賃貸経営における「イールドギャップ」の基本と考え方をご紹介

2023.01.11更新

この記事の監修者

キムラ ミキ

キムラ ミキ

【資格】AFP/社会福祉士/宅地建物取引士/金融広報アドバイザー

賃貸経営における「イールドギャップ」の基本と考え方をご紹介

物件の収益性を測る指標、イールドギャップ。この記事では、イールドギャップの概要やシミュレーション方法などをご説明します。

目次

物件の「収益性」について考えたことはありますか?

賃貸経営を行ううえで、物件の「収益性」について考えたことはありますか?収益性とは、言い換えれば「稼ぐ力」のことです。

安定した家賃収入に魅力を感じて、賃貸経営を検討、スタートしたという方も多いと思います。しかし賃貸経営は文字どおり、賃貸物件を活用した事業経営です。賃貸物件を取得したからといって、何もしなくても毎月決まった家賃収入が得られるとは限りません。事業の経営者である大家さんとして、賃貸物件の稼ぐ力を見極め、どのような工夫を凝らして収益をあげていくか。つまり「収益性」を意識して賃貸経営を行うことが大切なのです。

利回りに関するおさらい

イールドギャップの概要についてご説明する前に、その基礎知識として、利回りについておさらい的にご説明をいたします。

利回りの種類

利回りにはいくつか種類があります。ここでは、「表面利回り」、「実質利回り」を取り上げてご説明いたします。

【表面利回り】

年間家賃収入÷賃貸物件の取得価格×100

上記、計算式で算出されるシンプルな利回りです。入居者の有無に関わらず満室を想定した家賃収入で計算する場合には、想定表面利回りとなります。

【実質利回り】

(年間家賃収入-諸経費)÷賃貸物件の取得価格×100

上記計算式で算出される利回りです。家賃収入から、諸経費を差し引いた実質的な収入(収益)で計算するため、より現状に即した利回りを算出できます。入居者の有無に関わらず、満室を想定した家賃収入で計算する場合には、想定表面利回りとなります。

イールドギャップとは

賃貸経営におけるイールドギャップとは、投資利回りからアパートローン金利を差し引いたものをいいます。たとえば、家賃収入から諸経費を差し引いた年間収入が、250万円。賃貸物件の取得価格が3000万円である場合、実質利回りはおよそ8%となります。仮にアパートローンの金利が2%だった場合、イールドギャップは、6%となります。このように計算されるイールドギャップの高低によって、賃貸物件の収益性を測ることができます

不動産会社の営業担当者から提示されるイールドギャップは、表面利回りを利用したイールドギャップも多いようです。またインターネット上でもイールドギャップについて表面利回りと実質利回りの考えが混同されている情報もしばしばみられます。そのため、賃貸経営を行う大家さんも、イールドギャップの内容をきちんと理解しておいたほうがよいでしょう。

イールドギャップの計算で利用する利回りは、実質利回りの方が望ましいです。なぜなら、金利の低いアパートローンを利用できている場合、表面利回りで計算し、イールドギャップが高くても、諸経費(賃貸経営に関わる実支出であり税務上の経費である減価償却費は含みません)がどれくらい収益を圧縮しているのかが見えないからです。

賃貸経営におけるイールドギャップの考え方

先ほどお話したように、イールドギャップの高低によって、賃貸物件の収益力を測ることができます。高低を判断する目安は一般的に2%といわれていますが、その目安よりもイールドギャップが高い場合、低い場合でどのような状況を示しているのかについてご説明いたします。

イールドギャップが高い場合

イールドギャップが高い場合は、「利回りが高い物件でアパートローンの金利が低い」ケースのほかに、「利回りが低い物件でアパートローンの金利が低い」ケースも考えられます。これらのケースのように、イールドギャップが高い賃貸物件は収益性が高いといえるため、キャッシュフローに余裕のある賃貸経営を行える可能性が高いでしょう。

イールドギャップが低い場合

イールドギャップが低い場合は、「利回りが高い物件でアパートローンの金利も高い」ケースのほかに、「利回りが低い物件でアパートローンの金利が高い」ケースが考えられます。これらのケースのようにイールドギャップが低い賃貸物件は、収益性の低い賃貸物件といえます。そのため、キャッシュフローに余裕がない賃貸経営となる可能性があります。さらに、将来の家賃値下げや金利上昇という要因が重なると、さらなるイールドギャップの低下も考えられるでしょう。

