黒字なのに倒産する!?認識しておかないと怖い賃貸経営の「デッドクロス」とは

2023.01.11更新

この記事の監修者

キムラ ミキ

キムラ ミキ

【資格】AFP/社会福祉士/宅地建物取引士/金融広報アドバイザー

黒字なのに倒産する!?認識しておかないと怖い賃貸経営の「デッドクロス」とは

この記事では、デッドクロスの概要や発生の仕組み、デッドクロスの回避策や発生した場合の対応についてご説明します。

目次

「税務上の黒字に安心」の落とし穴

満室経営で、確定申告も黒字だからといって安心ではありません。もし、確定申告では黒字のはずなのに、往々にして手元資金が乏しくなってしまっているという大家さんがいたら、それは黄色信号です。キャッシュフローの点検をしてみましょう。税務上黒字であっても、手元資金が乏しいと賃貸経営が破綻してしまう恐れもあります。

手元資金が不足すると生じること

家賃収入で、アパートローン返済、共用部分の水光熱費、管理委託費など、経常的な諸費用の支払いは行えていても、常に手元資金が乏しい場合、一時的・突発的な支出に対応ができない可能性があります。

たとえば、税金や故障した設備の交換などに対応ができません。個人資産での補填(立替)ができる範囲であれば問題ありませんが、そのような状況が継続するのが望ましくないのは、いうまでもないでしょう。

設備交換に迅速に対応できなければ、入居者の不満や不信感が募り、退去や家賃収入の減少につながる可能性もあります。また、税金の滞納があると、新規にアパートローンを利用できなくなります。

このように、税務上は黒字でも手元資金が不足すると、賃貸経営の継続・拡大が難しくなる可能性があるため、キャッシュフローの確認が重要といわれているのです。

賃貸経営のデッドクロスとは

冒頭でふれた、「デッドクロス」という言葉は、株式投資でも使われる言葉なのでご存じの方もあるかもしれません。株式投資におけるデッドクロスは、大まかにいえば短期間の株価平均の動きが長期間の株価平均の動きを下回るタイミングのことを言います(正確には、短期の移動平均線が長期の移動平均線を上から下に交差する時)。これは、株価が下落する可能性があるサインなので、売却のタイミングであることを示していると言われています。

賃貸経営における「デッドクロス」は、株式投資における意味合いと異なります。その概要について、ご説明を致します。

デッドクロスとはなにか

賃貸経営におけるデッドクロスとは、簡単に言えば「アパートローンの返済額の内、元金部分が、減価償却費を上回ってしまう状態」です。これは、手元資金の不足に悩む事態に陥り、黒字倒産が生じる恐れを示すサインです。

どんなときにデッドクロスが発生するか

デッドクロスが発生するのは、賃貸物件(主に建物)の減価償却の完了後です。その時期にデッドクロスが発生するのは、賃貸経営において、確定申告の計算における税務上経費と、キャッシュフロー計算における経費が異なる点に要因があります。

先ほどふれたアパートローンの返済額の内、利息部分は税務上の経費ですが、元金部分は税務上の経費ではありません。しかし、いずれも実際に支出は発生します。アパートローン借り入れ当初は、返済額に占める利息部分の割合が大きいですが、返済が進むにつれて元金部分の割合が大きくなっていきます。しかし、アパートローン返済額は一定です。つまり、実際の支出は変わらなくても、税務上の経費が小さくなっていきます。

また減価償却費は、税務上の経費ですが、実際には支出を伴いません。耐用年数が経過し、減価償却が完了すると税務上の経費が減少してしまいます。

その結果、税務上の利益が増大し、税金負担などが増加するため、キャッシュフローが減少してしまう可能性が高まります。

減価償却費

減価償却費は、耐用年数に応じて、税務上の経費として計上できるものです。実支出は伴いません。建物の構造・使途によって耐用年数は異なります。

アパートローン返済

アパートローン返済額のうち、税務上の経費となるのは利子部分のみとなります。図のように、返済額に占める利子部分の割合は、返済が進むにつれて減少していきます。結果として、税務上は利益が増加しますが、返済額負担が減少するわけではありません。

