今や、大学生の約70%がAmazonや楽天などのECサイトを利用しており、改めて、インターネットはなくてはならないものであることが伺えます。
そのため、大学生をターゲットに空室対策を講じるのであれば、たとえば、物件にネット環境を整えておき「インターネット無料」にするなどが効果的です。ただし、ただ設備を整えるだけでなく、細かい話になりますがインターネットの速度についても確認し、快適なネット環境を提供することが大切です。
社会人のニーズと空室対策
次に、社会人が求めるニーズを考えてみましょう。マイナビの調査によれば、週に5回以上自炊をするという社会人は46.5%となっており、社会人は忙しいため自炊をしているイメージがあまりないものの、意外にキッチンを多く使用していることが伺えます。これを踏まえると、単身者向けの物件で主流となっている一口コンロのミニキッチンから、広々としたキッチンに変えることで、社会人入居者へのアピールにつながる可能性が期待できます。
その他のニーズを把握するには、社会人と一口に言っても年齢や性別、ライフスタイルなどは多岐にわたるため、20代女性のニーズは?50代男性のニーズは?といったように、性別も意識しながら、さらにターゲットを絞ると良いでしょう。
高齢者のニーズと空室対策
高齢者をターゲットにするのであれば、段差をなくしたり、手すりを設置したりなど、高齢者にとって住みやすい環境を提供することが必要になります。また、単身の高齢者の場合は、親族がいないために保証人が立てられないことも珍しくありません。その場合は、保証会社を活用するなどして高齢者が入居しやすい条件に緩和するなどの方法があります。
なお、バリアフリー化のリフォーム工事にかかる費用については、行政から補助金が出るケースもあるので、一度確認してみると良いでしょう。
単身者のニーズは多種多様
このように、世代別のニーズをピックアップすると、改めて多種多様であることが分かります。大切なのは単身者と一括りにせず、自分の物件に住む単身者であればどのようなニーズがあるかを考えることです。入居者ターゲットの性別や年齢などを具体的にイメージしながら、ニーズの把握に努めていきましょう。
まとめ
単身者向け物件のニーズや空室対策についてお伝えしてきました。まずは、今回解説したポイント以外に「賃料改定」や「広告宣伝の見直し」などの基本的な対策も忘れずに行う必要があります。その上で、所有している賃貸物件のターゲットを考え、そのターゲットのニーズに合わせた設備を整えることが重要です。適切な空室対策を行い、入居者を獲得していきましょう。
監修中村 昌弘
【資格】宅地建物取引士
新卒で不動産ディベロッパーに勤務し、用地仕入れ・営業・仲介など、不動産事業全般を経験。入居用不動産にも投資用不動産にも知見は明るい。独立後は、不動産事業としては主にマンション売却のコンサルタントに従事している。趣味は読書。好きな作家は村上春樹、石原慎太郎。
●紹介されている情報は執筆当時のものであり、掲載後の法改正などにより内容が変更される場合があります。情報の正確性・最新性・完全性についてはご自身でご確認ください。
●また、具体的なご相談事項については、各種の専門家(税理士、司法書士、弁護士等)や関係当局に個別にお問合わせください。