イールドギャップのシミュレーション

たとえば、3500万円で1K×6室のアパートを取得し、1室の家賃が6万円と設定し満室経営をしている場合で考えてみましょう。年間の家賃収入は432万円。諸経費は年間家賃収入の20%と想定します。この場合、表面利回りはおよそ12.3%、実質利回りはおよそ9.8%となります。この時、アパートローンを以下の設定で借り入れていた場合のイールドギャップを考えてみましょう。

【ケース1】表面利回りで考えた場合

アパートローン金利 3% 
イールドギャップは、12.3%-3%=9.3%

【ケース2】実質利回りで考えた場合

アパートローン金利 3% 
イールドギャップは、9.8%-3%=6.8%

イールドギャップは目安とされている2%よりも上回っているので収益力の高い賃貸物件といえるでしょう。また、表面利回りで考えたケース1と比較すると諸経費を考慮した分、低い数値が算出されています。

【ケース3】実質利回りで考えた場合(金利が高くなるとどうなるか)

アパートローン金利 5% 
イールドギャップは、9.8%-5%=4.8%

ケース3は、他の条件はケース2と同じで、アパートローン金利が高くなった場合ですが、イールドギャップは低下しています。

【ケース4】実質利回りで考えた場合(諸経費が増加するとどうなるか)

空室発生を想定し、家賃を5万円に引き下げた場合の想定実質利回り(諸経費は修繕費も加味して年間家賃収入の30%に上昇と想定)を考えて、イールドギャップを計算してみます。アパートローン金利は3%とします。

想定実質利回りは7.2%となるので、
イールドギャップは、7.2%-3%=4.2%

イールドギャップは目安とされている2%よりも上回っているものの、ケース2と比較すると低下しています。

イールドギャップの注意点

イールドギャップは、賃貸物件の収益性を測れるとはいえ、あくまでも指標の1つとしてとらえておく必要があります。ここからはその理由についてご説明いたします。

イールドギャップは変化する可能性がある

現在、イールドギャップが高いから大丈夫と安心するだけではなく、将来予測にも活用するといいでしょう。上記のシミュレーションで見たように、金利上昇、諸費用の増加、家賃収入の低下といった要因により、イールドギャップは変化する可能性があります。あくまでも目安ではありますが、どこまで金利が上昇したら、どこまで家賃収入が低下したら、どこまで諸経費がかかったら、目安である2%を割り込むのか、などを考えてみましょう。

イールドギャップは返済期間を考慮していない

先にもご説明いたしましたが、イールドギャップの計算には実質利回りを利用するようにしましょう。表面利回りを利用したイールドギャップにはアパートローンの返済期間による返済額の増加が考慮されていません

たとえば、アパートローン金利が3%であっても、返済期間が35年と20年では、返済金額は年額にしておよそ70万円以上の差があり、実質利回りに大きな影響を及ぼしますが、表面利回りにはいっさい反映されません。そのため、イールドギャップが高く算出されても実際に手元に残るお金、つまりキャッシュフローが少ない、またはマイナスになってしまう可能性もあります。

賃貸物件選びの際、提示されたイールドギャップがどのように計算されているのかを必ず確認するようにしましょう。表面利回りを利用したイールドギャップである場合は、返済金額やそのほかの諸経費を想定した実質利回りによるイールドギャップを計算し直し、慎重に検討するようにしましょう

まとめ

イールドギャップは、賃貸経営の収益性を測る1つの目安です。しかし、計算方法によっては反映されない情報もあるため、イールドギャップを活用する際は、その内容をじっくりチェックする必要があります。また、イールドギャップの数値に一喜一憂するのではなく、将来予測や出口戦略の検討、キャッシュフローの確認にも目を向けましょう。

イールドギャップの知識深耕をきっかけとして、賃貸経営の収益性を意識し、維持および向上のため、どのような工夫を講じればよいのか考えて賃貸経営に生かしてみてはいかがでしょうか。

この記事の監修者

キムラ ミキ

キムラ ミキ

【資格】AFP/社会福祉士/宅地建物取引士/金融広報アドバイザー

日本社会事業大学 社会福祉学部にて福祉行政を学ぶ。大学在学中にAFP(ファイナンシャルプランナー)、社会福祉士を取得。大学卒業後、アメリカンファミリー保険会社での保険営業を経て、(マンションデベロッパー)にてマンション営業、マンション営業企画に携わった。その後、2008年8月より独立し、現在、自社の代表を務める。

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