その他必要経費

税務上の経費が減少すると税務上の利益が増加します。その結果、所得税・住民税は増加します。なお、所得税・住民税は、税務上の経費ではありません。

デッドクロスを回避するための対策

デッドクロスを回避するためには、キャッシュフローを定期的に点検し、対策を講じる必要があります。どのような対策方法を講じればよいか、一例をご紹介します。

収入改善

収入が増加すれば手元資金が不足する事態を回避できます。所有する賃貸物件の賃料設定が適切であるかを確認してみましょう。周辺の類似物件と比較して、賃料設定が低い状態になっていないか確認し、賃料の値上げを検討してみるのも一案です。賃料値上げを既存入居者へ交渉できないわけではありませんが、退去につながる可能性もあるため、新規入居者募集の際に賃料値上げに踏み切る方がよいでしょう。

なお、生活利便施設(ショッピング施設、新駅など)が新設されると、賃料相場が変化する可能性があります。そのような賃料値上げに対する客観的事実や根拠がある場合には、既存入居者にも、契約更新時に交渉を持ち掛けやすいかもしれません。大家さんとして、賃貸物件の価値向上に関係する周辺環境の変化などの情報にはしっかりアンテナをはっておきましょう。

アパートローンの借り換え

アパートローンの借り換えを行うのもデッドクロス回避の対策になります。借り換えの結果、アパートローン返済額に大きな差が生じなかったとしても、利子部分の割合は増大します。アパートローン返済額に占める、税務上の経費である利子割合を増大させれば、利益を圧縮できるため、手元資金の減少を回避することにつながります。なお、借り換えには審査があります。賃貸経営状況が良好であると示せる資料を準備するためにも、税務資料、キャッシュフローの確認を行いましょう。

頭金を増やす、繰り上げ返済を行う

自己資産に余裕があれば、早めに繰り上げ返済を行うもの一案です。アパートローン返済額を減少させれば、手元資金を経常的に多く残せます。そのため、減価償却完了後も、デッドクロスが発生する可能性を回避できます。
また、2棟目を検討する際に、頭金を多くしておくことで、アパートローン返済負担を軽減できるため、将来的なデッドクロスの発生を回避できます。

デッドクロスになったときにできること

この記事をご覧になっている大家さんのなかには「既にデッドクロスが発生しているかもしれない」と感じた方もいらっしゃるかもしれません。デッドクロス発生による一番の懸念は手元資金の不足です。まずは、帳簿やアパートローン返済計画表等を確認し、状況の把握を行いましょう。また、手元資金が乏しいのは過剰経費の可能性もあります。毎月の収支状況を確認し、削減できそうな経費がないかを考えてみることも大切なことです。そして、削減した経費を納税資金などのために積み立てておくことで、一時的な支出にも余裕をもって対応できるでしょう。

なお、2棟目の賃貸物件の取得を検討されている方は、条件が見合えばその検討を実行に移すのもよいでしょう。新しい賃貸物件(主に建物)の減価償却費が発生することで、利益圧縮を図ることができるからです。いずれにしても、正確に現状を把握し、手元資金を増やすためにどうしたらよいかを専門家に相談しながら考えていく姿勢が大切です。

まとめ

デッドクロスは、対策を講じなければ、賃貸経営に必ず生じる危機です。デッドクロスの概要および発生原因を知り、早い段階から対策を講じておく姿勢が大切です。そのためには、日ごろから、大家さんとして毎月の収支状況をチェックし、キャッシュフロー推移を把握しておきましょう。経常的な経費の支払いができている状況に安心して、収入を使い切ってしまうのは赤信号です。大家さんとして賃貸経営の継続・拡大を考えるのであれば、突発的な支出や将来的なデッドクロスの発生などにも備え、長期的な視点で余裕をもった賃貸経営の見通しを考えておくのも大家さんの大切な務めです。

この記事の監修者

キムラ ミキ

キムラ ミキ

【資格】AFP/社会福祉士/宅地建物取引士/金融広報アドバイザー

日本社会事業大学 社会福祉学部にて福祉行政を学ぶ。大学在学中にAFP(ファイナンシャルプランナー)、社会福祉士を取得。大学卒業後、アメリカンファミリー保険会社での保険営業を経て、(マンションデベロッパー)にてマンション営業、マンション営業企画に携わった。その後、2008年8月より独立し、現在、自社の代表を務める。

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